生態系研究フィールド
-実験室から自然生態系への足がかり-
特集 自然共生社会構築 生物多様性の危機に対処する
【研究施設・業務等の紹介】
上野 隆平

試験用の水田(図2)は大区画のものが4面と、小区画のものが8基あり、実際にイネが栽培されています。このように一般的な水田を作り、肥料の投入のしかたを変えて水田から流出する水の栄養をモニターする実験や、生態系を用いて、農薬が水田の生物多様性に与える影響の実験に利用されています。水田はトンボなどの水生生物の生息場所として重要な役割がありますが、その機能の詳細を調べるためには、実際に調べやすい水田を野外に作って研究する意義があるわけです。
有底枠(枡形のコンクリートの囲いに土を入れて使うもので、土壌間隙水の採集ができます)は土だけで畑のように使うことも、水をためて水田や池のように使うこともできます。ここでも実験用植物の栽培や絶滅危惧植物の維持が行われています。また、容量が小さく環境を制御しやすいことから、土壌の水分を変えて植物を育てた時の植物の反応などを調べるのに適しています。
実験池は、湿地を掘って作った水深約4mの人工の池で、魚類は生息していません。そのため魚類によく捕食されるプランクトンやフサカという水生昆虫などが多数生息しており、農薬が水生生物に与える影響を調べるための実験に利用されています。魚類がおらず、岸には水草帯が発達しているため棲んでいる水生昆虫の種類も多く、環境省の準絶滅危惧種なども見られます。

このほか、管理棟(図3)の中には種子庫や実験室が備わっており、生化学実験も可能です。また、畑地や露地では、絶滅危惧植物の栽培、植物による放射性物質の吸収能力の実験、研究用のミツバチの飼育などが行われています。
(うえの りゅうへい、生物・生態系環境研究センター
生物多様性資源保全研究推進室 主任研究員)
執筆者プロフィール:

普段は湖底のイトミミズやユスリカを扱っています。こういう生き物も酸欠だったり環境が悪いと減ってしまうんですよ。採った泥がウネウネ動いているのを見るととっても幸せな気持ちになります。