ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2020年12月28日

生態系研究フィールド
-実験室から自然生態系への足がかり-

特集 自然共生社会構築 生物多様性の危機に対処する
【研究施設・業務等の紹介】

上野 隆平

生態系研究フィールド平面図
図1 生態系研究フィールド平面図。

 研究所の一角に稲穂が実る水田や水鳥が訪れる池などがあります。この一角は生態系研究フィールドと呼ばれ、ここも研究のための実験施設です。野外に開かれた環境である一方、農地のように栽培条件を段階的に変えたり化学物質に曝露することができるようになっており、自然生態系とそれを構成する生物の性質や人間活動が生態系におよぼす影響を研究するための方法を開発・試験するために利用されています。全体で2ha弱の敷地の中に、水田、温室、育苗圃、小区画に隔離された圃場(有底枠)、実験池、管理棟などを備えています(図1)。以下、主な設備について紹介します。

試験用水田の写真
図2 試験用水田。水や土の温度、流出する水の量などを測定できます。育った米は秋に収穫され、収穫祭が催されます。

 試験用の水田(図2)は大区画のものが4面と、小区画のものが8基あり、実際にイネが栽培されています。このように一般的な水田を作り、肥料の投入のしかたを変えて水田から流出する水の栄養をモニターする実験や、生態系を用いて、農薬が水田の生物多様性に与える影響の実験に利用されています。水田はトンボなどの水生生物の生息場所として重要な役割がありますが、その機能の詳細を調べるためには、実際に調べやすい水田を野外に作って研究する意義があるわけです。

温室は3棟あり、ある温室では熱帯植物・水生植物・乾燥地植物など温室らしい植物が栽培され、いろいろな実験に提供されるほか、希少な藻類・コケ類や由緒正しい高等植物など貴重な植物の系統維持のためにも利用されています。また別の温室では、遺伝子組換え植物を扱うために外界と行き来する昆虫が出入りできないように特別な工夫をした構造になっていて(特定網室)、遺伝子組換え生物による自然生態系への影響などが調べられています。温度や湿度の管理ができるのが温室のメリットですが、比較的広い隔離空間としてもよく利用されています。

 有底枠(枡形のコンクリートの囲いに土を入れて使うもので、土壌間隙水の採集ができます)は土だけで畑のように使うことも、水をためて水田や池のように使うこともできます。ここでも実験用植物の栽培や絶滅危惧植物の維持が行われています。また、容量が小さく環境を制御しやすいことから、土壌の水分を変えて植物を育てた時の植物の反応などを調べるのに適しています。

 実験池は、湿地を掘って作った水深約4mの人工の池で、魚類は生息していません。そのため魚類によく捕食されるプランクトンやフサカという水生昆虫などが多数生息しており、農薬が水生生物に与える影響を調べるための実験に利用されています。魚類がおらず、岸には水草帯が発達しているため棲んでいる水生昆虫の種類も多く、環境省の準絶滅危惧種なども見られます。

ユニークなデザインの管理棟の写真
図3 ユニークなデザインの管理棟。この中に実験室、工作室などの設備があります。

 このほか、管理棟(図3)の中には種子庫や実験室が備わっており、生化学実験も可能です。また、畑地や露地では、絶滅危惧植物の栽培、植物による放射性物質の吸収能力の実験、研究用のミツバチの飼育などが行われています。

以上、生態系研究フィールドの設備について簡単にご紹介しましたが、それぞれの設備が野外の環境を小さく切り取った様なものであり、自然生態系で起こっている現象を解析したり自然環境にちょっと手を加えて生物や環境の反応を調べたりするための足がかりとなる施設であることがお分かりいただけると思います。


(うえの りゅうへい、生物・生態系環境研究センター
生物多様性資源保全研究推進室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

筆者の上野 隆平の写真

普段は湖底のイトミミズやユスリカを扱っています。こういう生き物も酸欠だったり環境が悪いと減ってしまうんですよ。採った泥がウネウネ動いているのを見るととっても幸せな気持ちになります。

関連研究報告書

表示する記事はありません