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2016年6月30日

新たな体制で安全確保社会を目指す

【環境リスク・健康研究センターの紹介】

鈴木 規之

 環境リスク・健康研究センターは、昨年度までの環境リスク研究センターと環境健康研究センターの2センターを統合してこの4月に発足しました。従来、およそは生態リスクが主体であった環境リスク研究センターと、健康影響研究を実施してきた環境健康研究センターの研究を合わせることにより、人の健康と生態系の安全確保の課題により積極的に貢献することが目標です。センター内には後でご紹介するエコチル調査コアセンターとリスク評価科学事業連携オフィスの2つの研究事業組織を持ち、直接的な行政貢献を目指した研究事業も展開します。

 環境リスク・健康研究センターには、生態毒性、曝露影響計測、生態系影響評価、リスク管理戦略、統合化健康リスク、病態分子解析、生体影響評価、曝露動態、環境疫学の9研究室が設置されています。このうち、最初の4研究室が環境リスク研究分野を担当し、生態毒性試験の高度化と化学物質の新たな生態影響評価体系の開発、化学物質の環境経由の曝露・影響実態の把握手法の開発、フィールド及び実験研究による生態系における曝露・影響実態の解明と対策、また化学物質等のリスク管理の体系化と環境動態や曝露評価に関する研究などを進めます。後半の5研究室が環境健康研究分野を担当し、環境中の化学物質等、様々な既存あるいは新規環境因子がヒトの健康にもたらす影響の検出、将来の世代にわたり及ぼす可能性のある影響の予見、それらの影響メカニズムの解明とこれを基盤とした影響評価、及び有害な環境因子の同定を行うための実験研究及び疫学調査・研究を行います。2つの分野の専門性を生かしつつ協力をはかり、全体として人の健康と生態系の保全や安全確保に関する研究を進めます。

 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に関する研究事業(エコチル調査コアセンター)が本センターに設置されています。「子どもの健康と環境に関する全国調査」は、環境汚染物質が子どもの健康や成長発達に与える影響を解明するために、国立環境研究所が、研究実施の中心機関であるコアセンターとして進める調査で、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときから13歳になるまで健康状態を定期的に調べる、出生コーホート(集団を追跡する)調査です。全国15地域の調査を担当するユニットセンターの業務を支援し、医学的な面から専門的な支援・助言を行うメディカルサポートセンターと連携して、調査の総括的な管理・運営を行うとともに、研究推進の中核として機能し、環境省が行う環境政策の検討に貢献します。

 リスク評価に関する研究事業(リスク評価科学事業連携オフィス)が本センターの中に設置され、生態毒性標準拠点と環境リスク評価事業拠点の2拠点によりレギュラトリーサイエンス(科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づき的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会とも調査の上で最も望ましい姿に調整するための科学(第4次科学技術基本計画))に関する研究開発と研究事業を進めます。生態毒性標準拠点では、生態リスク評価に資する生態影響試験法の標準化、体系化、試験生物の供給と国際調査等を総括して実施します。また、普及啓発のための実習セミナー等を行います。環境リスク評価事業拠点では、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)等や環境省のリスク評価関連事業での科学的なリスク評価の実施、基準・指針値等の設定やリスク評価手法の検討により、環境行政の支援と行政や一般へのリスク関連情報の提供を行います。また、化学物質リスク関連の化学物質データベース(Webkis- Plus)や環境測定法データベース(EnvMethod)からの情報公開を継続的に実施します。

 本研究センターで行う中心的な研究は安全確保研究プログラム(図)になります。この研究プログラムは「環境研究・環境技術開発の推進戦略について」(平成27年8月20日中央環境審議会答申)のうち、重点課題(14)化学物質等の包括的なリスク評価と管理の推進に関する研究に応える、(1)化学物質の小児・将来世代に与える健康影響評価研究、(2)多種・新規化学物質曝露の包括的把握・網羅的分析手法の開発と環境監視ネットワークへの展開、(3)生態学モデルに基づく生態リスク評価・管理に関する研究、(4)生態影響の包括的・効率的評価体系構築、(5)マルチスケール化学動態研究、及び重点課題(15)大気・水・土壌等の環境管理・改善のための対策技術の高度化及び評価・解明に関する研究に応える(6)PM2.5など大気汚染の実態解明と毒性・健康影響に関する研究、(7)地域の水環境保全に向けた水質改善・評価手法の開発、および全体をとりまとめる(8)リスクへの評価・管理の体系構築研究の8つの研究プロジェクトによりからなる研究を行います。環境リスク・健康研究センターが主な課題を担いつつ他の複数の研究センターと共同で実施しますが、うち特に(7)と(8)は地域環境研究センターが中心となって実施します。プログラム研究の成果により、持続可能な開発に関する世界サミット目標(WSSD2020年目標)の達成と大気汚染対策、健全な水循環の達成への貢献、さらに2020年以降の持続可能な安全確保社会に向けた貢献を目指します。


図 安全確保研究プログラムの全体図

 環境リスク・健康研究センターは広い分野にわたる多くの職員から構成されるセンターになりました。もともとは2つのセンターでしたが、人の健康と生態系の安全確保という目標は初めから共有していたと言えるので、自然な統合でもあります。大きな研究組織を組むことによって広い分野の連携を容易にし、あるいは研究上のさまざまな意見交換を活性化することで相互の研究を高め、新たな研究や構想を生み出す土壌となることを願っています。大きな組織には欠点も生まれるのかも知れません。が、欠点より長所や利点が多く生まれるよう、皆が力を合わせて前進すべく努力したいと考えます。

(すずき のりゆき、環境リスク・健康研究センター長)

執筆者プロフィール

鈴木 規之

環境研究では広く他分野の知識を求めると同時に、一方で一つに集中して極めることの両面が必要だと思っています。新センターがまさにそのような場になることを願っています。個人としては、トレランと温泉を兼ねた高原巡りが定番休暇になっています。

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