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2015年6月30日

災害廃棄物の適切なマネジメントに向けた人材育成研究

特集 災害環境研究-被災地の環境回復と創生に向けて-
【災害環境マネジメント研究プログラム(PG3)の紹介】

平山 修久、多島 良

1.はじめに

 災害時において人命や財産を守ることが優先されることは議論の余地がないといえます。しかしながら、災害発生後の初動対応期、応急復旧期、復旧・復興期という長期的な時間スケールで災害を捉えると、災害による社会環境システムへの影響は、重要な社会的課題といえます。つまり、災害と環境という視点から、災害時の資源循環システムや環境・健康リスク管理を検討することが重要であります。災害環境マネジメント研究プログラムでは、災害時における廃棄物等管理を中心に、予防対応・応急対応・復旧復興対応の円滑化に資するマネジメント手法及び制度の設計・評価といった東日本大震災等に関する検証研究を行ってきています。そして、それらの知見を一般化・体系化することにより、将来の発生が予想される巨大災害やその他災害への備えとして、資源循環・廃棄物マネジメントの強靭化や環境・健康リスク管理戦略の確立など、社会の環境防災力・減災力を向上する、つまり、災害時においても環境や健康への影響や被害を抑止、軽減することができる社会環境システムを構築するための研究を実施してきています。その中で一つの大きな柱となるのが、「人材育成」です。

 災害が発生すると、公衆衛生の確保と早期の復旧復興のため、災害廃棄物の処理を適正かつ円滑に行う必要があります。このためには、平時から災害時に備えた災害訓練や人材育成を進めておくことが重要です。災害廃棄物の処理は、一般的に、被災家屋から出される廃棄物や散乱したがれきを収集・撤去し、仮置場に集積、粗分別・細分別したうえで、性状に応じた中間処理、リサイクル、最終処分を行うことで終了します。この際、技術的な知識・ノウハウだけではなく、人材・資機材・資金・情報を適切に活用するマネジメント能力も必要になります。本稿では、将来の災害時に適正かつ円滑な災害廃棄物処理を行うことができる行政職員の育成を念頭に、災害廃棄物処理をマネジメントする行政職員として必要な能力を体系的に明らかにした研究成果を紹介します。

2.災害廃棄物のマネジメントに求められる行政能力の抽出

 そもそも、「能力」とは何を指すのでしょうか。これまで経営学と防災の分野で蓄積されてきた知見をふまえ、本研究では「知識」「スキル」「マインド」の3種類があると考えました。なかでも、物事を実行する力であるスキルは、専門的な業務遂行能力である「技術スキル」、相互理解や関係作りの力である「対人スキル」、業務の構成要素の関係性を認識してビジョンを描く能力である「概念化スキル」に分けて理解することとしました。

 能力の具体的な中身は、東日本大震災の災害廃棄物処理において宮城県と岩手県で中心的な役割を果たした市町村・県の行政職員と民間事業者が参加するワークショップを通して抽出しました。ここでいうワークショップとは、多様な人たちが主体的に議論等に参加することを通して新しい創造と学習を生み出す場を指します。典型的には、6人程度のグループで模造紙を囲み、意見を書いた付箋紙を張り付けながら、出された意見の類型化等の整理作業を行い、一つの成果物を作っていきます。

 本ワークショップでは、ある程度網羅的に能力を抽出することを担保するため、①災害廃棄物処理において直面した課題を抽出し、②課題解決のために実施した/実施すべきであった解決策を議論してから、③その解決策を実行するために求められる能力は何か、という論理的思考のプロセスを再現する形でプログラムを設計しました。また、最後には特に重要と思われる能力に対して投票してもらいました。26名の参加者には4つのグループに分かれてもらい、2日間にわたって熱心な議論を行っていただいた結果、課題、解決策、必要能力のそれぞれについて250程度の意見(黄色付箋)とそれをグループ化しラベル(青付箋)を付けて整理した成果物が得られました(写真1)。例えば、課題としては「可燃物のはずがうまく燃えない」「悪臭対策が不十分だった」などの処理現場の技術的課題や、「腹をくくることが困難」といった意思決定の課題、「人材が不足(土木系)」「仮置場が決まらない、足りない」「補助金請求の事務が非常に大変だった」といった必要資源を確保する上での課題、「全体量の推計が難しい」といった情報収集・分析関連の課題など、幅広く指摘されています。この作業を通して、参加者が一人では気付かなかったような意見が出され、課題・解決策・能力の構造や本質について理解が深まりました。

写真1 ワークショップの成果物の一例(左)と議論の様子(右)

 必要能力に関する意見(成果物の黄色付箋)は、ワークショップ終了後に4グループ分を統合し、統一的な基準で再分類作業を行うことで、「知識」「スキル」「マインド」の類型を基本とした体系に整理しました。そのうえで、能力と課題・解決策の対応関係をワークショップの結果から確認することで、得られた能力の体系の妥当性を確認しました。この結果、得られた必要能力の体系は、図1の通りです。図1からは、まず、災害廃棄物処理には知識、スキル、マインドを幅広く必要とすることが分かります。また、ワークショップの参加者が特に重要と考えた能力は、知識よりもスキルやマインドであることも分かります。内容を見てみますと、まず、行政官としての強い心、責任感、前向きで積極的な姿勢や誠意というマインドが重要と考えられます。自らも被災者でありながらも、発災直後から数年間にわたり災害廃棄物処理業務に従事することは、肉体的にも精神的にも大きな負担になります。例えば、災害廃棄物を処理する中でご遺体や思い出の品と対面することもありますし、住民をはじめとした関係者との信頼関係の構築が必要になることから、この重要性が理解できます。知識としては、技術スキルの基礎として求められる「やりかた」についての知識の他にも、人員や施設を確保するために必要となる地元の地理やリソースの知識、柔軟な制度運用のための各種法制度に関する事実についての知識が必要です。災害廃棄物とはいえ、普段の廃棄物処理に適用される法制度に基づいて処理を行うことになるうえ、普段あまりなじみのない防災系の法制度等も関係してきます。技術スキルとしては、マネジメント、廃棄物、土木、財務、情報技術等の専門能力が必要です。なかでも、土木契約に係る技術スキルは撤去等の業務発注のために、マネジメントに係る技術スキルは災害廃棄物処理計画の見直しと実施のために、特に重要といえます。対人スキルとしては、住民やマスコミへの対応、制度等に関する国への要望、関係機関との調整、人員や仮置場の確保等を円滑に行うために、災害廃棄物担当部局としての意思を適切に伝達し、相手の立場を理解しつつ、調整する能力が必要です。最後に、廃棄物の量や性状、関係主体の状況に関する不完全な情報の下で、最終処分までを見据えた決定を行うために想像力を働かせて提案や判断を行う概念化スキルが必要といえます。

図
図1 災害廃棄物処理のマネジメントに求められる能力の全体像

 図1のような形で必要能力が体系的に整理できたことから、以下の2点が示唆されます。まず、従来の座学型研修でカバーされるような専門的知識の他にも、技術・対人・概念化に係る様々なスキルを身に着ける必要があり、そのためには演習型の研修や、職場内教育(on the job training: OJT)を通したスキルアップのあり方の検討が重要であることです。また、従来の経営学等で重要と指摘されている能力類型を用いて災害廃棄物処理に必要な能力を整理することが可能であることから、平時より質の高い行政職員を育成していくことが重要であることも示唆されます。特に、対人スキルや概念化スキルは一朝一夕で身につくものではありません。様々な手法による研修と、人事異動や人事交流も活用しつつ、長い目で見てどのようにこれら能力をもつ人材を育てていくのかという、広い意味での人材マネジメントが重要といえます。

3.おわりに

 1995年阪神・淡路大震災や2004年新潟県中越地震、2011年東日本大震災などの災害を経験してきており、かつ、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生が危惧されています。また、近年では、降雨の様相が異なってきており、台風災害や風水害が頻発してきています。つまり、我が国においてはどこにでも災害は起こりえることから、災害と向き合うことが必要不可欠であるといえます。災害環境マネジメント研究プログラムでは、今後、将来の災害に備えて社会の環境防災・減災力向上を実現するための、技術やシステムに関する問題解決型の実践的研究として、国や地方自治体をはじめとした関係機関と協働しながら取り組んでいきたいと考えています。

(ひらやま ながひさ、資源循環・廃棄物研究センター研究開発連携推進室 主任研究員)
(たじま りょう、資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室)

執筆者プロフィール

平山 修久

(平山)2011年東日本大震災をはじめとして、米国ハリケーン・カトリーナ災害など国内外の自然災害での被災地調査や現地支援活動を多数経験。また、前職の「人と防災未来センター」での人材育成に係る業務も活かしつつ、現在、災害環境マネジメントの構築に向けて模索中であります。

多島 良

(多島)東日本大震災から4年が経過し、良くも悪くも、形にされていない記憶は次第に薄れつつあります。「歴史は繰り返す」とならないよう、研究所の果たすべき役割は大きいのではないかと感じています。

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