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2012年6月29日

原発事故と放射能汚染

堀口 敏宏

 巨大な堤防の亀裂と崩落。押し流されてきたテトラポットと横倒しの漁船。1階部分が大きく抉られた建物。土台しか残されていない民家の跡。あちこちにある、陥没して車の通行が困難な道路。そして、高い放射線量。車内でも最大で毎時74マイクロシーベルトありました。2011年12月14日、独立行政法人放射線医学総合研究所との共同調査として福島県の警戒区域に立ち入りました。津波と原発事故の傷跡が、そのまま残されていました。途中、野生化した牛やダチョウを見ました。彼らも、こちらを見ていました。一体、何を思っていたことでしょう。

 2011年3月11日の東日本大震災で多くの生命や財産が奪われました。被災された方々にお悔やみとお見舞いを申し上げます。自然の大きな力の前では、人間には為す術がありません。しかし、地震と津波は人智が及ばぬ天災であったとしても、東京電力福島第一原子力発電所の事故については、どうでしょうか。東京電力福島第一原子力発電所でのこの重篤な事故は“想定外の津波”が原因であるとする報道が多いものの、“地震説”も報じられています。技術者である田中三彦さんは、東京電力による公表データを解析した結果、地震の揺れそのもので配管に亀裂が生じ、この重篤な原発事故が誘発された可能性を主張されています。1号機の原子炉系配管に0.3cm2の亀裂が生じた可能性を受けて独立行政法人原子力安全基盤機構が実施したシミュレーションの結果、福島第一原発事故がほぼ再現されたとの新聞報道がありました(2011年12月15日、東京新聞)。津波ではなく地震による配管の亀裂が基でこの重篤な原発事故が引き起こされたとすれば、現在の原発の“耐震基準”に対する信頼が根底から崩れます。事実関係の早急な解明を望みます。また、根源的な処理のできない放射性廃棄物を今後どうするのか、あるいは、将来のエネルギーを何に依拠するのかも重要な問題です。

 話を元に戻します。恥ずかしながら、警戒区域に入って初めて、今回の震災と原発事故の重大さが身に沁みました。目の前に広がる光景は、その迫力という意味で、テレビの映像とは全く比べ物になりませんでした。新聞やテレビの報道だけではわからない、自らの想像力の乏しさを思い知らされました。また、目に見えず、匂いもなく、皮膚感覚もないが、確実に存在している放射線…土も、水も、そこに棲む生き物も放射性核種に汚染されました。悔しくて涙が出そうになりました。万一、原発事故で大量の放射能漏れが起きたら、という問題に真剣に、きちんと向き合ってこなかった自分自身に対する自責の念と、大切な国土が汚染されてしまったという悔悟の念とが入り混じっていました。原発に依存したまま、昨年3月11日の震災を迎え、そして福島第一原発事故が起き、大量の放射性核種の環境中への放出を招きました。緊急に避難を余儀なくされ、わが家もペットや家畜も置き去りにせざるを得なくなり、いつ故郷へ帰ることができるかの見通しも立っていない人々に、言葉がありません。悔しさは、やがて憤怒の想いとなり、はらわたが千切れそうな、全身の血が逆流するような感覚を抱いています。

 研究者として、何をすべきか。「本当にそうか」や「実際はどうなのか」という問いに答えるべく、放射性核種による汚染と生き物への影響・被害の実態を調べ、明らかにすることが当面の責務であると、今、考えています。今回の事故で放出された放射性核種の相当量が海へ入りました。これまで海の汚染・環境悪化と生き物への影響を調査研究してきた者の一人として、知らぬ顔はできず、じっとしていられなくて、調査を始めました。一つ一つ得た結果を積み上げて虚心坦懐に見たときに何が見えてくるか、徹底的に調べて明らかにせねばなりません。見落としも見過ごしも、許されません。あのダチョウや牛たちの表情が、脳裏に焼き付いていて離れません。

写真 野生化したダチョウ(福島県・富岡町にて)

(ほりぐち としひろ、環境リスク研究センター 生態系影響評価研究室長)

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