リデュースとリユース 〜リサイクルよりも優先すべきこと〜
【環境問題基礎知識】
田崎 智宏
この10年は様々なリサイクルの取り組みが進展した10年でした。法律に基づいて進められてきている取り組みだけを挙げてみても、容器包装のリサイクル、家電製品・パソコンのリサイクル、自動車のリサイクル、建設廃棄物のリサイクル、食品のリサイクル、二次電池のリサイクルがあります。しかし、その一方で現在リサイクルを行っているいくつかのモノについては、リサイクルしてはいけないという意見も出てきています。ここでは、リサイクルの是非については解説しませんが、リサイクルをすべきという意見においても、リサイクルをすべきではないという意見においても、ごみとなるものを減らす取り組みが大切であるという点は一致しています。
このようなごみとなるものを減らす取り組みが、リデュースとリユースです。リサイクルなどの取り組みはそれぞれの取り組みの頭文字をとって「3R」と呼ばれていますが、例外的な状況を除いて、リサイクル(Recycle)よりもリユース(Re-use:再使用する)、リユースよりもリデュース(Reduce:発生するごみを減らす)を優先して取り組みを進めるべきということが世界的にも共通的な認識となっています。我が国では、2000年に成立した循環型社会形成推進基本法でこのことが述べられています。リデュースには、具体的には、ごみとなるようなものを買わない、買ったものは長く・有効に使う、同じ製品でも投入する原材料が少ない製品を作るなどの取り組みが含まれます。ごみを減らすといえば、焼却などによって埋立処分を行うごみの量を減らす「減量化・減容化」を含むか疑問に思うかもしれませんが、通常、発生するごみを減らすことのみを「リデュース」と呼んでいます。紛らわしいので、英語ではwaste prevention(廃棄物の発生抑制)と呼ばれることが多いです。ところで、EUの廃棄物の法律(2008年改正廃棄物指令)では、廃棄物の量だけでなく、発生した廃棄物による環境や人の健康への悪影響を減らすことや、材料や製品中の有害物質量を減らすことも発生抑制に含めることとしています。我が国の法律が廃棄物の量に着目しているのとは大きな違いがあります。我が国では最終処分場の逼迫問題があったために、量的側面が重視されているという歴史的経緯はありますが、有害性などの質的側面についても注意を払わなければならないという点は今後の我が国でも重要な視点となるでしょう。
ただ、このリデュースとリユースについては、1990年代前半頃から取り組むべきことが言われ続けてきています。それにもかかわらず、一般廃棄物についても産業廃棄物についても、リサイクル量は増えて、最終処分量は大幅に減少していますが、廃棄物の発生量は概ね横ばいの状況です。リデュースとリユースは「言うは易く行うは難し」という取り組みといえるでしょう。しかし、循環型社会基本計画のフォローアップにおいても、リサイクルよりもリデュースとリユースへの関心が高まってきているところで、これからの取り組みの進展が期待されている分野です。「行うは難し」という理由はいくつかあると考えられますが、その一つに取り組みが見えにくいという難しさがあることを指摘できます。例えば、ごみの分別行動については、近所の目を気にするがゆえにきちんと分別するというようなルールを守るという意識構造が影響を及ぼしていることが研究で明らかにされています。一方、発生抑制については、周囲の人の目につきにくく、先ほどのような人目を気にするという意識構造が認められなかったという研究報告があります。また、リデュースを行ったとしても、どれだけ効果があったかは、リデュースを行わなかった場合のごみの発生量と比較することでしか把握できませんが、このような量を直接目にすることがないため分かりにくいという問題があります。このようなこともあり、EUでは、きちんとしたベンチマーク(ここでは達成しなければならない目標値ではなく、参照とする値を意味します。)を設定して、そのベンチマークと現状をもとに取り組みを総合的に進めていこうというアプローチを採用することとしています。EU加盟諸国は2013年12月までに、このようなベンチマークの設定を内容に含む、発生抑制プログラムを策定することとなっています。我が国でも、リデュースやリユースの取り組みにおいて、ベンチマークを設定して取り組みを進めていくことが求められるようになるでしょう。このような問題意識から、国立環境研究所での研究においても、リデュースやリユースにどのような種類の取り組みがあって、どのようにその効果を計測するかの研究を着実に進めているところです。表1はその概念整理を行った成果の一つです。研究面でも実践面でも、リデュースやリユースの重要性は増していくと思われます。できることに着手するとともに、多少難しくとも、効果的な取り組みを着実に進めていくことが期待されます。
表1 リデュースやリユースの取り組みとそれを計測する指標
項目 |
指標 |
指標内容 |
具体例 |
活動量の適正化 |
生活活動量 |
生活充足度を確保しつつ、生活活動量の適正化を図る。 |
過剰消費活動の抑制 |
ものに依存しない生活 |
製品利用量 |
生活活動を物質非利用活動やより資源消費の少ない製品利用活動へ転換する。 |
製品代替サービス、自然利用(天日干し等) |
製品量 |
不必要に製品を保有しない。 |
製品購入の適正化 |
|
ものを大切・有効に使う生活 |
製品利用量 |
既存の製品ストックや保有品を有効に使う。 |
シェアリング、リース、レンタル、既存設備の利用 |
製品量 |
1つの製品を有効に使う。 |
長期使用、修理、アップグレード、製品リユース |
|
資源を使わない製品づくりと社会 |
資源使用量 |
複数の活動等で資源使用量を削減する。 |
多機能製品、標準化 |
使用時エコ製品を使う。 |
省エネ製品 |
||
資源使用量 |
1つの新規製品に用いる資源使用量を減らす。 |
軽量化、小型化、詰替商品 |
|
より持続可能な資源利用への転換 |
天然資源量 |
循環資源を活用して、天然資源への依存度を下げる。 |
部品リユース |
再生不可能資源量 |
再生可能資源を活用して、再生不可能資源への依存度を下げる。 |
バイオマス利用 |
循環技術システム研究室主任研究員)
執筆者プロフィール

研究所に来てほぼ10年が経ちました。第一人者と自負する研究テーマも増えてきましたが、あまり詳しくないところを尋ねられたり、自信のあるところには他の人に問い合わせがあったりと、研究者と社会・マスメディアとのつなぎは難しいなと感じることもしばしばです。いいコラボをしたいですね。
目次
- Behavioral Teratologyから 小児の環境保健疫学調査 (エコチル調査)へ【巻頭言】
- アジア地域の環境再生を目指したバイオエコシステム技術の展開【シリーズ重点研究プログラム: 「循環型社会研究プログラム」 から】 中核研究プロジェクト4 「国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築」 より
- 消えるナノ粒子 : その由来と大気中でのふるまい【研究ノート】
- 「子どもの健康と環境に関する全国調査」 が始まります【研究施設,業務等の紹介】
- 天皇皇后両陛下の国立環境研究所ご視察について【研究所行事紹介】
- 「サマーサイエンスキャンプ」 開催報告【研究所行事紹介】
- 新刊紹介
- 表彰
- 編集後記
- 国立環境研究所ニュース29巻4号