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南極レポート(第2回:「昭和基地概要紹介」)

【海外調査研究日誌】

中島 英彰

 前回の南極レポートでは,いかにして私が南極・昭和基地での越冬観測隊員にたどり着いたかということに関してお話しました。今回は,現在私がいる,昭和基地の概要に関して紹介したいと思います。

 南極昭和基地は,南緯69度00分,東経39度35分,東南極のリュツォ・ホルム湾東岸の,大陸から約4km離れた東オングル島上にあります。1957年(昭和32年)1月,戦後わずか10数年の年に,永田武隊長率いる第1次南極地域観測隊は,灯台補給船を砕氷船に改造した「宗谷」をもって到達し,昭和基地を開設しました。早速その年の2月から越冬を開始。4棟わずか174m2の建物において,11人の隊員による越冬観測が行われました。これは,1957年7月~1958 年12月にかけて行われた,国際地球観測年(International Geophysical Year: IGY)に,日本として南極観測によって参加するためであります。

 第1次観測隊は無事越冬観測を終えましたが,翌年の第2次観測隊を乗せた宗谷は,1957年12月31日から翌年2月17日まで密流氷に閉じ込められて漂流し,アメリカ・バートンアイランド号の救援・誘導のかいもなく昭和基地に近づけず,第1次越冬隊を救出したのみでカラフト犬を残したまま帰らざるを得なくなりました。その犬のうち,「タロ」と「ジロ」の2頭が1年間生き延びたことは,最近リメイク版も出た映画「南極物語」等で有名な話となっています。

 その後,1962~1964年まで3年間の中断を経て,砕氷船も「ふじ」「しらせ」とより大型で強力なものに移り変わりつつ,現在までの50年間,日本の南極観測が継続されています。基地も昭和基地だけでなく,みずほ基地,あすか基地,ドームふじ基地と,観測の必要性に応じて建設されてきました(昭和基地以外の基地は,現在は無人)。また昭和基地の建物も,現在では計62棟,総床面積7,000m2を越す,一大観測拠点となっています(写真)。

昭和基地の写真
昭和基地主要部。一番右に出っ張っている青色の建物が、筆者が主に観測を行っている「観測棟」。奥の銀色のドームを頂く建物は、食堂や無線室、隊長室等がある 「管理棟」

 南極昭和基地での観測項目は多岐に渡りますが,気象や電離層など長期にわたって継続して行われている「定常観測」と,その時その時の研究対象に応じて,モニタリング的,あるいはトピック的に行われる「研究観測」とに分けることができます。研究観測はさらに,オーロラや電磁気現象に関連した観測を主とする宙空系,温室効果ガスをはじめとする大気微量成分や,雪氷観測を担当する気水圏系,地球史に残る古代大陸のひとつである旧ゴンドワナ大陸に関連した地質や岩石,地震,大量に集積する隕石を調査する地学系,南極特有の生物(ペンギン,アザラシ,その他各種生物)の生態や極地に生息する植物,はたまた極地に生活する我々観測隊員自身の健康状況を調査する,生物・医学系に分けることができます。

 これまでの日本南極地域観測隊における主要な観測成果といえば,1982年,第23次観測隊員で現在は気象研究所に勤務される,忠鉢繁隊員によるオゾンホールの発見。1969年以降,何回か実施された内陸調査隊による,月・火星由来を含む大量の隕石の発見(おかげで,日本は現在世界最大の隕石保有国)。ロケットや人工衛星との同時観測を含む,オーロラ生成機構の解明。また最近では,内陸ドームふじ基地における3035mのアイスコア掘削と,その解析から期待される70数万年前まで遡る気候変動の解明,等々があげられます。

 そして,今回我々第48次南極地域観測隊では,南極観測第VII期4ヵ年計画の初年度ということで,「極域における宙空-大気-海洋の相互作用からとらえる地球環境システムの研究」というテーマの重点プロジェクト研究観測を実施する予定です。また,ちょうどIGYから50年目ということで2007年3月から2009年3月まで行われている,「国際極年(IPY)2007-2008」の一環として,ドイツのアルフレッド・ウェーゲナー研究所が代表となる極域オゾン層を中心とした観測計画であるORACLE-O3の一部を分担する予定です。これは,極域オゾン層の変動メカニズムの理解を深めようとするもので,我々が実施予定のフーリエ変換赤外分光器(FTIR)による大気微量成分や極成層圏雲(PSC)の観測や,南極各国の観測基地が同期して行う,オゾンゾンデによるMatch観測は,その中でも重要な位置を占めるものです。

 最近のトピックとしては,3月末に昭和基地でのFTIR観測装置の立ち上げを行い,無事データ取得に成功しました。また,4月はじめにはオゾンゾンデ観測装置の立ち上げも行い,4月20日には観測初データの取得に成功しました。これからは,成層圏が寒冷化してくる冬に向けて,極地域特有の現象であるPSCの観測を行っていく予定です。

 次回の南極レポートでは,毎日の生活の様子や観測隊員それぞれの仕事内容の紹介,休日の過ごし方,そして,できれば我々の観測における最新のデータについてもお知らせできれば良いなと思っています。お楽しみに。

(なかじま ひであき,
大気圏環境研究領域 主席研究員)

執筆者プロフィール

 国立環境研究所に来てちょうど10年目の年に,つくばから南極に脱走計画を企て,現在南極昭和基地に雲隠れ中。17年前にこちらに来たときは,基地内での連絡は一斉放送かハンディータイプの重い無線機がたよりでしたが,今はなんと日本並みにPHS式の携帯電話があって,基地内主要部では普通に携帯が通じます。でも,停電の時などは基地局も死んでしまうので,今なお無線機は手放せません。