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資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価 −循環型社会研究プログラム・中核研究プロジェクトの概要紹介−

【シリーズ重点研究プログラム:「循環型社会研究プログラム」から】

野馬 幸生

 私たちの身の回りの製品には工業的に生産された化学物質がたくさん使われていますが,どの製品にどのような化学物質が使用されているか,また製品として使用された後,それらに含まれる化学物質はどこへ行って,どうなっているでしょうか。化学物質は有用なものとして使用されていますが,無害な物質だけでなく,中には有害な物質もあります。また,資源としての価値の高いものから低いものまであります。多くの製品は使用された後に,資源価値の高いものは再び利用(リユース,リサイクル)されていますが,廃棄物として燃やされたり,埋め立てられるものも多くあります。私たちが目指す循環型社会では,できる限り廃棄物の量を減らして,発生した廃棄物についてはできる限り資源として活用することが求められています。しかし,使用済みの製品を資源として再利用するときに,製品(廃棄物)に有害物質が含まれる場合は,それらをきちんと除去し,むやみに再利用しないように,またリサイクルして再生品をつくる過程では,新たな環境汚染が発生しないように注意しなければいけません。そのためいろいろな廃棄物について,リユースやリサイクルが可能か,あるいはリユースやリサイクルすることが適切かどうかを前もって判断する必要があります。さらには,製品を設計するに当たって,資源活用や化学的な安全性の観点からリサイクルのしやすさをきちんと考慮に入れることが,ますます大切になってきています(図1参照)。

図1 本中核研究プロジェクトのイメージ
図1 本中核研究プロジェクトのイメージ
(循環型社会・廃棄物研究センターパンフレットより抜粋)

 私たちは,製品に使用されているさまざまな化学物質を,望ましい面(資源性)と望ましくない面(有害性)の双方から評価しながら,資源の循環利用を促進するための研究プロジェクト「資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価」を行っています。この研究プロジェクトでは,主にプラスチックや金属などを対象として,製品の使用後に,使えるものをリサイクルし,不要なものを最終的に廃棄処分する過程で,有害物質がどこに,どれだけ流れるのかを調べます。そして,「有害物質が環境へ排出される量」,「その結果,人や生態系などへ及ぼす悪影響(リスク)」「替わりの物質を使ったときに生じるリスクやコストの比較」,「廃棄物に含まれる資源成分の評価」などを明らかにしていきます。資源としての価値をもつ使用済みの製品が無駄なくリユース,リサイクルできるように,しかも,その過程でおこる有害物質の発生が少なくなることを目指す研究です。その結果として,資源を有効利用しつつ,化学物質のトータルリスクを最小にする社会システムが形成されることを望んでいます。

 本研究プロジェクトでは,特に個別リサイクル法や国際資源循環で注目される主要な物質群を対象とし,以下の三つのサブテーマで研究を進めています。

サブテーマ1:プラスチックリサイクル・廃棄過程における化学物質管理方策の検討

 一つめのサブテーマは,プラスチック製品に含まれる臭素系難燃剤,添加剤など本来有用物質として使用される化学物質の有害性にも着目し,そのプロセス挙動と制御方策を明らかにし,代替物質との得失評価を行います。プラスチックは石油を原料として生産され,軽くて丈夫,加工のしやすい大変便利な素材として多くの製品に使われていますし,プラスチックのない社会はこれからも考えられないと思います。プラスチックには劣化を防ぐ安定剤や色を付けるための着色剤,材料を柔らかくする可塑剤などのさまざまな化学物質(添加剤)が加えられていますが,添加剤の中にはリサイクルしない方がよいと考えられるものもあります。例えば,テレビ,パソコンや防炎カーテンなどのように使用時に高温になるような製品のケースカバーや電子基板には,難燃剤という化学物質が加えられています。この難燃剤は,材料を燃えにくくする添加剤で,火事を防ぐために必要な物質ですが,臭素を含む難燃剤(臭素系難燃剤)である臭素化ジフェニルエーテル類は,今では欧州,日本など世界の国々で使用しないよう法的あるいは自主的に規制されています。それは,人や生物の体内に蓄積し,有害な作用を及ぼすと考えられるからです。しかし,難燃剤を使わないと火事の発生が増える可能性があります。そのため,臭素化ジフェニルエーテル類より有害作用の少ないテトラブロモビスフェノールAなどの臭素系難燃剤や臭素を含まない難燃剤が使用されるようになってきました。臭素を含まない難燃剤に有機リン系難燃剤やアンチモンなど無機系難燃剤もありますが,臭素系難燃剤に比べると同じ効果を期待するには使用量が増えたりコストが高くなったりするといった問題もあり,また全く無害というわけではありません。このような代替物質に変更したときに火災の危険性,ヒトの健康や生態系生物への悪影響の度合いは一体どのように変わるのか,また,コストについても経済的なのかどうかの評価が必要となります(図2参照)。図の上側は,臭素化ジフェニルエーテルなどを使用したときの難燃剤としての有用性と,毒性や蓄積性などの有害性とを天秤にかけて評価するイメージを示しています。プラスチックという便利な素材は資源性を確保しながら,有害性の面からは悪影響が出ないよう安全性を確保することが重要です。また,図の下側は,難燃剤を使用するときに最も適切な使用量はどれくらいになるかを示したものです。火災リスクを下げるためには難燃剤の使用量を増やせば良いのですが,使用量を増やせば環境や健康へのリスクが増加する可能性もあります。そのため,両側のリスクを加算したものが最も低くなるポイントが難燃剤の使用量として許容できる最適な量だと考えられることを示しています。このように,実際の調査に基づいて,化学物質と向き合い,有害物質をきちんと管理しながら,資源価値のある物質をうまく循環するために,どのようにすればよいかを考える研究を行っていきます。

図2 本中核プロジェクト・サブテーマ1のイメージ
図2 本中核プロジェクト・サブテーマ1のイメージ

サブテーマ2:資源性・有害性を有する金属類のリサイクル・廃棄過程の管理方策の検討

 二つめのサブテーマは,金属類の詳細な物質フローを作成し,有害性金属の環境排出量や資源性金属の回収可能性などを定量化し,廃棄物からの金属回収方策を提示します。鉄,銅,アルミニウム,鉛,ニッケル,スズといった主要な金属資源が多くの製品に使われ,カドミウムや水銀等の有害性をもつ金属も電池や蛍光灯などに,またインジウムや金などはパソコンなど電子・電気機器類にと,生活に不可欠な製品に使われています。リサイクルしやすい製品から回収される努力はなされているものの,回収後にどのような流れをたどるのかは十分わかっていません。また再使用や金属回収のために海外へ廃製品が移動している実態もあります。リサイクル法の効果を評価するための基礎的な情報も必要です。研究内容は(1)優先的に考える金属類についての国内での流れを明らかにすること,(2)製品中に含まれる金属量を求めるための試験方法を確立すること,(3)有害な金属の環境排出量を求めること(特に国際的に使用制限されている水銀)などです。また海外流出される廃製品や中古製品に伴って移動する金属についても併せて明らかにしていきます。リサイクル法の理念が浸透していく中,資源価値の高い素材の回収(資源性向上)とともに,その過程で起こりうる環境排出量を推定し,適切な物質循環が行われるよう(有害性低減)な方策提言を目指した研究を行います。

サブテーマ3:再生製品の環境安全品質管理手法の確立

 三つめのサブテーマは,廃棄物からつくられた再生品の,人や環境に対する安全性を評価・管理するための試験方法づくりを行います。さらに,完成した試験方法を用いて,再生品に求められる環境安全性のレベルはどの程度であれば良いかを設定するための手法を確立します。研究の対象としては,発生量・利用量ともにたいへん多いコンクリートや道路の材料に使われる再生品を取り上げ,土壌・地下水環境への影響について評価します。再生品の評価は,試験結果を入力データに用いる土壌・地下水中の移動モデルにより,評価対象地点におけるリスクを計算することによって行います。さらに実際に再生品の利用される環境を実験室で模擬した実験を行い,評価方法の有効性を確認して,環境安全性評価のためのガイドラインを提示することを目指しています。

 以上のように,分析技術,モニタリング技術を基盤として,資源性・有害性という意味の物質管理という視点から健全な循環型社会の構築に向けた研究を目指しています。

(のま ゆきお,
循環型社会・廃棄物研究センター
物質管理研究室長)

執筆者プロフィール

 薬学出身でありながら,畑違いの廃棄物に関わっていつのまにか30年経ちました。当時,廃棄物研究者は数えるほどしかいなく,廃棄物問題に少しでも科学のメスを入れることができればと研究のまねごとを始めたものでした。昨今のように廃棄物が脚光を浴びるとは思っても見ませんでした。廃棄物に関わる者は縁の下の力持ちで良いと考えていましたので,なんか奇異な気がしています。脇役であるべき廃棄物が主役となっているような時期は早く終わり,健全な循環型社会になることを願っています。