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NIES Annual Report 2006 AE-12-2006(平成19年2月発行)

 本英文年報は海外の研究者や行政担当者など対象に(独)国立環境研究所の調査・研究の現状を紹介することを目的として年1回発行しています。6つの重点特別研究プロジェクト,各基盤研究領域,政策対応研究センター,知的基盤ラボラトリー,地球環境研究センター,環境情報センターで実施された調査研究と,研究所の組織,予算などの概要が紹介されています。また,巻末の印刷発表リストなどは研究所の活動を知る上で基本となる情報です。なお,この2006年度版は第1期中期計画の最終年度でありました2005年度の特筆すべき成果を重点的に記載しています。第2期中期計画は2006年4月より開始され,それに伴い研究組織は4つの重点研究プログラムに対応する地球環境研究センター,循環型社会・廃棄物研究センター,環境リスク研究センター,アジア自然共生研究グループと,社会環境システム研究領域,化学環境研究領域,環境健康研究領域,大気圏環境研究領域,水土壌圏環境研究領域,生物圏環境研究領域の6つの基盤研究組織および環境研究基盤技術ラボラトリー,環境情報センターに改組されました。この点を考慮して,新組織の構成と構成員を本年報では紹介しています。

(編集委員会英文年報班主査 村上正吾)

国立環境研究所特別研究報告 SR-65-2006(平成18年12月発行)
「大陸規模広域大気汚染に関する国際共同研究(特別研究)」(平成13~17年度)

 本研究は,現在の中国で問題となっている硫黄酸化物系の大気汚染と,今後ますます重要性を増す窒素酸化物・光化学大気汚染系の大気汚染が混在する広域の大気汚染を観測,モデルの分野から研究し,中国をフィールドとした共同研究から,大陸規模の広域大気汚染の現象を解明することを目的として,平成13年度から17年度にかけて行われたものです。研究期間中,中国での航空機観測を4回行い,これと同期した地上観測を行い,発生源地域の汚染物質の濃度分布を詳細に解析することができました。また,中国での飛行機観測に対応した数値シミュレーションを行い解析しました。アジア地域を対象としたSO2排出強度マップを作成し,発生源の解析と発生量の将来予測を行った結果,中国ではエネルギー集約型産業の立地が促進すると予想されました。さらに日本への長距離輸送の影響を見るため,奥日光前白根山において,オゾン濃度を測定した結果,秋には自由対流圏中をアジア大陸から輸送されるオゾンが中心的になることが分かりました。

(アジア自然共生研究グループ 畠山史郎)

国立環境研究所特別研究報告 SR-66-2006(平成18年12月発行)
「有害化学物質情報の生体内高次メモリー機能の解明とそれに基づくリスク評価手法の開発に関する研究(特別研究)」(平成15~17年度)

 本報告書は,神経系,免疫系の機能のなかで情報が蓄積される記憶の機構に焦点をあて,低濃度の揮発性有機化合物の影響を明らかにすることを目的とした研究の報告書です。研究成果として,1. 低濃度ホルムアルデヒド曝露をすると,動物の学習行動や記憶機能に密接に関連している海馬におけるグルタミン酸受容体サブユニットの遺伝子発現が有意に増加すること,2. 海馬におけるドーパミン受容体D1,D2遺伝子の発現もホルムアルデヒド曝露により増強へと動くこと,3. 低濃度のトルエンの長期曝露では,マウス海馬においてNMDA受容体サブユニットNR2Bの遺伝子発現増強を介して転写因子CREBの活性化を導くこと,4. 低濃度ホルムアルデヒド,あるいはトルエンの曝露は,抗原刺激との併用により神経成長因子の産生にかく乱作用を誘導していることを明らかにしました。また,5. SPMEを用いて曝露されたマウスの脳内でのトルエンを簡便に,短時間で検知する手法の開発に成功しました。こらの成果は,低濃度揮発性化学物質が関連するシックハウス症候群などの疾患の発症や病態の解明に貢献できると考えています。

(環境リスク研究センター 藤巻秀和)

国立環境研究所特別研究報告 SR-67-2006(平成18年12月発行)
「有機フッ素化合物等POPs様汚染物質の発生源評価・対策並びに汚染実態解明のための基盤技術開発に関する研究(特別研究)」(平成15~17年度)

 この報告書は平成15年度から17年度にかけて行われた特別研究の成果をまとめたものです。環境残留性,生物蓄積性が高く有害性を有する残留性有機汚染物質(POPs)は取り組み優先度が高く,ストックホルム条約で世界的に削減の努力が行われています。本研究では,POPsと類似した性質をもつ条約対象候補物質の中で,有機フッ素系界面活性剤並びに多環芳香族炭化水素PAHsについて環境への放出状況の把握,発生源毎の寄与率の推定手法の開発,環境中での曝露状況を把握する曝露指標の探索,分解・処理手法の基礎研究などを進めました。低レベルながらフッ素系界面活性剤が日本の環境中に広がっている様子,通常の下水処理では処理しきれないこと,紫外線処理で分解可能なことなどがわかりました。一方,宇宙線の影響で絶えず環境中で作られる放射性炭素14Cを利用することで,燃焼により作られるPAHsなどの大気中炭素成分がディーゼルなどの化石燃料ばかりでなく木や紙の燃焼,野焼きなどのバイオマス燃焼起源でも作られている様子を定量的に明らかにすることができました。

(化学環境研究領域 柴田康行)

国立環境研究所特別研究報告 SR-68-2006(平成18年12月発行)
「湿地生態系の自然再生技術評価に関する研究」(平成15~17年度)

 この報告書は,平成15年度から17年度にわたって実施した湿地生態系の自然再生技術評価の調査研究の成果をまとめたものです。自然再生事業に先立つ理念・シナリオの形成を行い,野外調査及び再生実験等から基礎的知見を得て,持続可能な湿地生態系の再生技術の検討を行うと同時に,再生評価手法を開発することを目的として研究が進められました。湿地生態系への自然再生技術を定量的・客観的に,物質循環的機能の観点から評価する手法の検討等についての研究成果を報告しています。本号を通して,湿地生態系の自然再生に対する正しい知識を持っていただければと思います。

(アジア自然共生研究グループ 野原精一)

国立環境研究所特別研究報告 SR-69-2006(平成18年12月発行)
「地球温暖化の影響評価と対策効果(終了報告)」(平成13~17年度)

 本研究は,炭素循環に関する不確実な点を解明し,新たな地球規模の環境変化を早期に検知し,温暖化政策に資する方策を提示することを目的としました。炭素循環分野における主要な研究成果としては,温室効果ガスのモニタリング施設や体制整備,これまでに得られた観測データをもとにした二酸化炭素の平均的収支の推定,大気境界層の鉛直輸送の評価,海域のCO2分圧季節変動観測などがあげられます。また,総合的対策研究分野においては,気候モデルによる20世紀再現実験及び高分解能の21世紀予測実験を行い,極端現象・地域気候など詳細な将来予測が行えたこと,統合評価モデルについて主要なモデル開発が進み,各種のシミュレーション結果を国際機関や政府などに提供することができたこと,があげられます。気候モデルをインハウス・モデルとして持つ強みを生かして,炭素循環モニタリング,統合評価モデルとの連携を深め,脱温暖化社会に向けた大幅な温室効果ガス削減のための諸施策を検討することが今後の重要な課題です。

(地球環境研究センター 甲斐沼美紀子)

国立環境研究所特別研究報告 SR-70-2006(平成18年12月発行)
「成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明(終了報告)」(平成13~17年度)

 本研究プロジェクトでは,オゾン層保護対策の効果の検証と今後のオゾン層保護の取組みのための科学的知見を得ることを目的として,オゾン層の監視,オゾン層変動機構の解明,ならびにオゾン層の将来変動の予測を行いました。その中で,北極オゾン層での大規模なオゾン破壊や南極オゾンホールの実態をILAS,ILAS-IIと呼ばれる人工衛星搭載のオゾン層監視センサによって詳細にとらえたデータの信頼性の検証解析を行いました。検証済みデータは国内外の研究者に提供されました。また成層圏オゾン層の変化を調べるための数値モデルを開発し,今後のオゾンホールの推移を調べました。数値実験からは,南極オゾンホールの規模が今世紀半ばには大幅に縮小することが期待できるとの結果が得られました。本研究報告書がオゾン層破壊の理解と国際協調の下で進められたオゾン層保護の取り組みの効果を確かなものにするための更なる取り組みの一歩になれば幸いです。

(大気圏環境研究領域 今村隆史)

国立環境研究所特別研究報告 SR-71-2006(平成18年12月発行)
「内分泌かく乱物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理(終了報告)」(平成13~17年度)

 本報告書は,平成13~17年度の5ヵ年にわたって実施された重点特別研究プロジェクト「内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理」の研究成果のうち,主に後半の成果を中心にとりまとめたものです。主な成果として1)分析法,生物検定法の高度化では,酵母ツーハイブリッド法をはじめとする各種のバイオアッセイ系のラインアップを揃え,環境試料への適用をはかりました。2)環境動態の解明では,東京湾におけるノニルフェノールの分布と挙動を明らかにし,地球規模におけるダイオキシンの分布と発生源の推定を行いました。3)野生生物やヒトにおける影響の解明では,巻貝におけるインポセックスの発生メカニズムにおけるRetinoid X receptor(RXR)の関与を明らかにし,またダイオキシンによる水腎症発症メカニズムを分子レベルで明らかにしました。ヒトでの研究においては,ヒト用超高磁場MRIによる脳測定を行い,形態,機能,代謝解析を行いました。さらに4)内分泌かく乱化学物質による汚染や影響を未然に防止するための情報とリスク管理手法の提示および汚染修復技術の開発では,GIS上の高詳細環境モデル(G-CIEMS)を完成させ,POPsの環境中濃度を推定し,実測値との比較を行い良好な結果を得ました。内分泌かく乱化学物質問題は,化学物質のリスク評価において今後とも重要な課題であり,本報告が今後の研究の一助になれば幸いです。

(環境リスク研究センター 米元純三)

国立環境研究所特別研究報告 SR-72-2006(平成18年12月発行)
「生物多様性の減少機構の解明と保全(終了報告)」(平成13~17年度)

 本報告書は,平成13~17年度の5年間にわたって実施された,重点特別研究プロジェクト『生物多様性の減少機構の解明と保全』の研究成果をまとめたものです。研究の内容は多岐にわたりますが,ふたつの手法が重要な柱となりました。生息地推定モデルと分子遺伝学的な解析です。生息地域推定モデルを使って,土地利用の空間的なパターンが生物の分布に影響する様子などを明らかにするなど,限られたデータから生物の時空間的な広がりの情報を得ていく手法は,さまざまな応用価値を持つものと考えます。また,侵入生物の定着・浸透の実態をさぐるうえで,遺伝子の解析は強力なツールとなりました。これらの成果は学術論文として出版されつつありますが,より広く各方面のご意見をいただけることを願い,概要をまとめた冊子を作製しました。


(生物圏環境研究領域 竹中明夫)

国立環境研究所特別研究報告 SR-73-2006(平成18年12月発行)
「東アジア流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理(終了報告)」(平成13~17年度)

 本報告書は,近年の急激な人口増加に伴う大規模農業開発,急速な工業化と大規模都市への一極集中などにより,自然環境(生態系)と人間活動との均衡が崩れつつある東アジア地域の環境問題を取り上げています。人間の社会経済活動の歴史を考えると,物質循環と生物の生息環境を制約する水の動きが閉じる(循環する)流域圏が生存基盤の最小単位となっていました。この基盤上の健全な環境は流域生態系機能の発現によるもので,本研究では,水・熱・CO2等の交換,水循環,土壌侵食制御,物質循環と浄化,農業生産と土地利用,海域物質循環と生物生産等の生態系機能を取り上げ,主に中国の長江流域,華北平原,長江河口と沿岸域,東シナ海を対象とし,観測手法,数理モデル,技術に関する研究を実施しました。その結果は,人間活動が自然系に与える影響は極めて大きく,農業・工業・都市活動等における水の量と質の持続的利用のあり方の定量的把握が急務であることを示しています。


(アジア自然共生研究グループ 村上正吾)

国立環境研究所特別研究報告 SR-74-2006(平成18年12月発行)
「大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価(終了報告)」(平成13~17年度)

 本プロジェクトはディーゼル自動車をはじめとする発生源の実態解明,微小粒子の測定方法,物理・化学的性状の測定方法の開発,環境大気中での挙動の解明,動物曝露実験による量-反応関係の検討などを行い,フィールド調査を重視した測定方法の高度化を進め,発生から人への曝露までを総合した評価モデルを構築することを目的として実施されました。報告書では,a.排出実態と環境動態の解明,b.大気汚染モデル等による環境動態の解明,c.計測法の検討,d.実験研究による毒性評価,e.曝露量に基づく対策評価,の5つのサブテーマごとに研究成果を取りまとめましたが,これらは発生源から影響評価に至る一連の研究を担当研究者が相互に連携しながら総合的・分野横断的に実施したものです。


(環境健康研究領域 新田裕史)

国立環境研究所特別研究報告 SR-75-2006(平成18年12月発行)
「循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究(終了報告)」(平成13~17年度)

 本報告書は,第一期中期計画期間(平成13~17年度)に政策対応型調査・研究として実施した「循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する研究」の成果をとりまとめたものです。循環型社会の形成を進めることはわが国の大きな課題の一つですが,その健全な展開のためには,技術的,制度的な多くの課題を克服していくことが必要です。本課題では,循環型社会への転換を支援するための評価手法や基盤システム整備に関する分野(循環システム研究),廃棄物の発生から再資源化・処理及び処分に至るまでの様々な局面での対策技術やシステムの開発・評価に関する分野(対策技術研究),廃棄物や循環資源に含まれる有害物質の管理やそのリスク管理を念頭においた現象解明から制御に関する分野(リスク制御研究)をカバーしてきました。4つのサブテーマごとに,科学的成果が環境政策等に貢献した事例も挙げつつ,成果をまとめています。


(循環型社会・廃棄物研究センター 森口祐一)

国立環境研究所特別研究報告 SR-76-2006(平成18年12月発行)
「化学物質環境リスクに関する調査・研究(終了報告)」(平成13~17年度)

 本報告書は,新たな環境施策の円滑な運用を科学的側面から支援を行う「政策対応型研究」を担う組織として,第1期中期計画期間(平成13~17年度)において設置された化学物質環境リスク研究センターが実施した研究の成果を取りまとめたものです。新たに導入される環境リスク管理施策を円滑に運用するために必要と考えられるリスク評価手法の確立と将来の環境リスク管理のさらなる発展を目指したリスク評価手法の開発を目的とし,(1)リスク評価の効率化を目指した研究,(2)リスクコミュニケーションに向けた情報提供方法の開発,(3)リスク評価の高精度化を目指した研究の分野で7つの研究課題を実施しました。環境リスクに基づいたリスク管理では,社会に過大なコストをかけることなく真に管理を必要とする対象に十分な資源を投入することができるように環境リスク評価の精度を高めることが重要です。
また,対象とする化学物質は膨大な数に上るため,リスク評価を効率的に進める必要もあります。本報告が,化学物質の環境リスク評価の高精度化と効率化の一助になれば幸いです。


(環境リスク研究センター 白石寛明)

国立環境研究所研究報告 R-195-2007(平成19年3月発行)
「日本における光化学オキシダント等の挙動解明に関する研究-国立環境研究所と地方環境研究所とのC型共同研究-平成16~18年度(最終報告)」

 本研究報告書は,国立環境研究所と地方環境研究所とのC型共同研究「日本における光化学オキシダント等の挙動解明に関する研究」(平成16~18年度)の研究成果を最終報告としてとりまとめたものです。光化学オキシダント濃度は全国的に上昇傾向にあり,多くの地域で問題になっています。そこで,国立環境研究所は,複数の地方環境研究所と共同して,全国で測定された大気環境データを解析し,その挙動解明を進めています。本研究では,平成13~15年度に実施したC型共同研究「西日本及び日本海側を中心とした地域における光化学オキシダント濃度等の経年変動に関する研究」(国立環境研究所研究報告R-184-2004参照)に引き続き,41の参加機関が共通の方法で大気環境時間値データを解析しました。さらに,参加機関が複数のグループに分かれ,光化学オキシダントの挙動解明に関する具体的なテーマについて解析しました。本報告書は,これらの解析結果をとりまとめたものです。本報告書の解析方法や解析結果が,我が国における光化学オキシダントの挙動を解明し,対策を検討する上でお役にたてば幸いです。


(アジア自然共生研究グループ 大原利眞)

「環境儀」No.24 21世紀の廃棄物最終処分場-高規格最終処分システムの研究(平成19年4月発行)

 廃棄物(ゴミ)は私たちの最も身近な問題のうちの一つですが,「環境儀」第24号目にして初めて真正面からこの問題が取り上げられています。私たちが消費した製品等が廃棄されたあとの最後の終着駅,それが本号で焦点が当てられている「廃棄物最終処分場」です。21世紀に入って循環型社会形成が声高に叫ばれる中で,環境に対する最後の「砦」になる最終処分場のあり方が改めて問われています。(独)国立環境研究所では,循環型社会・廃棄物研究センター 井上雄三 副センター長を中心に最終処分研究に長年取り組んでいますが,それに対して,安全・安心な高い環境保全機能を有し,国民が信頼できる「高規格」の最終処分システムの姿とはどのようなものか,その難題に答えようと真摯に向き合ってきた井上さん達の研究の歴史や研究成果などが本号では紹介されています。欧米や日本が歩んできた廃棄物問題への対応や研究の歴史などもわかりやすく解説され,世界との対比の中で現在の日本の状況を客観的に理解することにも役立つと思いますし,廃棄物処理の技術的な方法のいろはや日本の「ごみの歴史」など,コラムに掲載されている情報ネタも面白く読めます。本号を通して,廃棄物の問題を正しく理解し,自分達の身近な生活の中でゴミ問題にどのように関わっていくかを考える契機にして頂ければと考えています。


(「環境儀」第24号ワーキンググループリーダー 大迫政浩)