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内分泌かく乱化学物質等のリスク評価と管理のための環境モデルとシステム開発に関する研究

シリーズ重点特別研究プロジェクト:「内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理プロジェクト」から

鈴木 規之

 総合化研究チームは,プロジェクトおよび外部の種々の研究成果を基盤として,内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類等のリスク要因物質に関するリスク評価と管理を,多くの関連情報やモデルなどを一つのコンピューターシステム上で統合的に実施するための情報システムの開発を目的として研究を行っている。

 本研究は,平成8年度に先行研究において着手されて以降,継続して行われてきた統合情報システムの開発を基盤として実施されている。そこでは,図1に示すように,多様な環境リスクの要因物質を対象として,これらの物質の環境中への排出量の推計モデル,物質の環境中での挙動および環境を経由した曝露量の推計モデル,排出削減などの対策によるリスク低減効果の予測モデルを開発し,これら一連のモデルの計算過程及び得られた予測結果,環境媒体中の実測データ,健康や人口動態に関する統計情報などの関連データを地理情報システム上に網羅的に収録した情報システムの構築,また,専門家,行政,地域住民などの関係主体間におけるコミュニケーションにおいて,こうした情報の提供の効果を探ることが検討されてきた。

全体概念図
図1 環境リスク評価・管理のための総合情報システムの全体概念
統合情報システムはMicrosoft Windowsベースのコンピュータープログラムとして,市販のGISソフトウェアを基盤に上記の各パーツを実装するよう構成されている。このシステム基盤上において,ベンゼン・ディーゼル排気粒子等の排出量分布推計モデルの構築,ダイオキシン排出量と環境中濃度の相関解析,出生の男女比の地域分布の偏りなどの解析を実施してきた。

 これらを受けて,本プロジェクトでは,これまで開発の遅れている環境中動態モデル・曝露評価モデルの開発を進め,統合情報システムの構築を更に推進するとともに,環境中動態モデルとこれを利用した曝露評価に関する新たな研究成果を発信することを目的として,特に内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類を主な対象として研究を行ってきている。

 本研究で開発を目指す環境動態モデルは,地理情報システム上に展開された排出インベントリーデータを利用して,地理的に細分化された分解能において環境濃度さらに生物体濃度等の予測を実施可能にするものである。このためには,物質の特性や必要な予測結果に応じたモデル自体の数理的課題の検討が必要であると同時に,このような精密なモデルを運用する基盤となるデータベース整備を進める必要がある。さらに,リスク管理において実際に動態モデルの推定を有効に行うためのシステム開発,および環境モニタリングデータとこれらモデル予測の結果を有機的に解析するための統計基盤の整備が必要である。

 今年度は,特に(1)河川水質モデルの基盤となる河川データベースの構築,(2)河川データベース上で河川水質モデルの構築,(3)地理情報システム上での統計解析ツールの整備,などを実施した。具体的には,(1)河川データベースについては,モデル基盤として実河川の流路をデータベース化するための設計を実施している。(2)河川水質モデルについては,図2に示すように河川水中での複合的な環境挙動を再現するモデル設計を行っている。(3)地理統計については,地理属性とデータ属性を複合的に取り扱う統計解析の実施を目標として,データハンドリングのためのツール開発を実施している。来年度以降も継続して検討を行い,モデル・データベースの完成および充実,ケーススタディー等の実施により計算結果の検証と統計システム開発等を行っていく予定である。最終的には,毒性情報データベース等との統合化も行い,実際に統合的なリスク管理に利用できるシステム構築を目指して行きたいと考えている。

(すずき のりゆき,環境ホルモン・ダイオキシン研究プロジェクト総合研究官)

モデルの概念図
図2 河川水質モデルの概念図
数種類の河川水質モデルを開発しているが,このモデルでは計算対象とする河川区間への流入出,浮遊物質(SS)との分配および底質への沈降,拡散,再浮遊などの過程を定式化し,対象の河川区間における魚体中濃度などの推定を行う。このようなモデルを並行して開発中の河川データベース上に構築しようとしている。

執筆者プロフィール

東京大学工学部都市工学科卒業,博士(工学),昭和61年東京大学工学部助手,金沢工業大学助教授を経て平成12年国立環境研究所。水質分析からはじまってダイオキシン分析,次いで環境動態モデルの研究とあれこれ手を出してきて,これらの経験を踏まえて新しい成果を作っていきたいと思っています。