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現実とバーチャルの共存?米国での研究生活

海外からのたより

川島 康子

 昨年9月から,米国メリーランド大学政府・政治学部に来ています。この学部には,かつてハリソンという教授が環境政策研究を進めようと基金を設立した経緯から,今でもハリソンプログラムという名のもとに,環境政策研究に携わる研究者や学生が集まるようになりました。近年では,他の大学でも環境研究に力を入れていますが,同大学カレッジパーク校のメリットはワシントンDCに近いことで,首都で活躍するさまざまな団体,政府関係団体や産業界,環境保護団体との交流が気軽にできます。政策を研究する場合には,これらの団体が研究のフィールドに相当するため,しばしば足を伸ばすことは重要な研究活動となります。

 キャンパスの建物は,米国南部に多い(ワシントン周辺にも多い)レンガ作りで統一されており,その一つが政府・政治学部の建物となっています。私はその中で少し広めの部屋に4人がデスクを置いている所にいますが,この部屋だけでなく他の部屋を覗いても,いろいろな国から研究者が集まってきていることがわかります。

キャンパスの外観写真
キャンパス風景

 さて,この国で近年顕著に増加しているといわれているのが,インターネットを利用した販売です。テレビやラジオの宣伝でも,最後は「詳しくは….comへアクセスしてください」で締めくくります。「.」をdotと読むので,「どっと混む」と聞こえてしょうがないのですが,それもまんざら嘘ではないようで,クリスマス前に発送が受注に追いつかない,というニュースをやっていました。

 このような社会の変化は,研究のやり方も大きく変えています。私達の学部の建物の隣には,人文・社会系の書物やデータだけを揃えた4階建ての立派な図書館があり,日本で手にできなかった書物があまりにたくさんあるので私はつい簡単に感動してしまったのですが,その書庫よりもパソコンで資料を探す人の方が多くなっています。特に,環境政策のように,年々どんどん状況が変わる分野では,書物がすぐに古くなってしまうという事情があり,私も日本にいたときと同様,かなりインターネットを駆使しています。

 インターネットを使えばどの大学でも,いや日本でも同じ質のデータが入手できるため,数年前と比べれば,首都に近いという同大学のメリットは小さくなっているのかもしれません。しかし,「現実」の大切なことは,自分で気付けなかったことに気付かせてくれることです。ショッピングモールを歩けば,インターネット販売では見つけられなかったものを発見できるかもしれません。同様に研究でも,こちらにきて,大学にいる人々と話したり,DCにある環境保護団体などが開催するセミナーでの質疑応答に耳を傾けていると,今まで気付かなかった,あるいは知らなかった環境政策研究の理論や手法,米国の環境政策に対する考え方が自然に伝わってきます。

 一年の滞在期間,インターネットの世界をうまく活用しながらも,できるだけ現実の世界で過ごしたいと思います。

(かわしま やすこ,社会環境システム部環境経済研究室)