ノースカロライナの研究学園都市から
海外からのたより
菅田 誠治
合衆国東海岸沿いの州の中で最も影が薄いかもしれないノースカロライナ。州都Raleigh,Duke大学のあるDurham,マイケルジョーダンの出身大学でもあるノースカロライナ大学(UNC)があるChapel Hillの3都市を結ぶ地域は,リサーチトライアングルと呼ばれており,この東西に長い州の真ん中やや東寄りに位置している。この一帯は,雑誌等で選ばれる全米での「住みやすい街」やら「老後に住みたい街」の上位に良く登場しているようで,人口も地価も増え続けているようである。人口は15年前に比べ3倍になったそうで,現在も新しいアパートの建設をそこかしこで見かける。
リサーチトライアングルパーク(RTP)はこのトライアングルのほぼ中央にある研究都市である。全米に150あるリサーチパークの中でもっとも成功している地域らしい。私が昨年10月から1年間,科学技術庁長期在外研究員として滞在している米国環境保護庁(USEPA)国立暴露研究所(NERL)は,このRTPの南端に近い所にある。すぐ近くには国立環境健康科学研究所(NIEHS)があり,多数の日本人研究者がいるようだが,NERLには残念ながら他に日本人は居ない。現在,ここではMOD-ELS-3/CMAQという次世代型大気汚染質数値シミューレーションモデルのプロジェクトが進んでいる。昨年の6月に最初の,今年の6月に二回目のリリースが行われた段階であり,気象モデル,排出,化学反応,物質輸送等々各パートを分業してプログラム開発・改良および性能評価が続けられている。このモデルに必要な修整等を行い,アジア域での研究に用いるのが私の滞在目的である。2週間に一度開かれる開発者ミーティングには20名余りの参加者があり,これだけの数の研究者が議論を重ねながらモデルの開発改良に携わっているのは羨ましい限りである。しかし,計算機環境,特にネットワークの速さとディスクスペースは,環境研に比べて決して良いとは言えず,苦労する場面も多い気がする。
生活面では,ガソリンが日本の4分の1ほどで,燃費は軽視されても仕方ないなと思ったり,アパートのゴミ収集がボール紙以外は全部缶も瓶も一緒であり,どうやって処理しているのだろうと思ったりする。日本のものに比べてやけに音のうるさい電化製品に囲まれながら送るこちら流の生活も慣れてくるとそれなりに快適である。ただ,食べ物だけは数カ月もたたずに日本的に戻ってしまい,東洋食材店通いが欠かせなくなってしまった。こちらで感動したことの一つは,ある日信号が故障した直後と思われる車通りの多い交差点にさしかかったときの人々の行動だった。警察もまだ到着していなかったのだが,皆が「信号があるかのような」時間間隔と順番で自主的に停まり,すべての行き来が円滑に流れていたのだった。日本でなら車通りの多い方の道の直進車のみが延々と通り続けるだろうことを考えると,こちらのfairの精神を見た思いがした。
老後を過ごす,かどうかはわからないが,もう一度住んでみたい地域であるのは間違いない。