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国際環境協力への期待 −タイ環境研究研修センターにおける経験−

ネットワーク

中島 興基

 我が国の環境ODA(政府開発援助)が近年積極的に推進されているが,その第一号として1990年にスタートしたタイ環境研究研修センターの沿革,活動,背景等について紹介し,本プロジェクトタイプの技術協力に携わった経験(1990年10月から2年間在タイ)から,緒についたばかりの環境技術協力の問題点を考えてみたい。

 タイ国では,国連人間環境会議から20年を経た今日,他の途上国と同様に公害・環境破壊が重要課題となっており,さらに,熱帯林がこの30年間に著しく減少するなど地球規模の環境問題も同時に抱えている。その背景にある最近の年10%を超える経済成長や首都バンコクへの一極集中化の社会経済構造がこれらの問題と深くかかわっており,さらに,社会基盤の整備が進まず公害対策の実効が上がっていないのが実情である。特に首都バンコクでは,国際都市としての機能を有しながら,主要道路の車洪水,何百万人分もの未処理の生活排水等による公害は深刻である。タイ国では,総合的な公害対策を進めていく中で,行政調査・研究や技術者の養成など行政支援の根本的な課題に取り組むために,1983年にこのセンターの設立の協力を我が国に要請してきた。

 これが1990年に実を結び,無償資金協力(約24億円)により1991年11月バンコク市の北東約50kmのテクノポリスに3階建て延べ8,200平方メートルの白亜のセンターが完成し,合わせて分析用などの機器も整備された。一方,水質改善など環境技術の移転を目的に,5か年計画で我が国から環境庁や自治体などからなる水質,大気などの専門家チームが1990年10月から順次派遣され,タイ側の研究者に協力してセンターの設立準備に携わるとともに,本格的な活動に向けて,教材開発や研修,分析機器の扱いあるいはタイの気候や風土に適した汚水処理技術の研究などに協力している。

 ここで紹介したセンターは,環境対策の一端に過ぎないものの,将来を考えた人材の育成,科学的知見の集積などの行政支援を担っており,両国からの期待は極めて大きい。しかしながら,環境保全,公害防止,研究領域は言うまでもなく極めて多岐にわたっており,様々な面からの技術開発や協力が必要ではあるが,開発途上国に対する環境分野の技術的協力を効果的に進めるためには,基本的には相手機関のニーズに単純に応えるだけでなく,生活環境なども総合的に吟味した上で,実施可能な協力方針を打ち出すことが肝要である。特に,プロジェクト実施前の段階において協議されたマスタープラン等にもとづく実施可能な基本方針が極めて重要な意味を持ってくる。これには事業規模,立地条件,通勤手段,生活環境の綿密な吟味,援助国の国内の組織的な支援体制の確立,派遣専門家とカウンターパートの任務と守備範囲の周知徹底,相手国関係部局との綿密な調整と協力体制の確認などが含まれるからである。

 これらのことが十分に協議調整されない,あるいは,合意事項が尊重されないままに,プロジェクトが実施段階に移行すれば,予算の執行,相手機関の受け入れ対応,技術協力範囲,研修生の受け入れ,短期専門家の派遣,国内支援委員会の性格と役割,相手国との交渉体制等に誤解や疑義あるいは責任回避が生じ,初期の目的が達成されないばかりか,相手機関と亀裂ができかねない。

 いずれにせよ,従来の公式にとらわれることなく,また,結果本位にならず,段階的かつ長期的な視点に立った組織的協力体制の整備や協調の精神が不可欠と思われる。

(なかじま こうき,地域環境研究グループ主任研究官)