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”A method for micro-determination of total microcystin content in waterblooms of cyanobacteria (blue-green algae)"Tomoharu Sano, Fujio Shiraishi, Kunimitsu Kaya:International Journal of Environmental Analytical Chemistry, 49, 163-170(1993)

論文紹介

佐野 友春

 近年、国外で水生生物、家畜、ヒトに対して多大な被害を与えている有毒アオコが、国内の冨栄養化の進んだ湖沼にも大発生していることが明らかとなっている。

 この有毒アオコのうち、Microcystisが産生する肝臓毒はミクロシスチンと呼ばれており、7個のアミノ酸からなる環状ペプチドである。ミクロシスチンは蛋白脱燐酸酵素を特異的に阻害し、発がんプロモーション作用を有することが知られている。このことから、ミクロシスチンの微量定量法を開発することは飲料水源となっている湖沼の水質を管理する上でも重要であると思われる。これまで、ミクロシスチンの定量は、HPLCで分離し、紫外吸収法により行われてきたが、ミクロシスチンの分子吸光係数が小さいためにこの方法の感度が悪かった。最近になり、ミクロシスチンLRの抗体を用いた酵素抗体法による定量法が開発されたが、この方法にはミクロシスチンの種類によって測定感度が異なるため、ミクロシスチン類の総量が分からないという欠点がある。また、HPLC/MSによる定性・定量法も開発されたが、一般的な手法となっていない。

 そこで、本論文ではアオコ中に含まれるミクロシスチン総量の簡便な微量定量法の開発を計画した。この方法は、ミクロシスチン類に共通に存在するアミノ酸Adda残基を過マンガン酸カリウムで酸化し、カルボン酸とした後、エステルへと誘導し、GC/FIDや、HPLC/蛍光検出器で定量する方法である(図)。

 まず、凍結乾燥した有毒アオコを5%酢酸で抽出した後、Sep-Pak C18カートリッジに吸着させ、メタノールで溶出しミクロシスチン分画を得た。この分画を0.2mlの90%酢酸に溶解し、過ヨウ素酸と過マンガン酸で酸化した。硫酸で強酸性とし、5mlの酢酸エチルで生成したカルボン酸(MMPB)を抽出した。その回収率は86±4%で、内部標準物質として用いたフェニル酪酸とほぼ同じであった。MMPBの構造については、別途合成した標品とMS、NMR等の機器分析データを比較することにより確認した。

 次に、GC/FIDで定量する場合には、MMPBを14%三フッ化ホウ素-メタノールでメチルエステルとした後、キャピラリーカラムを用いて分析を行った。また、HPLC/蛍光検出器を用いて定量する場合には、MMPBをアセトニトリルに溶解し、フッ化カリウムの存在下で 2-(2,3-naphthalimino)ethyl trifluoromethanesulfonate(NE-OTf)と処理し、蛍光標識した後、逆相のHPLCで分離し、励起波長259nm、発光波長394nmで蛍光を測定した。その結果、GC/FID法ではpmol(10-12mol)レベル、HPLC/蛍光検出法ではfmol(10-15mol)レベルのミクロシスチンが定量可能となった。また、GC/FID法とHPLC/蛍光検出法による定量値の間には有意な差はなかった。

 この方法は、毒物質中のAdda残基を定量する方法であるため、他のAdda残基を有する毒物質、例えば 藍藻Nodularia spumigenaが生産するnodularinの検出にも利用できる。

 また、この方法は、ELISA法で用いる抗体のような特殊な試薬や、LC/MSのような特殊な機器を必要とせず、簡便で特異性も高い非常に優れた方法であることから、飲料水源や溜め池・湖沼等の水質管理への応用が行われ始めている。

(さの ともはる,化学環境部化学毒性研究室)

図  ミクロシチスンからのMMPBの生成と、そのエステル化