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森 保文

 本研究所の構内に「たんぼ」(写真)がある。意外に思われる方もあるだろうが、このたんぼ(固く言うと水田)では、作業を委託されている川上農場の方々を中心に、田植えも稲刈りも行われ、時には収穫した米の味比べもなされる。いったい何のために、最新大型設備の並ぶ国立環境研究所に、場違いな農地があるのか?

 答えは簡単である。水田が環境に大きな影響を与えている可能性があるからである。例えば、湖沼の富栄養化は、アオコの大発生や水道水をまずく危険なものにすることで有名であるが、その富栄養化の一因に、水田からの肥料の流出が疑われている。水田にもいろいろなものがあるので、水田の環境影響を把握するには、多様な条件下にある水田を調べなくてはならない。

 このため、国立環境研究所にあるたんぼに私はいくつかの工夫を施した。400㎡ある大型のたんぼは4つに分けられ、それぞれに異なった水量と水質の潅漑水を供給できる。たんぼを通って出てくる水量も自動的に測定される。8基ある小型のたんぼでは土をしみ通ってくる浸透水の量も測定し、また採取して分析できる。肥料の与え方を変えて土の質を他のたんぼと異なったものに設定してあるものもある。大型、小型を問わず、水温や土の中の地温が一時間ごとに測定されている。

 潅漑水量が多ければ窒素やリン等の肥料分が多く流れ出すと、多くの方は思われるだろうが、時期によっては逆に潅漑水中の栄養分を水田が吸収して、水量が多い方が環境に良い場合がある。このような事実は多様な条件を設定できる本研究所のたんぼを用いた実験によって初めて明らかになってきた。現在は実験結果をもとに、どのくらいの潅漑水量の水田なら肥料分がいくら流出するか、どういう水管理をすればどのくらい肥料分の流出が減るかといったことを予測するモデルを開発している。今後は、さらに研究を進めて、水田からの汚濁負荷を減らす方法を試す予定である。これからもしばらくは、たんぼに頑張ってもらわねばならない。

(もり やすふみ、社会環境システム部資源管理研究室)

研究所構内の実験用水田の写真