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沿道大気汚染とビル風

研究ノート

上原 清

 沿道大気汚染の濃度は、その周辺の建造物の存在に大きく影響される。例えば、道路を蓋するような高架道の存在は自然の換気を阻害し、汚染濃度を上昇させる。逆に道路が広くなるなど、風通しの良くなる条件が整えば濃度は低下する。では道路構造や、周辺の建造物の存在の影響はいかほどであろうか。このような問題を明らかにするために、大気拡散風洞を用いた拡散実験が行われている。実在する市街地の縮尺模型による事例研究や、市街地を単純な形で置き換えたブロック模型による基礎的な実験から、道路幅、沿道の建物の高さなど、様々な要因の沿道大気汚染濃度に対する寄与が調べられている。以下はその1例である。

 大きな建物が建設されるとその周囲に強風が発生し、様々な生活障害を生じることが知られているが、大気汚染に対してはどうであろうか。強風が汚染を吹き払って濃度が低下するのではないだろうか。風洞実験の結果を図に示す。交差点の一角に周辺市街地の8倍の高さの建物が存在する場合を扱っている。濃度分布は建物側面の道路中心線に沿って、周辺市街地の1/2の高さで測定している。ご覧のように高層建物側面では濃度は1/3近くまで低下しており、確かにビル風による換気が行われていることが分かる。しかし、このように都合の良い風がいつも吹いてくれるとは限らない。建物の存在によって風通しが悪くなり汚染が滞留する場合には逆に濃度が増加する。風向や、道路と建造物の位置関係によってその影響は大きく変化するのである。しかし地域の卓越風向や建造物の配置計画が充分に吟味されれば、その存在の影響を積極的に利用し、汚染濃度の低減を図ることも可能である。ただし新宿三角ビルの前庭のように、風の名所がまた1つ増えることになるかも知れない。

(うえはら きよし、地域環境研究グループ都市大気保全研究チーム)

図  ビル風が沿道汚染に及ぼす影響