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2013年4月30日

研究者に聞く

Interview

柴田康行(左)と 「タイムカプセルチーム」(右)の写真
柴田康行(写真左)
環境計測研究センター 上級主席研究員

環境スペシメンバンキングを担当する
「タイムカプセルチーム」(写真右)

 国立環境研究所では環境の状態を監視し、必要に応じて警告を発したり、解決に向けた研究を進めたりしています。また、将来起こるかもしれない環境問題や新たな汚染に備えて、様々な環境試料を長期保存しています。この研究に取り組んでいる環境計測研究センター上級主席研究員の柴田康行さんに、研究の意義や成果などについてうかがいました。

環境の今を封じ込め、未来に伝える

環境試料を長期に保存する理由

  • Q:環境スペシメンバンキングとは、どんな活動ですか。
    柴田:環境試料(EnvironmentalSpecimen)を銀行(Bank)のように長期に保存することから、英語の発音をそのまま文字にして、施設を「環境スペシメンバンク」、保存活動を「環境スペシメンバンキング」といいます。私たちは環境の状態を把握し、監視するために、試料を集めて分析しています。その一部を保存し、将来のより進んだ科学技術で過去の分析結果の検証や対策の効果を確認し、新たな情報を引き出すことが目的です。現在の環境の状態を封じ込め、未来に伝えるという意味をこめて、国立環境研究所のスペシメンバンクを「環境試料タイムカプセル」と呼んでいます。
  • Q:なぜ、試料を長期保存する必要があるのですか。
    柴田:科学技術が進歩し、経済が発展する一方、20世紀の後半になると重金属や化学物質による環境汚染が大きな社会問題になりました。PCB(ポリ塩化ビフェニル)やダイオキシンなど問題になった化学物質は、対策を講じるとともに環境モニタリングを精力的に進めています。また、前回の環境儀で紹介したように、製造・使用前の毒性チェック体制の研究も進んでいます。しかし、数万種類もの化学物質の中には、まだ気づかれない毒性をもつもの、発がん物質や内分泌かく乱化学物質のように、曝露されてから影響が現れるまでに長い時間がかかるものが含まれている可能性があります。このようなことも考えて、試料を保存し、将来にわたってその影響を監視することが大事です。
  • Q:時間がたてば状況も変わるでしょうね。
    柴田:分析技術は格段に進歩し、毒性情報も増えます。過去の試料を保存しておけば、以前に見逃した細かい汚染の状況を知ることができ、生物への影響もより的確に評価できます。新しい問題が起こったときに、遡って過去の状況を知ることもできます。これまでの規制や対策の効果を、将来の進んだ科学技術で検証し、改良すべき点を見出すことにも役立つでしょう。
  • Q:スペシメンバンキングは環境モニタリングのよいバックアップということですね
    柴田:そうです。スペシメンバンキングは環境モニタリングを補強する役割を果たしています。難しいのは、科学技術が進歩した将来に役立つように、どのような試料を集め、どのように保存しておくかです。スペシメンバンクも増えてきましたが、クジラやアザラシからミミズや木の葉まで、特色ある試料を集めています。
  • Q:国立環境研究所では、いつからスペシメンバンキングを行っているのですか。
    柴田:1979年からで、もう30年以上続いています。私が研究所に入所したのは1982年で、その後いろいろな研究者と一緒にスペシメンバンキングに関わっています。研究を始めた頃は、ドイツや米国などの先行研究を参考にした模索が続きました。2002年に環境試料と絶滅危惧生物の遺伝資源を保存する環境試料タイムカプセル化事業が始まり、タイムカプセル棟が2004年に完成して転機を迎えました。

タイムカプセル棟の完成で長期保存が本格的に

  • Q:サンプルはどのくらいの期間、保存するのですか。
    柴田:人の二世代に相当する数十年間保存することを目的として、保存施設をデザインしました。
  • Q:ずいぶん長期ですね。
    柴田:発がん物質には、影響が出るまでに長い場合で30~40年かかるものも知られています。内分泌かく乱化学物質では、胎児期や赤ん坊の時の曝露の影響が大人になって現れる場合もありました。さらに化学物質の二世代後への影響も懸念され、試験法が開発されたことが背景にあります。長期間、試料を安定に保存するために、低温でかつ光や酸素のない条件が求められます。タイムカプセル棟では液体窒素を底にためた大きな金属製断熱容器の中で試料を保存しています(トップページの写真)。

     容器内は窒素ガスが充満し、−160℃に維持されています。そこに均質化した試料を保存します。また、−60℃の大型の冷凍室が2室あり、丸ごとの生物試料や大気粉じんなどを保存しています(図1)。
図1 試料の保存温度
生物試料や底質試料などを変質させないように注意しながら、数十年もの長い間、安定に保存するためには、できるだけ低い温度で光や酸素による作用をおさえて保存することが重要です。動物の体はたくさんの水を含んでいます。純粋な水なら0℃で凍りますが、タンパク質などの生体分子に接する水は−20℃でも凍らないため、長い間には変質が避けられません。−60℃前後まで下げると塩やタンパク質などを含んだ水もほぼ凍り、変質も起こりにくくなるので、マグロなどを長期保存する冷凍倉庫にはこの温度帯が使われます。理論的には、氷の結晶構造が相転移を起こす最低温度である−135℃より低い温度がもっともふさわしいといえます。タイムカプセル棟では、液体窒素で冷やされた上部の空間(−160℃)で、光も酸素も遮断した状態で均質化した生物試料を長期的に保存するとともに、マグロの冷凍倉庫と同じ−60℃で生物丸ごとや底質を保存する体制をとっています
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サンプリングの様子(左)  二枚貝(ムラサキイガイ)の粉砕(右)
  • Q:保存試料の管理は大変ですか。
    柴田:データベースを作成し、試料採取や処理条件などの情報とともに試料を管理しています。それぞれの保存施設には、温度や液体窒素の量を常にモニターし、液体窒素を自動で補充したり、異常を検知すると警報を出したりする装置がついています。ほとんどの冷却タンクでは、底にたまった液体窒素がなくなるまで試料は低温に保たれるので、万一停電などで液体窒素を補充できなくても2週間くらいは大丈夫です。実際、2011年3月の東日本大震災でも失われた試料はなく、ほっとしました。
  • Q:どんな試料を保存しているのですか。
    柴田:食物連鎖を通じて野生生物に蓄積した化学物質を調べる「生物モニタリング」(解説参照)に基づき、日本各地の沿岸のムラサキイガイなどの二枚貝を系統的に収集しています。生物にこだわるのは、化学物質の影響が懸念される野生生物において蓄積の様子を知ることが重要であり、環境中の化学物質が体内で濃縮されるので保存試料が少量ですむためです。 

     さらに、将来の科学技術の進歩によって、化学物質の濃度ばかりでなく遺伝子発現や生体分子を調べることで、その生物が受けた影響(環境ストレス)をより的確に把握し、評価できることも期待されます。
  • Q:二枚貝がモニタリングの指標になるのですか。
    柴田:ムラサキイガイは日本やヨーロッパ、アメリカなど世界の工業国の沿岸に広く分布し、体内の化学物質の量を調べると汚染状況の相互比較ができるので、沿岸海洋汚染監視の指標生物になっています(解説参照)。なお、ムラサキイガイのいない亜熱帯、熱帯域ではカキやミドリイガイが指標生物です。
  • Q:二枚貝はどこでサンプリングするのですか。
    柴田:東京などの人口密集地と汚染源から離れた離島などのバックグラウンド地で毎年サンプリングします。さらに、場所を移動しながら数年間で日本全体をカバーする体制をとっています(図2)。タイムカプセル事業が始まってから、現在までに日本列島を1周半回りました。それ以前にも1980年代と90年代に、日本各地の二枚貝を採取し、保存しました。
図2 二枚貝の採取地点
環境試料タイムカプセルでは、全国の海岸に沿ってほぼ数十~百km間隔に二枚貝の採取地点を設置して、全国の沿岸環境の状態を細かく調べていく体制を整えています。2010年度までは、人口密集地と遠隔地あわせて10地点程度を選んで毎年採取を行う定点採取地点とし、残りは地域を移動しながら数年かけて全国を一周してカバーする体制をとっていました。2011年度からは定点をやめて全国を図のように6ブロックにわけ、毎年地域をかえて調査する体制に整理する一方、震災影響研究の中で東日本太平洋側の沿岸調査を毎年行い、あわせて試料を保存しています。

手間のかかる試料の調製

  • Q:試料をどのように調製して保存していますか。
    柴田:二枚貝の身の部分を均質化し、その一部を50mLのガラス容器に小分けして保存しています。二枚貝を採取すると、その場ですぐにむき身にして液体窒素で凍らせます。そのため、試料採取の現場まで液体窒素を持っていき、試料を凍らせたまま研究所まで運びます。さらに試料を凍結したまま粉砕して均質化し、その一部を保存します。このように面倒な作業を行うのは、採取して時間がたつと代謝や排せつで体内の汚染物質濃度が変わる恐れがあること、一度凍らせた生物試料を再び溶かすと組織が壊れて酵素が働き、生体成分が変化してしまうおそれがあるからです。将来、今測れない項目まで測定するためには、試料をできるだけ変化させずに、保存する必要があります。その手法や体制を作ること自体が研究課題となります。
  • Q:粉砕するのはなぜですか。
    柴田:多数の試料を均質にすれば代表性を持たすことができるので一部を保存するだけで済み、限られた保存スペースを有効に活用できます。細かい粒子になればなるほど少量でも均質性が保たれるので、試料の粒径を数十μm程度に揃えます(図3)。化学物質の影響は、特定の臓器や組織に特異的に表れたり、生物の形態変化として表れたりする場合もあるので、一部は均質化せず丸ごと−60℃で保存します
図3 凍結粉砕試料の粒子サイズ分布(上)と粒子サイズ測定器(下)
試料はできるだけ小さい粒子に粉砕してよく混ぜ合わせ、均質にすることが大切です。粒子の一粒一粒の濃度のばらつきが結果に影響を与えるので、粒子のサイズが粗いと、それだけたくさんの量の試料を分析しなければ平均的な濃度がわからないことになります。環境試料タイムカプセルでは、保存するために凍結粉砕した試料の粒子の平均粒子サイズが100μm(0.1mm)以下になるよう、粗粉砕と微粉砕の2段階の粉砕作業を行い、微粉砕後の試料の粒子サイズの分布(粒径分布)をレーザーを使った粒度計で測定しています。さらに、小分けしたあとの試料ビンから一部の試料をとってその中の重金属濃度を測定し、ビン同士ならびに同じビン内の分析値のばらつきが数%程度に収まることを確認しています。
  • Q:粉砕は、どんな器具を使うのですか。
    柴田:最初に液体窒素で冷やした金属チタン製の器の中で、粗く砕いたあと、遊星ボールミルという装置で細かく粉砕します。凍った生物試料は硬く、また粉砕容器も重いので、粉砕作業は重労働です。たとえ金属製でも、容器が削られて金属くずが試料に混入することは避けられません。そのため重金属の分析を妨害しない、チタン製で統一しています。また、試料が汚染するのを避けるために、クリーンルームで作業するなど細心の注意を払っています。

     さらに、定期的に超純水を凍らせて、同じ粉砕作業を行い、汚染の有無を確認しています。純水氷の粉末の一部は試料と一緒に保存し、将来測定するときに粉砕過程で汚染がなかったことを確認できるようにしています。
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凍結試料の調整(左)  試料の凍結保存作業(右)

化学物質汚染の過去を明らかにする

  • Q:今までどんな化学物質を分析しましたか。
    柴田:重金属に加え、PCBやDDT、ダイオキシン、ベンゾピレンなど多くの有機化合物を分析しました。最近では、新たな汚染物質として注目されるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などの有機フッ素化合物を分析しています。
  • Q:保存試料からどんなことがわかりましたか。
    柴田:船底塗料に使われていた有機スズ化合物は沿岸生物に毒性が強く、2001年に規制のための国際条約が締結されました。国内では1990年前後に自主的な取り組みや監督省庁からの指導が進み、濃度レベルが下がったことが期待されましたが、従来の分析法では感度が低く検証が十分にできませんでした。その後、新たに開発された高感度分析法で、保存試料を再分析したところ、1990年頃を境に有機スズの濃度が減少しており、自主取り組みや指導の効果を確認できました(図4)。それから1997年のナホトカ号重油汚染事故を覚えていますか?
  • Q:タンカーが沈没し、北陸沿岸が重油で広く汚染され、多くの人々がボランティアで回収や除染作業をした事件ですね。
    柴田:その地域の汚染調査も行っています。沿岸の二枚貝中の汚染物質の濃度を定期的に測定したところ、事故後数年でほぼ事故前のレベルにまで戻っていることがわかりました(図5)。過去の保存試料と比較することで、汚染がどれくらい深刻なのか、除染などで環境が修復したのかを確認できます。

図4 新たな分析手法による保存試料の再分析
環境省が毎年行っている「化学物質環境実態調査」では、東京湾ウミネコ(1982年から採取)の胸筋中の有機スズ(トリブチルスズTBTおよびトリフェニルスズTPT)濃度を、それぞれ1985年並びに1989年から分析しています。残念ながら従来の分析方法(GC/FPD)では感度が足りず、1989年と1990年のTPTを除いて有機スズを検出できなかったため、その変化の様子がわかりませんでした(左図:矢印はTBT(緑)ないしTPT(ピンク)の検出限界を示す)。新たな高感度な分析方法(GC/AED)で保存試料を再測定した結果、いずれも1980年代前半から後半にかけてほぼ一定の濃度で推移し、1990年頃を境に濃度が低下し、規制の効果が上がっていたことが確認できました(右図)。なお、縦軸は試料中の有機スズ濃度で、対数軸で表されています。

図5 重油汚染事故のフォローアップ
1997年に日本海側で起きた重油汚染事故の際には、福井県から石川県にかけての沿岸で二枚貝や水などの採取と分析を行いました。事故後の経過を監視するため、二枚貝の採取と分析をその後数年間継続して行いました。ナホトカ号の重油に含まれる特徴的な成分のパターンを手掛かりとし、特に二枚貝中のベンゾピレン濃度に着目して分析を継続した結果を図に示します。横軸は採取年月日、縦軸はその時とった沿岸各地点の二枚貝中ベンゾピレン濃度を対数軸であらわしています。事故直後はかなり高かったベンゾピレンの濃度は、その後数年の間に次第に下がっていきました。幸い、事故前に近くで二枚貝を採取し保存しており、その分析から事故前の濃度が0.1ng/g程度であったことがわかりました。この結果から、2003年には生体影響が懸念されるベンゾピレン濃度がほぼ事故前に戻ったことがわかります。
  • Q:その他どんな成果が得られましたか。
    柴田:タンチョウの死因調査の際も、ほかの機関に保存されていた試料が対策に役立ちました。北海道で見つかったタンチョウの死がいの調査を依頼され、分析した結果、ある農薬の蓄積が高濃度に見つかり、農薬中毒死と判断しました。これをうけて釧路に保存されていた死因不明のタンチョウ試料を北海道の研究機関で分析した結果、さらに2体から同じ農薬が見つかり、同様の事故が過去にもあった可能性が高まりました。これがきっかけで、この農薬の使用制限がさらに徹底されました。

     今は東日本大震災の環境影響を調べるために、東日本太平洋側の過去の採取地点と同じところで二枚貝の採取を実施し、各種汚染物質も分析しています

スペシメンバンキングの将来

  • Q:保存試料がさまざまに活用されているのですね。
    柴田:監視の対象を沿岸から陸域まで広げることも課題です。二枚貝や魚では陸上の環境を監視できないため、トンボによる陸域環境モニタリングを検討し、この結果をもとに、全国各地のトンボを捕まえて化学物質の環境レベルを調べる「トンボプロジェクト」を行っています(コラム参照)。
  • Q:トンボも保存しているのですか。
    柴田:幸い多くの市民の方々にご協力いただき、全国各地のトンボを送っていただきました。「環境の監視のため」と協力をお願いしたところ、以前に環境汚染が問題となった場所の近くや山間部のごみ埋め立て処分場のそばにわざわざ出かけて採取してくださる方もあり、市民の皆さんの環境問題に対する意識の高さを改めて感じました。トンボプロジェクトでは地方自治体研究者ともネットワークを作り、試料を収集していますが、市民の皆さんのおかげで、濃度の高い地点や発生源の情報を自治体研究者と共有できました。たくさんの試料をお送りいただき、思ったより分析に時間がかかっていますが、早く測定結果をみなさんにお返しできるよう、頑張っています
  • Q:スペシメンバンキングには、さまざまな意義がありますね。
    柴田:スペシメンバンキングは環境モニタリングを補完する重要な活動です。ストックホルム条約という化学物質対策に関わる国際条約でも意義が認められ、条約を支える事業の一つとして位置づけられました(「研究をめぐって」参照)。保存試料の活用例には、遺伝子配列の解析による生物進化の研究など、予想もしなかったものもありました。汚染監視だけでなく、環境研究の推進に役立つ基盤的な意義も持たせることができます。

     スペシメンバンキングの推進には多くの作業が必要な上、さまざまな協力も欠かせません。こうした地道な活動を世代をこえて伝えていくことの重要性をもっとアピールしなければと思っています。

解説

  • 指標生物を使った生物モニタリング
     一般に、環境の状態をそこに生活する野生生物に基づいて評価したり監視したりすることを生物モニタリング、そのために選ばれる野生生物を指標生物と呼びます。環境汚染のモニタリングでは、生物が食物連鎖等を通じて化学物質や重金属類を体内に蓄積する性質を利用しています。どのくらいの倍率まで濃縮して蓄積するかは生物の種類によっても異なり、汚染監視の環境モニタリングでは、監視をしたい場所に広く分布していて数が多く、採取も容易で濃縮率も高く、分析に適した種類を指標生物として選びます。

     指標生物を大きく分けると、短寿命で食物連鎖の比較的低い段階に位置し濃縮率はあまり高くないものの毎年の環境変化の監視に適したグループと、寿命が長く食物連鎖の高位に位置していて環境残留性、生物蓄積性の高い物質の監視に適したグループの2つがあります。前者の例としては、岩場や岸壁などに多いムラサキイガイがあげられます。ほかにスズキやアイナメ等の魚類、陸上では木の葉やミミズ、ネズミ、タヌキなども利用されています。

     一方、後者の例では、肉食性の長寿命生物として海棲哺乳類(アザラシなど)や魚食性の鳥類(カワウやウミネコ、海外ではアジサシやミヤコドリの仲間等)並びにその卵などが使われています。米国では陸に乗り上げて死んだクジラが見つかると、その皮脂などを回収・保存する事業もあります。

     ちなみに、現在、日本の沿岸の多くの場所でみられるムラサキイガイは、1930年前後にヨーロッパから船に付着して渡来した外来種だといわれており、ムラサキイガイ(Mussel)を用いた沿岸海洋モニタリングMussel Watchは日本のみならず世界の沿岸域の汚染の状況を相互に比較可能な手法として多くの結果が報告されています。

コラム

トンボの写真
  • トンボを使った環境モニタリング(トンボプロジェクト)
     沿岸の環境モニタリングに使われる二枚貝Musselのように、手軽に全国規模で陸上のモニタリングを行なう生物を見出すことは、2002年から始まった環境試料タイムカプセル化事業の課題の一つでした。肉食性の昆虫や昆虫を捕食するクモやトカゲにPFOSなどの有機フッ素系界面活性剤が比較的高いレベルで蓄積していることがわかったことが、この研究をはじめたきっかけです。特に、様々な場所に広く分布していて数も多く、飛び回って広い範囲の環境を監視でき、捕まえやすいトンボを選んでモニタリング手法の検討を進めました。ヤゴから羽化した直後のトンボに印をつけて放し、数日~数週間たってから再度捕まえて、蓄積濃度が時間とともにどう変化するかも調べてみました。当然ですが、一度放したトンボをもう一度見つけて捕まえるのは難しく、たくさんのトンボに印をつけて放す必要があります。そこで、近くの小学校の協力を得て、プール掃除のときに大量のヤゴをもらい、研究所の実験池に放して毎日毎日羽化したトンボに印をつけては放し、時間をおいてまた追いかけまわす作業もしました。こうしていろいろ調べた結果、シオカラトンボやノシメトンボなど、全国に普通にいるトンボの成熟したオス同士を比較して、各地の汚染状況の概要を把握できることがわかりました。この結果をもとに、研究者や愛好家のネットワークや一般市民への呼びかけを通じて全国各地でトンボを捕まえて保存するとともに、化学物質の環境レベルを調べる「トンボプロジェクト」を進めています。