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2013年4月30日


環境スペシメンバンキングをめぐる動き

研究をめぐって

 現代社会では、数多くの化学物質が生活の様々な面で活用されています。

 これらが適正に管理されているか、環境を汚していることはないか、絶えずモニタリングする一方で、集めた環境試料を保存し、管理体制の有効性や毒性などの見逃しのないことを将来の優れた科学技術で評価するために、世界各地でスペシメンバンキングが進められています。

世界では

 スペシメンバンキングは欧米先進国を中心に長い歴史を持っています。スウェーデンでは自然史博物館に保存されていた鳥のはく製の羽毛から、農薬に由来する過去の水銀汚染の歴史と鳥類減少との因果関係が明らかになったことがきっかけで、40数年前からスペシメンバンキングが始まりました。博物館の展示品や標本収集活動と汚染分析用試料収集・保存活動が一体となった、ユニークな活動を続けています。カナダや米国、ドイツも長い活動歴を持っています。カナダでは野生生物並びに魚を中心とする2つのバンクがあり、特に野生生物バンクは半世紀に及ぶ長い歴史をもっています。米国とドイツは環境試料に加えてヒト生体試料の保存も進めており、大がかりな液体窒素冷却保存施設を有して活動しているところが特徴です。ドイツは環境省の管轄下でモニタリングと一体となって動いており、均質化して保存する試料の一部は大学等にも提供し、学術成果の発信を共同で進める形をとっています。

 一方、米国は国立海洋大気庁NOAAのStatus & Trends ProgramにおけるMussel Watchなど、外部機関の長期環境モニタリングプログラムとも連携して試料収集、保存を続けています。最近、韓国や中国にも新しいバンクが誕生しました。2013年10月には、中国の新しいバンクの完成を祝って上海でスペシメンバンキングの国際シンポジウムが開催される予定で、その準備が進められています。

図7 世界のスペシメンバンクの地図

国際条約にも認められたスペシメンバンキングの意義

 化学物質の中でも環境残留性が高く生物蓄積性の高い有害な物質(残留性有機汚染物質:POPs)は優先して対策に取り組む必要があり、ストックホルム条約と呼ばれる国際条約が締結されて世界全体で協調しながらPOPsの廃絶や削減が図られています。当初PCBやダイオキシンなど12物質であった条約対象物質は、その後PFOSを含む10物質が新たに追加され、さらに追加審議が続いています。またこの条約の第16条には、条約の有効性を全世界の環境モニタリング情報を定期的に集約して評価することが定められており、その手法(全球モニタリング計画:GMP)を定めたガイダンス文書が作られています。GMPのもとでモニタリングのために集めた試料を保存しておけば、各国の施策の効果の確認や、新規追加物質や追加提案物質の年変化の解明、自国で分析できる体制が整うまでの間の途上国試料の保管など様々な活用が期待されることから、GMPにスペシメンバンキングも組み込むことが2009年の第4回締約国会議で決議され、その主執筆者を当所の研究者が務めました。国際的にも認知が進んだことで、途上国を含めてスペシメンバンキングの輪がさらに広まるものと期待されます。

図8 (クリックで拡大画像を表示)
図8 ストックホルム条約の対象化学物質の構造

日本では

 国内では国立環境研究所のほかに、愛媛大学がes-BANKと呼ばれる野生生物等のスペシメンバンクを運営しています。また、旧国立公衆衛生院の大気フィルター捕集試料コレクションなど、ほかにもいくつかの試料保存事業があります。なかでも愛媛大学では、PCBなどの残留性有機汚染物質に特に焦点をあてて長く研究を進めてきており、アザラシやイルカなど、生態系の上位にいる生物種を数多く含んでいて、世界各地の試料収集、保存、分析が行われている点がユニークです。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では、1979年から保存施設を作って環境試料の保存を開始しており、2002年からは環境試料タイムカプセル事業として継続的な収集、保存を続けています。生物種の中では比較的短寿命で汚染の年変化の追跡に適した二枚貝や魚類などを主たる対象としており、ほかにイカや鳥類、トンボ、底質や雨水、大気粉じんなど、様々な試料が収集、保存されてきています。さらに、環境省や他の研究機関とも連携して、それらの機関がモニタリングのために集めた試料の一部を預かって、長期に保存する事業を進めています。2004年には環境試料タイムカプセル棟の完成を記念して国際シンポジウムを開催しました。また、2007年には日本で開催されたPOPsに関する国際会議の中でスペシメンバンキングに関するセッションを主催し、ストックホルム条約では各国と連携しながらスペシメンバンキングの章の執筆にあたるなど、国際連携強化にも努めています。その一方で、より多くの化学物質を網羅的に監視するための新たな分析手法の開発にも取り組んでおり、その改良や実用性評価などにも保存試料が役立つものと期待されます。

スペシメンバンクに関する情報源

いずれも、各国の環境試料バンクの紹介ページがあります。