ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2013年1月31日

化学物質の2020年目標の達成に向けた世界の挑戦

研究をめぐって

 世の中に流通する化学物質の環境への影響を評価する方法として、動植物を用いた試験が行われますが、数多くあるすべて化学物質に対しての試験を実施することは困難です。

 化学物質の毒性予測の研究は、世界でも最先端の研究分野の1つです。ここでは、研究の背景や国内外の動向、そして、KATE開発の体制を簡単に紹介します。

世界では

 2002年のヨハネスブルグサミット(WSSD)で、2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への悪影響の最小化を目指すという目標が立てられました。世の中に流通する化学物質の環境への影響を評価する方法として、動植物を用いた試験が行われます。これらの試験結果を用いて、各国・地域では化学物質管理を実施しています。環境中つまり、生態系への化学物質の影響については、メダカなどの魚類、ミジンコなどの甲殻類、藻類などの水生生物が主な試験生物となります。魚類の場合には、定まった時間内に、試験に用いた生物種の半数が死亡する化学物質を含む溶液の濃度(半数致死濃度)や影響を受けない最大の濃度などの毒性値が指標になります。試験を実施する機関や国によって、試験対象の動植物や試験の方法がバラバラであると、同じ化学物質に対して、異なった結果(毒性値・データ)を生じ、得られたデータを相互に利用することはできません。国際的な調和がとれた基準(OECDテストガイドライン)によって、毒性値を化学物質の管理のために相互利用することが可能になっています。

 市場に流通する化学物質の数は数万種類以上にのぼり、すべての物質に対して試験を実施することは困難です。最近では、試験コスト・時間と共に動物愛護の観点から、動物ではなく細胞実験や既存のデータを活用した手法による代替方法の提案・活用が進みつつあります。このような背景から、毒性値を予測する方法の開発が課題になります。

 OECDでは、2000年代前半から規制に用いられるQSARに求められる要件が検討され、内容を説明する文書が公開されるようになりました。そして、2004年から欧州の主導でOECD QSAR Toolboxという毒性値を予測するための基盤となるソフトウエアが開発されています。欧州では化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則(REACH)*1 が2007年6月に発効になりました。REACHでは、(Q)SAR関連文書が整備されており、OECD QSAR Toolboxで作成したQSARモデルやカテゴリーアプローチでの結果は化学物質の影響評価に必要なデータとして活用されています。米国環境保護庁では、1995年に生態毒性QSARモデルECOSARが公開され、米国での化学物質の審査の中で活用されています。生態毒性以外の分野のプログラムも存在し、化学物質特性(生分解・蓄積)予測(CERI)システムや有害性評価支援システム統合プラットフォーム(HESS)*2 などが日本国内で開発・公開されています(表1)。

  • *1 REACH
    Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals
  • *2 HESS
    Hazard Evaluation Support System Integrated Platform
表1 (クリックで拡大画像を表示)
表1 規制に係る指標の計算機による主な予測プログラム
米国環境保護庁では、自ら開発したBIOWINやECOSARを化学物質の審査に活用しています。化学物質の分解性と濃縮性は、環境中の挙動を把握するうえで基本的な項目で、化学物質の微生物による分解度試験と魚類への蓄積性試験でそれぞれ評価します。変異原性は、化学物質などがDNAや染色体に突然変異を起こさせる性質を指し人の健康影響を判断するうえで必須です。これらの予測プログラムでは、分解性、濃縮性、変異原性の有無が示されます。

日本では

 日本では、ポリ塩化ビフェニル(PCB)のように環境中で分解せず(難分解性)、食物連鎖を通じて濃縮(蓄積性)があり、しかも人の健康を損なうおそれ(人への長期毒性のおそれ)がある化学物質の化学物質審査規制法(化審法)による規制が1973年に始まりました。化審法は、高い蓄積性がない物質についても、環境中での残留の状況によって規制がされるように1986年に改正されましたが、化学物質による環境汚染を通じた人の健康被害を防止することが目的でした。このため、世界の化学物質管理関連の法律の先駆けであった化審法でしたが、OECDからの環境保全成果レビュー(2002年)では、日本の化学物質管理政策に生態系保全を含むよう規制の範囲をさらに拡大することや、生態系保全に係る水質目標を導入すること、などの勧告を受けることになりました。2003年に改定された化審法で、環境中の動植物への影響に着目した審査・規制制度の導入が行われました。さらに、新たな化学物質ばかりでなく、市場にあるすべての化学物質がリスクに応じて管理されるように改正(2009年)されました。このため、化学物質の曝露と有害性の情報から環境リスクを評価するために、生態毒性の予測法の開発がこれまでになく必要となっています。

国立環境研究所では

 化学物質の生態影響に関連した3つのプロジェクト研究が、野外調査を中心に1985年から1997年にかけて実施されてきました。これらの研究では、毒性と生態影響の因果関係に関して研究が進められ、重金属や農薬が水界生態系に及ぼす影響、化学物質の生態系での生物間の相互関係を含めた複合的な影響の評価、生態系の影響のモニタリング法や生態毒性試験法の開発がなされました。一方、化学物質の物質としての毒性に着目した研究は、環境中の動植物への影響に着目した規制制度の導入などの新たな政策ニーズに対応した調査・研究(政策対応型調査・研究)「化学物質環境リスクに関する調査・研究」(SR-76-2006)の一部として具体的に開始され、続いて「環境リスク研究プログラム」(SR-84-2008、R-98-2011)で研究がすすめられてきました。環境省請負業務として「生態毒性予測システムKATE」試用版を2008年に、スタンドアロン版とWeb版の両方を2009年に大分大学と共同で完成しました。現在は、生態影響試験に関するリファレンスラボの機能などの研究基盤の整備を行い、生態毒性試験のデータの信頼性を確保しながら、生態毒性予測システムKATEの開発・更新作業が進められています(図7)。

図7 環境リスク研究センターでのKATEの開発体制
生態毒性の予測のための基礎となる生態毒性データは、同じ試験条件で得られなくては比較することができません。環境リスク研究センターでは、試験データの信頼性を確保するために、試験法の標準化のための研究や、試験生物の供給などの事業を生態影響試験のレファレンスラボラトリー機能の整備として実施しています。信頼性の確認された生態毒性データは、毒性予測などの研究に用いるとともに、化学物質データベース(WebKis-Plus)等を通じて一般に提供しています。

関連新着情報

関連記事

表示する記事はありません