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第8回NIES国際フォーラムを開催しました

第8回NIES国際フォーラムの背景

本年度のフォーラムは一昨年、昨年に続きZoomを利用したオンライン会議として開催しました。AIMをテーマにした今回のフォーラムでは、NIESとともに東南アジアでのAIMの展開で連携をはかっている地球環境戦略研究機関(IGES)と共催の下、AIMの結果を政策に反映しようとしている中国、インドネシア、マレーシア、タイで各国の政策決定に関わる研究者による研究内容の紹介、政策決定者を加えて統合評価モデルへの期待と改善について議論しました。

基調講演

基調講演1では、本フォーラムのファシリテータである増井利彦社会システム領域長が“AIM Initiatives and Experience in Japan”として30年以上に渡るAIMの研究の歴史の解説、AIMの複数モデルによる分析シナリオを用い2050年に日本が脱炭素社会を実現するために必要な技術・要素について説明しました。
基調講演2では“Japan’s Support Towards Asia’s Net-Zero Emissions”として環境省地球環境局の西川絢子インフラ推進官が“ASEAN Climate Vision 2050“などの長期戦略等の計画策定における環境省・日本としての関わりやJCM、JAIFの活動による支援など実務的な内容の説明を行いました。

基調講演1の様子
基調講演2の様子

セッション1脱炭素社会の実現に向けて(Toward the Realization of a Decarbonized Society)

NIESの花岡達也室長が座長を務め、脱炭素社会に向けた移行オプションの評価ツールとしてのAIMについて、統合評価モデルとしてAIMを開発し、国レベルの脱炭素社会の実現に向けた様々な分析を行っている中国とインドネシアから報告を行いました。Dr. Jiang(能源研究所)より、中国におけるモデリングではSDGs(気候緩和、大気質、水需要など)の間をカバーする多目的モデルが重要であること、中国が2060年カーボンニュートラル目標達成のためにエネルギー転換を促す技術的な実現可能性や潜在力としてPVをより迅速により安く促進している事例が紹介されました。インドネシアでのモデリングについてはDr. Siagian(バンドン工科大)が将来の想定やセクター別の結果を、需要サイドの電化やエネルギー供給サイドの再生可能エネルギー増加の例などを交えて報告するとともに、2060年ネットゼロ排出の実現に向けた障壁として、マルチセクターの課題、電気自動車の早期普及やインフラ整備、資金調達などについて提示しました。
パネルディスカッションでは加藤氏(OECC)がベトナムでのJICA低炭素技術評価の経験から科学的情報による意思決定の重要性と、国や地方政府の気候政策実施能力に対するニーズの高まりに対してAIMに期待していることを発表しました。議論の中で、ステークホルダーの関与促進のためにモデリング結果を解釈できるよう政策決定者向けサマリへのリクエスト、政策設計やエネルギー転換の設計などの“設計”の重要性の認識、政策立案者やステークホルダーの信頼を得るためにモデリングの質をより向上させる必要性、が結論として示されました。

パネルディスカッションの様子
上段左から:花岡室長、加藤氏、Ucok Siagian博士、
下段左から:増井領域長、Jian Kejun博士

セッション2政策支援ツールとしてのAIM(AIM as a Policy Support Tool)

ASEAN気候変動戦略行動計画(ACCSAP)のプログラムマネージャーを務めるIGESの有野洋輔プロジェクトリーダーが座長としてタイとマレーシアの研究者によるAIMの趣味レーション結果が気候緩和政策にどのように利用されたかを示すとともに、政策決定プロセスの視点から統合評価モデルに対する期待と脱炭素政策支援に向けたAIMの貢献と新たな方向性についてのディスカッションを行いました。また、Prof. HO(マレーシア工科大)よりマレーシアのイスカンダール地方でLCSシナリオ作成にAIMを使用した実例とその後同国内の他都市へ普及させた方策について、Dr. Limmeechokchai(タマサート大)よりタイ国内のネットゼロエミッション2050のNDC策定にAIMを使用した実例とデータ分析方法が説明されました。
パネルディスカッションには政策策定の視点から3名がディスカッサントとして加わりました。
Dr. Sok(ASEAN事務局)は東南アジア地域の環境問題の特性と脱炭素への7つの優先的取り組み、その実現のための体制であるACCC(the ASEAN Centre for Climate Change )へのAIM導入の要望について述べました。Mr. Khamphilavanh(ラオス政府)はラオスでのAIMの各モデルを使用した政策決定手順と若手研究者をAIMトレーニングに参加させるメリットについて説きました。特にASEAN諸国を中心とした研究者研究コミュニティ、低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNET)事務局長を務める石川氏(IGES)からベトナム政府とのAIMを用いた科学に基づいた政策決定サポートの実践の説明がありました。ディスカッションの中で、アジア地域でのAIMの発展や展開を通じて科学に基づく政策や政策に基づく科学を推進するために、産業界、NGO、市民や若者を含めてトップダウンとボトムアップの両方から主体性と関与が必須であること、国から地方までの様々なレベルの関係者が相互学習を含め都市間連携などでモデル化と計画のギャップを埋めること、例えばLULUCFやAFOLUセクターのモデリング、NbS(Nature-based Solutions)などとの新しい技術やビジネスモデルを取り入れるための改善点の検討などの必要性が示されました。

パネルディスカッションの様子
上段左から:有野博士、Chin Siong HO教授、石川氏、 下段左から:Vong Sok博士、Bundit Limmeechokchai博士、BounEua Khamphilavanh氏

終わりに

今回はアジアで主に展開されているAIMをテーマに、日ASEAN友好50周年事業の認定を受け、これまでの国際フォーラムの主な参加者だった研究者のほかに政策決定者にも登壇頂き、実践的な議論を交わすことが出来ました。また国際フォーラムも3年目のオンライン開催となりましたが、過去の現地開催での共催機関からの視聴者も多数みられました。コロナ禍の影響で中断されていた国外との対面の研究交流が少しずつ再開されている中であり、引き続き協力関係の維持につなげていきます。
なお、発表資料のうち講演者の了解を得られたものはフォーラム公式HP(英語のみ)に掲載しております。
アーカイブ動画はNIES公式YouTubeチャンネルにて公開中です。
第8回の動画はこちらから。
※講演者の肩書は当時のものです。

(写真・成田正司(企画部広報室))

会議の様子