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2012年12月8日

扉が開いているうちに:「ドーハ気候ゲートウェイ」の採択

 COP18/CMP8がすべての作業を終えたのは、8日(土)21時48分(現地時間)だったようです。会期は、7日(金)18時までの予定でしたから、丸一日以上延長しました。

 私は、8日午前1時過ぎのフライトで日本に帰ることにしていたので、ドーハ会合の結末を見届けることはできませんでした。7日の19時過ぎまで会場にいて、会議を傍聴していました。

 AWG-LCA閉会会合で議論されることになる合意文書案を見て、私はとても驚きました。今回の大きな関心事項の一つである、資金の項が白紙になっていたからです。資金に関する合意ができないのでは、全体の合意が成立するはずがありません。

写真1:資金の項が白紙になっているAWG-LCA合意文書案(FCCC/AWGLCA/2012/L.4)。「閣僚級協議の結果を待つ」という注意書きが付されています。

 通常は、AWG-LCAでの合意文書をCOPに送り、COPでこの合意を採択する、という手続きになっています。同様に、AWG-KPで合意した文書をCMPに送り、CMPで採択することになっています。

 しかし、今回、AWG-KPもAWG-LCAも、ブラケット(「括弧(かっこ)」を意味します。交渉中、文書のうち、締約国が同意できない箇所につけます)のない文書に合意することはできませんでした。AWG-KPは、5日に閉会しましたが、ブラケットがたくさんついた文書案をCOP/CMPに送りました。AWG-LCAは、示された合意文書案に異論が噴出し、合意できていない文書をそのままCOPに送りました。資金の白紙のページもそのままです。いずれも、閣僚級協議からのインプットを得て、COP/CMPで議論することになりました。

 AWG-KPが設置されたのは2005年、AWG-LCAが設置されたのは2007年です。それぞれ、7年、5年の時間をかけ、世界中の多くの人が大きな労力を割いて交渉してきて、ここまでしかできないのか、と多国間交渉の難しさを改めて感じました。

写真2:閉会全体会合の前に、余剰排出枠の繰り越し等について、ロシア、ウクライナ、ベラルーシと協議を行うアティーヤ議長(写真出典:ENB)

 その後、紆余曲折ありましたが、閣僚からのインプットを得て、何とか、一連の決定文書の採択に至りました。これら一連の決定文書は、「ドーハ気候ゲートウェイ」と名付けられました。

 ドーハ会合の主な成果は、以下の4つです。十分でない点はいくつも見られますが、今次会合の主要な論点(今回の最初の記事(http://www.jccca.org/trend_world/conference_report/cop18/cop18_01.html)でも示しました)に対応するものとなっています。

1) 京都議定書の改正の採択


○京都議定書第2約束期間の長さは、2013年1月1日から8年間。


○2013年1月1日以降も京都議定書を円滑に継続できるようなルールに合意。


○第2約束期間に温室効果ガスの排出削減目標を持つ先進国は、遅くとも2014年までに、自国の削減目標の再検討を行う。


○京都メカニズム(クリーン開発メカニズム(CDM)、共同実施(JI)、国際排出量取引(IET)は、2013年1月1日以降も継続する。


○第2約束期間に温室効果ガスの排出削減目標を持たない先進国は、CDMクレジットの利用を制限される。


○第1約束期間に排出削減目標を持つ先進国のうち、オーストラリア、EU、日本、リヒテンシュタイン、モナコ、スイスは、第1約束期間の余剰排出枠を第2約束期間に繰り越さないことを宣言。


2) ADPの作業計画及び2020年より前の目標/行動の引き上げ


○2020年以降の国際枠組みについての議論と、目標/行動のレベルの引き上げの更なる方策を模索するため、十分な数の会合/ワークショップを開催。


○締約国は、2013年3月1日までに、自らの野心を引き上げるための行動/イニシアチブ/オプションについての見解及び提案を条約事務局に提出。


○2020年以降の気候変動対処のための国際枠組みに関する交渉テキストを、2014年末までに作成。


○潘基文国連事務総長は、2015年という期限(2020年以降の気候変動対処のための国際枠組みに関する合意の期限)を守るという政治意思を高めるため、2014年に首脳会議を開催すると発表。


3) AWG-LCAの作業の完了


○途上国への資金支援と技術支援に関する基盤の整備


・緑の気候基金の事務局の韓国への設置、及び、資金に関する常設委員会の作業計画を承認。緑の気候基金は、2013年後半に、韓国の松島(ソンド)において作業を開始する見込み。2014年に活動を開始する。


・気候技術センター(CTC)のホストとして、UNEP主導のコンソーシアムを承認。最初の期間は、5年。CTCは、気候変動枠組条約下の技術メカニズムの実施部門。また、CTC諮問会議を設置。  


4) 長期資金に関する合意


○先進国は、2020年までに、気候変動への適応策と緩和策の両方に、1,000億米ドルを確保するという観点から、途上国に対して、長期資金支援を継続するという先進国の約束を再確認した。


○先進国に対し、少なくとも2010年~2012年の期間に提供された資金の年平均レベルと同等レベルで、2013年~2015年に資金支援を行うことを奨励。


○2013年には、気候資金支援のさらなる動員と、どのように長期資金支援目標(2020年までに先進国全体で、公的資金と民間資金合わせて、年間1,000億米ドルの動員)を達成するかをCOP19(於ワルシャワ(ポーランド))に報告するため、長期資金支援に関する作業計画を継続する予定。


○ドイツ、英国、フランス、デンマーク、スウェーデン、欧州委員会が、2015年までの資金支援額を発表。総額約60億米ドル。


アティーヤ議長は、「ドーハ会合は、さらなる野心と行動への新たな扉を開いた。カタールは、締約国がこの偉業を成し遂げるのに貢献できたことを誇りに思う。各国政府及び閣僚に感謝したい。各国政府は、ドーハ気候ゲートウェイを通じて、気候変動問題の解決策をもって、速やかに行動すべきである」と述べました。


フィゲレス気候変動枠組条約事務局長は、「複雑かつ難しい会議を成功させた、議長国カタールに感謝する。我々がするべきことはたくさんある。ドーハ会合は、正しい方向性への更なる一歩となったが、まだまだ長い道のりを進まなければならない。地球平均気温上昇を2℃より下に抑えるための扉はまだかろうじて開いている。科学がこれを示している。気候変動交渉は、行動と野心とを加速する具体的な方策に焦点を当てるべき。世界は、地球全体の平均気温上昇を2℃より下に抑える資金も技術も持っている」と述べました。


大変厳しい交渉が2週間続きました。交渉はぎりぎりのところで崩壊せずに済み、次につながる合意はできましたが、2020年以降の国際枠組み交渉の見通しは立たないままでした。2015年の合意期限までに残された時間は少なく、問題は山積しています。かろうじて扉が開いているうちに、行動することが重要です。科学からのメッセージを受け止め、「70億人の1つの挑戦」は、続きます。

写真3:ペルシャ湾からの日の出

執筆:久保田 泉
(国立環境研究所 社会環境システム研究センター)

※全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)ウェブサイトより転載