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2011年12月1日

ギガトン・ギャップを埋めるには

 今日(12月1日)は、本日開催された、サイドイベントを紹介したいと思います。国連環境計画(UNEP)がダーバン会合直前に公表した、「Bridging the Emissions Gap」という報告書のお披露目のイベントです。

写真 サイドイベント“Bridging the Gap”の様子。盛況でした。

 イベントの内容に入る前に、この報告書の背景を説明します。この記事のタイトルの「ギガトン・ギャップ」とは、地球温暖化抑制のために必要な削減レベルと、現在各国が掲げている温室効果ガス排出量の削減目標(2020年)をすべての国が達成した場合に実現できる排出レベルとの間に大きな隔たり(ギャップ)があることを指しています。UNEPのこの報告書によれば、このギャップは60~110億トンに上るとされています。英語で、10億トンをギガトンというので、この大きなギャップが生じる問題のことを「ギガトン・ギャップ」と呼んでいます。

 国際社会の温暖化対策の基盤となっている、気候変動枠組条約では、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」が条約の究極目標であるとされています。また、「そのような水準は、生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ、経済開発が持続可能な態様で進行することができるような期間内に達成されるべきである」とされています。「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすことにならない水準」がどれくらいのことを指すのか、条約には書かれていません。条約ができてからも、科学者も研究を続けてきましたし、政策決定者も議論を重ねてきました。京都議定書第1約束期間後の国際社会の取り組みを議論するうえでも、2050年までに地球全体でどれくらい温室効果ガスを減らさなければならないかということは重要な論点のひとつです。

 COP15(コペンハーゲン(デンマーク)、2009年)は、気候変動COP史上初めて、首脳レベルが集う会合となりました。「コペンハーゲン合意」と呼ばれる首脳合意では、「世界全体の気温の上昇が2℃より下にとどまるべきであるとの科学的見解を認識」するとされました。また、先進国は2020年の排出削減目標を、発展途上国は排出削減行動を条約事務局に提出することになりました。この「コペンハーゲン合意」は、この合意形成に参加できなかった一部の国が反発したため、COP15で採択することができず、正式な合意としては位置づけられませんでしたが、多くの国が、「コペンハーゲン合意」に基づき、自国の排出削減目標/排出削減行動を提出しました。翌年、COP16(カンクン(メキシコ)、2010年)において、「コペンハーゲン合意」とほぼ同じ内容の「カンクン合意」が採択され、正式な合意になっています。

 ここで問題になるのが、先進国の削減目標や途上国の削減行動をすべて積み上げた場合、世界全体での排出削減量はどれくらいになるか、また、「世界全体の気温の上昇が2℃より下にとどまるべきである」ということの実現に十分なのか、ということです。足し算すればわかるんじゃないの?と思われるかも知れませんが、これは簡単な作業ではありません。前提条件が国ごとにまちまちですし、幅を持たせた目標(たとえば、20-30%)もありますし、途上国はGDP当たりの削減目標を出したりもしているため、単純に足し合わせることができないのです。

 この問題に答えを出そうとしたのが、UNEPの「Bridging the Emissions Gap」報告書です。昨年のカンクン会合の直前にも、同様の報告書が公表されていますが、今回、これをブラッシュアップしたものがお披露目となりました。

 前置きがかなり長くなってしまいましたが、この「Bridging the Emissions Gap」報告書のエッセンスは以下の通りです(執筆者が、報告書の要旨を仮訳しました)。

  1. 2020年までにこの排出量のギャップを埋めることは可能でしょうか?
    —可能です。対策をしない場合の排出量と、気温上昇を2℃より下に抑えるための排出レベルとのギャップ(2020年時点)を埋めることは可能であると多くの科学者グループが確認しています。
  2. 2020年のギャップはどれくらいになるでしょうか?
    —各国が提出している削減目標/行動は、2020年の対策をしない場合よりも排出量を減らすことはできますが、気温上昇を2℃より下に抑えるための排出レベルを達成するには十分ではなく、ギャップが生じます。このギャップは、60~110億トンと予測されます。これは、昨年のレポートのギャップの予測(50~90億トン)より大きくなっています。ただし、予測の不確実性があります。
    —気温上昇を2℃より下に抑えるには、世界全体の温室効果ガス排出量をすぐに減少傾向に転じさせなければなりません。
    —気温上昇を2℃より下に抑えるには、2050年の世界全体の温室効果ガス排出量を今よりかなり減らさなければなりません。
  3. どうすればこのギャップを埋められるでしょうか?
    —このギャップは、現在、温暖化交渉でとりあげられている問題を解決することで埋めていくことができます。たとえば、各国の削減目標/削減行動をより高いレベルに引き上げること、森林吸収源や余剰排出クレジットの利用を抑えること、オフセットのダブルカウントを避け、CDMプロジェクトの追加性を改善すること、など。

 サイドイベントでのこの報告書の概要説明は、次のような言葉で締めくくられました。「技術の飛躍的な進歩がなくても、このギャップを埋めることは可能である。しかし、対策をとるための時間は不可欠である」。

 ダーバン会合の成果は、このメッセージに応えるものとなるでしょうか。

執筆:久保田 泉
(国立環境研究所 社会環境システム研究センター)

※全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)ウェブサイトより転載