2)人為由来微量元素の土壌蓄積に関する研究
大気降下物由来のレアメタル土壌汚染への対応
レアメタルは、その希少性にも関わらず、工業分野での使用量が増加している。その中にはアンチモンのように自動車用バッテリーの電極に使用される物質や、インジウムのように携帯電話中の基板に利用される物質などがある。都市部での交通量の増加や産業活動の活発化に伴い、こうしたレアメタルが製品として廃棄されたり、製品の劣化によって環境中に放出されることにより、大気中へ排出されるレアメタル量も増加することが予想される。排出されたレアメタルは、降水等の大気降下物として、市街地の公園や学校の校庭といった公共用地に降り積もり、土壌中の粘土鉱物や有機物と強く結合することで土壌表層部に蓄積されてゆく傾向にある。
さらに、レアメタルにはアンチモンのように、人体への影響が懸念されるものもある。公園や校庭で遊ぶ子供達が、風等で巻き上がった土壌を吸い込む、土遊びをしていて誤って経口摂取してしまうといった直接摂取により、土壌中に含まれる高濃度のレアメタルに曝露されてしまう可能性がある。 現在、大気降下物経由等の広域的な汚染源の影響を受けている市街地土壌は、土壌汚染対策法による規制の対象となっておらず、研究面でも、このような汚染についての基礎的知見が不足している。
図10は、つくば市で観測された雨水中に含まれる各種金属が、どの程度、人為起源によるものなのかを調べるために、国立環境研究所(つくば市)構内の5地点(裸地、スギ林、アカマツ林、ヒノキ林、シラカシ林)にバルク採取器を設置して、採取した雨水を分析した結果である。縦軸の「富化係数」とは、金属元素の「雨水中の量」と「土壌中の量」の割合のことであり、この値が大きいほど金属元素が雨水中に多く含まれていることになる。この結果から、アンチモンをはじめとする金属が、主に人為起源として大気中に放出された後、降下物として土壌に付加されていることが確認された。
図10 雨水中金属元素量の地殻を基準にした富化係数
以下に、富化係数の目安を記した。
・1前後…概ね、土壌に由来する金属
・10-500…地殻物質以外に起源(汚染、海塩、火山など)があると考えられる金属
・500以上…人間活動由来と考えられる金属