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2015年4月30日

地域におけるリサイクル・システムづくり~地域実装の戦略的側面

【シリーズ重点研究プログラムの紹介:「循環型社会研究プログラム」から】

田崎 智宏

 平成23年度から5年間の計画で、「地域特性を活かした資源循環システムの構築」と題した研究プロジェクトを実施しています。平成25年8月号にて、合理的・システム的な思考に基づく地域循環の解析研究の成果を中心に本プロジェクトの紹介をしました。本稿では、そのような研究成果や知見を実際に地域に取り入れて地域の資源循環システムを実現させていくための研究を紹介します。

研究成果は自ずと社会に実装される?

 研究で得られた知見は、特段何もしなくても有益なものとして世の中に受け入れられるのでしょうか。もちろん情報が届いていないこともありますので、いろいろな情報発信は必要なことです。しかし、地域のリサイクル・システムはかくあるべき、という情報だけが地域の人々に届いたとしても、地域がそれですぐに変わるわけではありません。研究成果を社会に実装するためには、もっと戦略的に考えなければならないのです。

 戦略は、企業経営においても事業戦略として考えられてきました。この戦略をまとめたものにミンツバーグらの『戦略サファリ』という本があるのですが、なんと、戦略には10の学派(スクール)、言い換えれば10の物事の見方があるというのです。例えば、プランニング・スクールは、計画策定を重視する学派です。適切な計画を立案さえすれば実施段階はスムーズに行くという立場をとり、いかに綿密な計画を立て、それを文書化して実施部隊に共有させるかを重視します。この立場は、旧来的な研究者と社会の関係に近いかもしれません。研究者がいろいろな検討を行い、科学的知見としてこうすべきという結果を提示し、後の実施は社会の実務者に任せるというものです。役割分担が明確なので、実務上の苦労に研究者はあまり関心を示さない、示す必要がないということになります。他方、このように捉えない学派もあります。ラーニング・スクールでは学習を重視し、実施段階で得られた経験を大切して、その知見を活かしながら事業を進めていきます。この場合、計画立案と実施とは不可分になります。その他、起業者のリーダーシップに着目する学派や、外部の状況の変化への対応を重視する学派もあります。このように、戦略としての物事の見方は実に様々であり、資源循環の研究において、計画以外の側面でも戦略を考える必要があることが分かりました。

資源循環システムの実装の実際

 そこで私たちの研究グループでは、具体事例をとりあげ、地域におけるバイオマス資源のリサイクル・システムがどのように構築されてきたか、および、どのような戦略の側面で捉えられるかを調べることにしました。先に紹介した「戦略サファリ」にある10の学派の物事の捉え方を4つに集約し、①構想・計画、②実践・認識、③交渉・調整、④人・組織という4つの戦略側面から、どのような事が起こって、リサイクル・システムの確立のための取組が進んだのか、後退したのか、何が重要な出来事であったかのヒストリー分析を行いました。図1では、ある地域におけるリサイクル・システム確立のための取組事例の立ち上げ段階における分析結果を示しています。この事例では、市長によるトップダウンでのビジョン提示が取組のきっかけとなりました。専属職員を配置したことが長い目でみて取組の進展に大きな役割を果たしました。この職員の方が廃棄物だけでなく、農業にも詳しかったことが後々の取組に好影響をもたらした一要因となったと理解しています。この後、地域の人々を巻き込んだ議論が展開していきます。そのときに先進事例を視察したことが一役買いました。このときまでの議論で、取組の成功に自信がなかった方々が「できる」という気持ちに切り替わっていきます。この後、リサイクル施設整備の計画が策定され、リサイクルによって製造された液体肥料の地域での利用促進を図り、リサイクル・システムが定着していきます。

図
図1 地域のバイオマス資源循環に係る戦略ヒストリー分析図

戦略ヒストリー分析から見えてきたこと

 このように、地域でリサイクル・システムを構築する場合には、ゴールとなる「どういったシステムをつくるべきか?」という問いに対する答え、すなわち①のビジョン・構想だけでなく、「どのようにシステムを実現させるか?」という問いにも答える必要があり、②から④の実践的、交渉的、組織的側面についての知見も求められるようになってきます。私たちの研究ではこのような事例を7つ集め、同様の分析を行いました。また、リサイクル・システムの構築の事例に加えて、地域ブランド化の事例なども参照しました。

 これらの事例を見てみた結果、取組の立ち上げ段階と定着段階とでは、求められる取組活動が変わってくることが分かりました。同じ取組活動でも、立ち上げ段階で重要になるものと、定着段階で重要になるものがありました。また、優良事例とされる取組でも、時間経過に伴う世代交代や状況変化に応じた目的の見直しが行われずに活動が衰退する場合もあることが分かりました。

 リサイクルの視点でいえば、廃棄物等を未利用資源として利用するということ自体はよいのですが、単に処理する廃棄物を減らそうというのでは取組がうまく進みません。リサイクルされたものが使われるところまで考えて、取組の早めの段階からリサイクル品を使う方々と相談しながらリサイクルを進めていくことが重要です。場合によっては、リサイクル品と競合する製品が地域内に存在することもあります。価格や品質面の競争で負けてしまい、リサイクル品が使われないということも起こりえますし、また、うまく棲み分けをしないことで、競合する製品を製造・販売している方から反対をされることもあります。

ガイドの作成に向けて

 このような知見は、様々な地域での活動で参照されるように、的確に情報共有をしていくことが求められます。また、逆に他の地域での取組から新たな知見を得ることもあるでしょう。

 そこで、私たちの研究プロジェクトでは、次の段階として、地域で取り組む方々にとっての参考になるようなガイドの作成を行おうと考えています。図2はリサイクル・システムの立ち上げ段階において、実施しておくべき項目と、そのための具体的なキー・アクションを示したものです。ビジョンを明確にするにしても、自治体の首長に宣言してもらう場合もあれば、行政や活動主体の内部で目標設定をする場合もあります。取組を進めるなかで、コアメンバーの一体化を図ったり、有能感を醸成させたり、協力・支援いただける方々の興味を喚起させることも必要になってきます。これらのそれぞれのキー・アクションに対して、より具体的な解説を加えることを想定しています。さらに、キー・アクションとは別に、これまでの既存事例において直面した課題を整理し、誰がその課題を引き起こしているのか、それによって誰が困っているのか、どのような解決策がとられたかといった情報をデータベースとして整備してきました。現在500以上の課題が集積できたところですが、これらは個別問題に対する対応策、すなわち個別戦術として他の取組においても参考になると考えています。研究成果の「実装」が求められることが多くなってきたなか、このような研究の重要性は高まると考えられます。方法論の充実も含め、このような研究の発展に貢献していきたいと考えています。

図
図2 地域リサイクル・システムの立ち上げ段階における戦略実施項目

(たさき ともひろ、資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長)

執筆者プロフィール

田崎 智宏

研究者になってから「先生」と呼ばれることが多いのですが、地域での活動に地道に取り組んでいる方々に感服させられることも多いです。そういった方々は間違いなく私の「先生」です。

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