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2015年4月30日

イノベーションを支える環境都市の理論と手法の開発

特集 都市から進める環境イノベーション

藤田  壮

 20世紀の都市は、まず産業化の拠点となり、その後快適な暮らしを提供する役割を果たしてきました。21世紀に入って、日本の都市は人口減少や高齢化などこれまでに経験をしてこなかった転換に直面しています。加えて、気候変動や資源枯渇などの新たな地球規模の制約が、近い将来に都市に影響を与えることが確実になっています。こうした社会変革への対応を一律に国土全体で達成を目指すばかりではなく、低炭素都市やモデル地区など身近なスケールでの「社会転換(社会イノベーション)」として具体化し、それを「モデル(模範)」として国や世界に広げる試みも世界の各地で広がっています。

 21世紀の都市は、これまで果たしてきた生産拠点、暮らしの空間の提供といった役割に加えて、地域と地球の環境の保全への先導的な貢献を担い、新しい革新(イノベーション)を生み出す場であることが求められています。こうした環境都市、社会イノベーション都市としての機能を実現するために、日本においても環境モデル都市、環境未来都市などの事業が進められています。環境都市システム研究プログラムでは、都市が持つ多元的な機能を視野に入れて、行政、企業、住民等の関係主体間で共有することができる環境都市の計画とその評価の理論を構築して社会に展開すること、すなわち、環境都市の将来像とそこに至るシナリオを計画し、それを実現するための社会イノベーションを具体的に設計した上で、その社会経済、環境効果を明らかにする理論と手法の開発を目指しています。

 21世紀の都市では、目に見える都市の要素だけではなく、間接的で潜在的な都市の要素も評価のスコープに取り込むことが必要になります。たとえば、都市の環境改善についても、生活環境の水準を管理することに加えて、影響発現が長期と広域にわたるために対策の効果が見えにくい環境効果をその評価に取り込むことが求められます。そこでは、21世紀になって最重要の課題である低炭素化、資源循環と自然共生をまちづくりの中に取り入れつつ、現在の都市の暮らしの快適性や利便性、経済活力を高める短期的目標とともに、産業の活性化や人口変動に伴う都市基盤の効率など長期的目標を考慮したまちづくりを議論する必要があります。しかし、これらの短期的な都市像と長期的な未来の都市像が必ずしも一致するとは限りません。都市の産業構造を転換することや、都市インフラの整備更新を進めることを長期的な目標として総論としての賛成を得ることはできても、具体的な費用を含む短期的な各論については、短期的な効率を優先する立場と、中長期的なリスク回避を優先する立場で目指すべき方策が一致しないことも予想されます。従来の都市政策では、経済成長を前提とした現状延長と発展を軸にする政策が都市にかかわる関係主体の間で多数の合意を得ることをできたことに対して、21世紀の現在は成長から緩やかな縮小まで関係主体の目指す将来像が多様化していることが都市研究のあらたな課題ともいえます。将来の方向性の多様化の中で極めて非効率な都市空間の制御が実現してしまう可能性も存在していることから、住民や企業を含む都市の関係主体に柔軟な選択肢を提供しつつ、都市の活力を短期的かつ中長期的に維持、確保できる方向性を提供するための合理的な科学的理論や透明性の高い手法の開発が求められています。

 本特集では、環境都市に関する研究の一端を紹介します。研究プログラムの紹介では、都市の人口分布の特性による自動車交通から発生するCO2発生特性について解析する研究を紹介します。研究ノートでは都市の水環境問題を解決しうる省エネルギー型の小規模、分散の都市排水処理システムの開発研究をご紹介します。さらに、環境問題基礎知識では都市ヒートアイランド現象のメカニズムとともにその対策について解説します。スケールも対象も違う研究を組み合わせて新たな環境都市イノベーションの姿を発信することができることを願っています。

(ふじた つよし、社会環境システム研究センター長)


執筆者プロフィール

藤田壮

センター長を拝命し2年たちました。慣れないこともまだ多いですが、センターの皆さんとお話しすることが増えたことと、研究所のいろいろな部門からその人柄やパワーを学ぶ機会を日々頂いていることに、感謝する日々です。

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