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2017年3月31日

PM2.5の観測および数値シミュレーションに関する動向

研究をめぐって

 健康への影響を考えると、PM2.5の環境基準をどの水準にするか、その大気中の濃度をどのように観測し把握するかは非常に重要な課題です。また、現象解明や数値予測、対策効果の見積もりと多くの用途に用いられる数値シミュレーションはどのように開発が進んでいるのでしょうか。

世界では

 1990年代前半の米国での疫学研究「ハーバード6都市研究」の結果公表を受けて、PM2.5による健康影響の研究取り組みが加速し、環境基準等の設定に向けて世界は動きました。米国では1997年にPM2.5環境基準が設定され、世界各国もそれぞれ環境基準を定めました。米国のPM2.5環境基準は、当初、年平均値で15μg/m3、1日平均値で35μg/m3とされましたが、2013年に年平均値については12μg/m3に変更されています。世界各国でそれぞれの国の濃度状況に合わせて基準値が設定されていますが、長期基準については基準が厳しくなる趨勢です。

 大気汚染のシミュレーションに用いられる数値モデルは、その黎明期にはかなり単純化した計算式や設定が使われていましたが、最近では大気中のなるべく多くの物理・化学過程を詳細に取り込んで3次元空間における物質濃度などの時間変化を計算するタイプが主流になっています。それらのモデルには、気象計算を行うサブモデルと輸送反応計算を行うサブモデルを併用するオフラインタイプと、両者の計算を1つのモデル内で同時(交互)に行うオンラインタイプがあります。オフラインタイプで輸送反応計算を担当するサブモデルについては、米国環境保護庁(USEPA)が1990年代以降開発を続けているCMAQが代表的なモデルの1つで、日本でも多くの研究者が用いています。世界には、それぞれの研究機関等が独自に開発したモデルを保有している国も多く、それらを組み合わせて使うことも考えると、ざっと数えても数十の数値モデルが存在しています。

日本では

 米国などの影響を受け、微小粒子状物質の健康影響に関する研究や検討が1990年代に活発になりました。国内外の知見の蓄積を踏まえ、2009年にPM2.5の環境基準が定められました。それを受け、常時監視に係る事務処理基準が改正され、PM2.5が地方自治体等による常時監視の項目に加えられました。また、質量濃度の観測だけでなく、PM2.5成分分析の実施も盛り込まれました。その後、常時監視測定局へのPM2.5測定機の配置が進み、現在では全国で約1000地点の常時監視測定局においてPM2.5の測定が行われています。

 日本国内でのPM2.5等を含んだ大気汚染の詳細な数値シミュレーションについては1990年代から取り組みが始まりました。米国におけるCMAQのように、地域スケールの大気汚染を対象に日本独自で開発されたモデルは現時点ではありませんが、気象計算モデルに簡単な化学反応を取り込んだモデル、CMAQ等の海外から導入したモデル、国内で開発された全球気象・気候モデルに化学反応を組み込んだモデルの主に3種を用いた研究や開発が進みました。

国立環境研究所では

実験風景の写真
図6 シャシーダイナモ

 PM2.5等の粒子状物質の影響についての取り組みは1990年代から行われていました(環境儀22号46号参照)が、PM2.5等の動態の把握や数値モデリングを含む総合的な取組は2001~2005年度に行われた「PM2.5・DEP等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価プロジェクト」から始まりました。そこでは健康影響に関する研究とともに、シャシーダイナモ(図6)と呼ばれる実験装置を使って車両からの粒子およびガス状大気汚染物質の排出特性を実際に使用した場合の条件の下で把握しました。また、風洞実験、航空機観測、数値モデル解析、データ解析をもとに、沿道スケールから地域スケールにおける粒子状物質の動態を把握するとともに、各種測定方法に基づくPM2.5モニタリング装置の並行試験を行いました。

会議の写真
図7 地方環境研究所との共同研究での会合の様子

 その後も、所内外の研究プロジェクトや共同研究を通じて、現状を知るためのフィールド観測、高濃度などの現象の理解を深めるための室内実験および観測、様々な解析や予測を可能にする数値シミュレーション、その入力データとしても大切な発生量データ開発について、必要に応じた連携を図りつつ取り組みを進めています(図7)。

 数値シミュレーションに関しては、前述した3種のモデルを必要に応じて使い分けて研究を進めています。例えば、大気汚染予測汚染システムVENUSはPM2.5などの輸送反応計算にCMAQを用いています。VENUSは2014年度以降、環境省の予算的な支援を受け、段階的かつ計画的に改良を続けています。

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