- 研究課題コード
- 2325BB001
- 開始/終了年度
- 2023~2025年
- キーワード(日本語)
- 短寿命気候強制因子,船舶観測,東南アジア,国内太平洋沿岸域,排出推定
- キーワード(英語)
- Short-Lived Climate Forcers,Shipboard observation,Southeast Asia,domestic Pacific coast region,Emission estimate
研究概要
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第 6 次評価報告書第1作業部会報告 書において、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地 が無い旨が明記された。この一方で、全世界で 700 万人が大気汚染を原因として早期
死亡していることが世界保健機関(WHO)から報告された。このような背景のもと、国
連、WHO、国連環境計画(UNEP)及び気候と大気浄化のコアリション(CCAC)は 2019
年に大気浄化イニシアティブを発表した。CCAC は地球温暖化と大気汚染の双方に影
響を持つ短寿命気候強制因子(SLCF)の迅速な削減対策の実施により、2050 年までの
気温上昇を 0.6°C相当抑えることができるとの試算結果を報告した。また、2018 年に
IPCC から発表された特別報告書においては、パリ協定の目標を達成するためには二
酸化炭素だけでは無く、SLCF の削減対策が必須であることが明記された。
こうした国際的な SLCF の効果的な放出削減対策が求められる中、我が国において
もパリ協定のもと始まるグローバル・ストックテイクへ向けて、温室効果ガス・水循 環観測技術衛星(
本課題では2隻の定期貨物船舶を用い、経済発展と大気汚染対策により、SLCF 気体 成分(メタン、対流圏オゾン、一酸化炭素、窒素酸化物そして硫黄酸化物)
発生 源における SLCF 気体成分の特徴の理解により、 排出量推定に資する
ことを目的とする。
研究の性格
- 主たるもの:モニタリング・研究基盤整備
- 従たるもの:基礎科学研究
全体計画
本提案課題では東南アジア及び我が国の太平洋沿岸域を航行する2隻の内・外航定
期船舶観測プラットフォームを利用した SLCF 気体成分(メタン、対流圏オゾン、一酸 化炭素、窒素酸化物及び硫黄酸化物)の連続観測を実施する。
東南アジア及び国内太平洋沿岸域における船舶観測により、領域的な SLCF 気体成 分の分布、季節性及び長期トレンド等を明らかにする一方で、沿岸域発生源からの直 接的な汚染空気塊を捉えたデータの集積を進める。特に、本課題で用いる2隻の船舶 が東京やジャカルタ(インドネシア)の沿岸海洋の風上・風下域を航行することを活か して、これら大都市圏および船舶による沿岸域観測結果の比較を行い、濃度のコント ラストを明らかにすることで、都市域スケールから排出される SLCF 気体成分に関す る知見を蓄積する。
これまでの地球一括計上課題において、大規模な森林・泥炭火災のような特定の発 生源の情報を強く保持する汚染空気塊中の温室効果気体成分等の濃度比の関係を解 析することで、発生源における排出インベントリの検証や温室効果気体等の排出係数 の推定を実施してきた。SLCF 気体成分についても同様の観測知見を蓄積していくこ とは、大気化学輸送モデルによる排出量推定はもとより、2023 年に打ち上げが予定さ れている温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)による二酸化窒素観測にもと づいた二酸化炭素やメタンの排出量推定に向けて有用なインプットとなることが期 待される。
本課題によって得られる観測データについては、これまでの船舶観測から培ってき た経験と技術知見を基に、国立環境研究所の研究者による品質チェック(QA/QC)を実 施する。QA/QC を実施したデータについてはデータベース化を行い、国立環境研究所 のデータベース事業の一環として一般に公開する。なお、上記データは所内のみなら ず国際的にもデータ利用をより促進するため、WMO のデータセンターとも相互リンク することで、地域から全球規模での解析に用いられるよう整備を進める。このような データの公開体制を整備することで、我が国の国際的な大気観測の枠組みにおいて貢 献が見える形になる。
今年度の研究概要
東南アジア及び国内太平洋沿岸域を航行する2隻のそれぞれの船舶において、短寿命気候強制因子(SLCP)気体成分(メタン、対流圏オゾン、一酸化炭素、窒素酸化物そして硫黄酸化物)の観測が定常的に継続できるようにプラットフォームおよび観測装置の維持・管理に務める。また、スペースの限られた観測室の整備を進めるとともに、本課題で調達した観測装置を船舶に搭載するために船舶観測用に評価・カスタマイズを行うことで観測を新たに開始するなど、SLCF観測体制の強化・拡張を行っう。得られた各種観測データから観測データのQA/QCについて検討し、地域・領域的な分布と季節性を特徴化する。また、データの公開を見据えて、QA/QCのための観測データ処理プロトコルを検討する。
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