ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2005年10月31日

アレルギー反応を指標とした化学物質のリスク評価と毒性メカニズムの解明に関する研究-化学物質のヒトへの新たなリスクの提言と激増するアトピー疾患の抑圧に向けて-
平成14〜16年度

国立環境研究所特別研究報告(SR-63-2005)概要

研究の概要

表紙
SR-63-2005 [1.6MB]

課題1.DEPに含まれる化学物質がアレルギー性疾患に及ぼす影響とメカニズムの解明に関する研究

 アレルギー性気管支喘息を増悪させるDEPの主たる構成成分は、残渣粒子ではなく、脂溶性化学物質(群)であり、粒子と脂溶性化学物質群が共存することによりアレルギー性の炎症は相乗的に増悪した〔図1〕。さらに、この増悪のメカニズムとして、好酸球を活性化するサイトカイン(Th2サイトカイン)であるIL-5と好酸球を呼び寄せるケモカインであるeotaxinの肺における発現増強が非常に重要な役割を演じていることが明らかになった。また、粘液産生細胞の増加効果を持つIL-13というサイトカインの発現増強、単核球や好中球を呼び寄せる効果を持つMCP-1やMIP-1αの発現亢進も、重要な役割を演じていると考えられた。これらのサイトカインやケモカインは、ヒトにおけるアレルギー性炎症でも重要な役割を演じている。ヒトと動物の病態に共通して重要な役割を演じているタンパク分子のレベルで増悪メカニズムを明らかにできたことは、本動物実験における結果をヒトにおける影響に外挿する上で重要と考えられた。

図1 喘息モデルの憎悪

課題2.対象都市住民の大気汚染個人曝露濃度に関する研究

 フェナントラキノンはDEPに含有される化学物質である。フェナントラキノンがアレルゲン特異的IgE抗体およびIgG抗体の産生を増強することが明らかになった。また、フェナントラキノンはアレルギー性気道炎症に対しても軽度の増悪影響を示したが、その作用はDEPに含有される脂溶性化学物質(群)に比較すると弱かった。加えて、フェナントラキノンは、DEPに含有される脂溶性化学物質(群)とは異なり、Th2サイトカインの発現を亢進しないことも明らかになった。これらのことから、フェナントラキノンはアレルギー増悪影響を発揮しうるものの、その作用だけでDEPに含有される脂溶性化学物質(群)のアレルギー増悪影響を説明しうるものではないことが示唆された。

課題3.ナフトキノンがアレルギー性疾患に及ぼす影響とメカニズムの解明に関する研究

 ナフトキノンもDEPに含有される化学物質である。ナフトキノンは、フェナントラキノンとは異なり、アレルギー性喘息の病態そのものである肺の組織内部におけるアレルギー性気道炎症と粘液産生細胞の増加を有意かつ濃度依存性に増悪した。このことから、ナフトキノンのアレルギー性炎症増悪影響は、フェナントラキノンより大きいものであることが示唆された。しかし、その作用は、DEPに含有される脂溶性化学物質(群)に比較すると弱かった。また、ナフトキノンによるアレルギー性炎症の増悪効果がTh2サイトカインやeotaxinの発現亢進を主とするものではないことも明らかにした。これらのことから、ナフトキノンの作用だけでDEPに含有される脂溶性化学物質(群)のアレルギー増悪影響を説明しうるものではないことも示唆された。一方、フェナントラキノンとは異なり、ナフトキノンのアレルギー性炎症増悪効果が、MCP-1あるいはKCというケモカインの発現亢進により、少なくとも部分的に、もたらされている可能性があることも明らかになった。また、ナフトキノンのアレルギー増悪効果においては、アレルゲン特異的抗体産生増悪作用は、フェナントラキノンに比較し、重要度が低いものであることが示唆された。

課題4.フタルエステルがアレルギー性疾患に及ぼす影響とメカニズムの解明に関する研究

 フタル酸ジエチルヘキシルはプラスチックの可塑剤等に広く用いられ、アレルギー疾患の増加に同期して使用量が増大してきた化学物質である。自然発症、塩化ピクリル塗布、もしくは、ダニアレルゲンを皮内投与することにより誘導した各種皮膚炎モデルに対するフタル酸ジエチルヘキシルの暴露影響を検討した。

図 フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)について

 皮膚炎の重症度は、フタル酸ジエチルヘキシルの低用量暴露で増悪した〔図2〕。高用量暴露では、増悪影響は逆に目立たなくなった。ダニアレルゲン皮内投与による皮膚炎モデルは、4μg/animal/週若しくは20μg/animal/週(概算で24若しくは120μg/kg/day)のフタル酸ジエチルヘキシル暴露で明らかに増悪していた。これらの濃度はこれまで報告されてきた肝臓への影響から決められた無毒性量の数百分の一に相当する量であった。100μg/animal/週のフタル酸ジエチルヘキシルの暴露では、増悪効果はほとんど消失していた。このような量-反応関係は環境ホルモン作用でもしばしば観察される現象であることから、フタル酸ジエチルヘキシルのアレルギー増悪作用は環境ホルモン作用と類似したメカニズムを介している可能性が示唆された。増悪した皮膚の組織には好酸球や脱顆粒した肥満細胞が目立ち、eotaxinというケモカインの存在量も増加しており、人間のアトピー性皮膚炎とよく類似していた。

図2 フタル酸エステルのアトピー性皮膚炎に及ぼす影響(低用量効果)

〔担当者連絡先〕
独立行政法人国立環境研究所
環境健康研究領域 高野 裕久
Tel.029-850-2336

関連記事

表示する記事はありません

関連研究報告書

関連研究者

表示する記事はありません