ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

お天気任せの日々 −筑波山における渓流水質調査のご紹介−

【調査研究日誌】

林 誠二

 2年ほど前に同じ研究室に所属する渡邊さんから,「以前試しに筑波山の渓流の水質を測ったところ,多くの地点で硝酸態窒素濃度が高かった。」ということを教えて貰いました。樹木の成長に大量に必要となる窒素が,何故そのようにたくさん森林から余って流れ出しているのか不思議に思い,昨年度より筑波山の渓流の水質調査を開始し,現在に至っています。これまでの調査結果の一部を含め,なぜ森林で窒素が過剰気味となっているかについては,本号の研究ノート「森林から窒素が流れ出す -筑波山の窒素飽和-」を参照いただくとして,ここでは,森林渓流水の水質を調べるために,どのような調査を行い,その際どういったことに苦労しているかを紹介したいと思います。

 調査は,これまでに大きく分けて3種類行っています。まずは,年間を通じた筑波山全域における渓流水質の特徴を把握するため,80地点余りを対象とした季節毎の調査を行いました。続いて,植生や森林管理の影響,過去との比較といったことを目的に,その中から10数地点について月に2回程度の定期調査を現在も継続して行っています。さらに,森林管理の違いが集水域単位での窒素収支に及ぼす影響を把握するため,その中から2地点を対象に,降雨による出水時の渓流の水質測定を,数日間にわたり数十分から数時間間隔で連続的に行っています。測定項目に関しては,水温やpHなど現地で直接測れるものもありますが,有機物濃度や窒素,リンを含む大部分の項目については,採取した渓流水を保冷して持ち帰り,速やかに実験室でろ過等の前処理をした後,専用の分析機器を用いて測定しています。

定期調査での渓流水採取の様子

 さて,これら調査地点ですが,必ずしも車から降りて直ぐの場所にありません。その多くは相当の距離を歩かなければ辿り着けず,調査は,さながら軽登山の様です。また,整備された林道ではなく林や藪の中を歩くことも多いため,服装はいつも長袖長ズボンです。このため,冬場でも相当の汗をかき,夏場はそこへヤブ蚊やアブの追い討ちを受け,油断すると顔中クモの巣だらけとなることも多々あります。このように調査に苦労はつきものなのですが,それ以前に調査に行くべきかどうか,お天気にいつも悩まされています。一般に,野外調査はお天気に左右されるものですが,特にこの調査は,なかでも降雨時の出水調査の実施は,お天気に強く影響されます。ご存じの通り日本では統計的に3日に1回程度の割合で雨が降りますが,その全ての降雨を対象に調査を行うことは,現実的には不可能に近いと言えます。そこで,平水時と比べて窒素を初めとする物質の流出特性の違いが明確に現れるある程度まとまった雨の時を狙って,調査を行っています。しかし,当然ですが,こちらの都合に合わせてそのような雨は降ってくれません。結果として日常的にお天気の週間予報を確認し,さらに,雨が降りそうだとなれば調査の準備に追われつつ,どれくらいの規模の雨がいつ頃降りそうか,インターネット上のお天気サイトで雨雲の動きを頻繁に確認するといった,慌ただしく落ち着かない時を過ごすことになります。さらに,一旦調査を始めると土日祝日は関係なく,また,公私の区別なく大部分の予定をキャンセルして調査に専念しなければなりません。正に日々是お天気任せなのです。

 このように書くと,大変なことが多い一方で,しっかりとした結果を出すには地道なデータの積み重ねが必要となるため,端からは,労多くして効少なしと見えるかもしれません。しかし,自然を理解し,さらに何らかの環境問題を予見し予防することや改善に導くためには,我々の行っている調査に限らず,長期的な視野に立った調査研究は不可欠だと考えています。また,調査をしつつ,私たちの最も身近な自然の一つである筑波山の四季折々の様子に触れることが出来ることに,なにより幸せを感じています。というわけで,大変だと口では言いながらも,内心では実は楽しみながら,しばらくは筑波山に足繁く通う日々を送っていこうと思っています。

(はやし せいじ,水土壌圏環境研究領域
土壌環境研究室長)

執筆者プロフィール

林 誠二氏

 仙台からつくばに来てはや12年。気づけば不惑を迎えてしまいました。日々,調査研究にも没頭していますが,テニスにも没頭しています。正に,晴耕雨読ならぬ晴球雨調な毎日を送っています。