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2050年までの環境問題の全体像を整理する —ワークショップ形式の試み—

【研究ノート】

松橋 啓介

1.はじめに

 研究所に与えられる定員や予算といった資源をできる限り有効に活用するために,現在,緊急性と重要性を持つ研究課題に重点的に取り組む一方で,長期を見据えたビジョンを持つことが大切になっています。こうした要請に応えるべく,平成18年度開始の特別研究「中長期を対象とした持続可能な社会シナリオの構築に関する研究」の一環として,研究所全体の環境研究ビジョンづくりに取り組んでいます。ここでは,研究所内メンバーで環境問題の全体像を整理するワークショップ形式の試みについて紹介します。

2.ビジョン検討の方法

 ビジョンづくりに際しては,対象範囲を明確にした上で,多様な立場の意見をうまく集約することが重要になります。そのための手法として,幅広い立場からの参加者を得て,意見のリストアップ,意見を整理する方向性の決定,意見を整理する作業,投票等による優先順位付けを行うワークショップ形式の参加型会議がしばしば用いられます。

 今回,具体的なビジョン検討の方法については,環境省の「超長期ビジョン検討会」における検討の進め方を用いました。ビジョンとは,望ましい将来の社会像・環境像を指します。さらに,それを実現するまでに生じる社会・経済・環境の変化の過程やその実現に必要となる政策実施の道筋といったシナリオやロードマップと呼ばれる過程などの幅広い内容も含みます。ビジョン検討の手順は,1)社会経済の大きなトレンドとその原動力(ドライビングフォース)を把握し,2)そのトレンドのもとで起こることが予想される避けるべき問題と,3)そうした問題を回避しながら実現したい望ましい将来の社会像・環境像を明らかにし,4)望ましい将来に向けて現在・近未来に着手すべき課題と,5)それを実行するための政策手段を提示するというものです。

3.ワークショップ形式の検討

 ビジョン検討の手順の1)と2)を明らかにすることを目指して,2006年8月にワークショップ形式の会議を開催しました。具体的には,日本の2050年までの環境・資源面の諸問題とその原因となる社会経済的背景のメカニズムの全体像を整理し,因果関係を一枚の図の中で網羅的に表現することをテーマとしました。目指すアウトプットを明確にするために,空間的には日本国内,時間的には2050年まで,問題としては環境・資源面を基本として範囲を設定し,議論に応じて幅広く展開しても良いこととしました。

 約40名の研究者が参加し,4つのグループに分かれて,5時間を超えるグループ別作業を行いました。普段の専門分野にこだわらず,他の分野についても項目を挙げていき,議論を踏まえて相互関係を図示しつつ整理しました。各グループで重要なものから10個の環境問題と10個の社会経済的要因を抽出した後,相互に発表し,共通項を確認しました。その作業風景と整理結果のイメージを写真に示します。

 後日,事務局がグループ別に挙げられた項目を並び替え,因果関係の流れに沿って分類し,相互の関連性を矢印で示したまとめを図の通り作成しました。

ワークショップの様子の写真(クリックで拡大表示)
写真 グループ別作業の風景と作業結果のイメージ
ワークショップの結果(クリックで拡大表示)
図 2050年までの日本の環境問題の全体像の整理(試み)

 国立環境研究所の現在の組織と対比すると,技術革新,人口動向,欲求,食糧不足,不安感,国土の荒廃等が研究対象としてカバーされておらず,今後の新しい研究対象となりうると考えられました。しかし,今回は環境問題の全体像を把握することを重視したためか,意外な発見は得られませんでした。なお,十年前にも,リスク評価の観点から,同様の環境問題の整理を行っています。その結果と比較すると,有害化学物質汚染や地域大気汚染の問題がやや小さくなり,資源循環や地球温暖化の重みがさらに大きくなっています。

 現在,分野別に,より詳細なビジョンを検討しています。

(まつはし けいすけ,
社会環境システム研究領域
交通・都市環境研究室主任研究員)

執筆者プロフィール

 低炭素社会の交通等の分野別ビジョンづくりに携わる一方,夏の大公開時の渋滞対策や職員の自動車通勤削減策,つくば地域の交通環境負荷低減策など,効果が目に見える対策についても検討を行っています。