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衛星リモートセンシングによる地球環境観測

環境問題基礎知識

島崎 彦人

 人工衛星を利用したリモートセンシング(衛星リモートセンシング)は,陸域・海洋・大気中における様々な現象を迅速かつ効率的に観測する手段として,地球規模の環境観測や遠隔地における災害監視をはじめ,多岐にわたる分野で応用されています。環境観測を目的とした衛星リモートセンシングは,1960年代のTIROS衛星の打ち上げに端を発し,1970年代のLandsat衛星の打ち上げを機に,観測データの質・量ともに飛躍的な発展を遂げました。1990年代以降は,東西冷戦構造の終えんを背景として,軍事技術の民間利用への転換が進み,衛星リモートセンシングの商用化という新たな局面が生まれました。現在では,官民合わせて様々な衛星搭載センサが開発・運用され,それらを複合的に組み合わせて利用することにより,総合的に地球環境をモニタリングしようという取り組みが国際的に進められています。以下では,衛星リモートセンシングの原理を概説するとともに,地球規模の環境観測を目的とした代表的な衛星搭載センサについて紹介します。

 リモートセンシングとは,離れたところから対象物の種類や性質を推定する手法の総称ですが,一般に衛星リモートセンシングという場合は,対象物から反射,散乱あるいは放射された電磁波を衛星搭載センサで観測し,これを詳しく解析することによって,対象物の種類や性質を推定する手法のことを指します。電磁波とは,電磁エネルギーを運ぶ波であり,真空または物質中を電磁場の振動が伝播する現象のことです。人間の肉眼でとらえることのできる光(可視光線)や,日常生活でも耳にするX線,紫外線,赤外線,マイクロ波なども電磁波であり,これらは電磁波を波長や周波数に応じて区別した名称です(表)。

表.電磁波の名称

 観測した電磁波から対象物についての情報が得られるのは,すべての物質が,種類や状態に応じて,異なる波長の電磁波を反射,散乱,吸収,透過あるいは放射するという,物質固有の分光特性を持つことに基づいています。例として,地表面を構成する代表的な要素である水,土壌,植生についての,可視から短波長赤外までの分光反射率を,図1に示しました。水の反射率は,水中に含まれる懸濁物質の種類と量によって複雑に変化しますが,全体的に低く,可視・近赤外よりも長い波長域ではほぼゼロになります。一方,土壌の反射率は,波長が長くなるに従って高くなります。植生の場合,0.45μm(青)と0.65μm(赤)付近の電磁波がクロロフィルによって吸収され,0.55μm(緑)付近の反射率が相対的に高くなります。植物の葉が緑に見えるのはこのためです。近赤外域における高い反射率は,葉の細胞構造に由来します。また,1.45μmおよび1.9μm付近での反射率の低下は,葉中に含まれる水分による吸収効果を反映しています。衛星リモートセンシングでは,こうした対象物固有の分光特性を手掛かりとして,観測した電磁波から対象物の種類や性質を推定します。

図1.水,土壌,植生の分光反射率

 陸域や海洋の現象を対象とする場合,大気中の空気分子やエアロゾル,水蒸気などによる散乱・吸収効果の小さい,すなわち,大気の透過率が高い「大気の窓」と呼ばれる波長域の電磁波を観測します。一方,大気中の現象や大気微量成分を観測する場合,通常は,大気透過率の低い波長域の電磁波を観測します。例えば,南極上空のオゾンホールを観測して話題になった,NIMBUS-7衛星搭載のオゾン全量分光計(Total Ozone Mapping Spectrometer;TOMS)は,大気中のオゾン分子によって散乱された紫外線を観測することによって,オゾン量を推定しました。大気微量成分を観測するその他のセンサとしては,地球温暖化に寄与するメタンと一酸化炭素の全球濃度分布の導出を目的とした,Terra衛星搭載の対流圏汚染観測計(Measurements Of Pollution In The Troposphere;MOPITT)が挙げられます。MOPITTの観測によって,高濃度の一酸化炭素が,中国大陸から太平洋上に移流する様子などが明らかにされてきました。

 地球環境を規定する諸現象は,様々な時間的・空間的スケールで変動しています。各現象の現状や変化の傾向を正確に把握するためには,広範囲を長期間にわたって,高頻度かつ高精細に観測することが理想的です。しかしながら,衛星の軌道やセンサの性能,あるいは,衛星と地上局との通信容量などの制約により,衛星リモートセンシングで一度に観測できる空間範囲(観測幅)とその範囲をどの程度精細に観測できるかを表す空間分解能は,トレードオフの関係になります(図2)。そのため,地球規模の環境観測を目的とする場合は,空間分解能を抑え,観測幅を優先することによって,広範囲を高頻度で観測できるように,システム設計が行われています。

図2.観測幅と空間分解能

 地球全体を高頻度に観測する衛星リモートセンシングの中で,最も継続的に運用されているのは,NOAA衛星搭載の改良型高分解能放射計(Advanced Very High Resolution Radiometer;AVHRR)シリーズです。AVHRRシリーズによる観測継続期間は20年以上に及び,低空間分解能(1.1km)ながら,観測幅が広い(3000km)という特長を活かし,可視・近赤外と熱赤外の波長域を全球規模で毎日観測しています。観測データからは,雲の分布や海表面温度,植物の現存量を表す植生指数などが計算され,エルニーニョ現象や森林減少,砂漠化など,地球規模の環境変化の検出に活用されています。

 地球全体を高頻度で観測するセンサは,AVHRRシリーズの他に,1990年代後半以降に相次いで打ち上げられた,SPOT-4/5衛星搭載の分光放射計(VEGETATION)やTerra/Aqua衛星搭載の分光放射計(Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer;MODIS)があります。VEGETATIONは,空間分解能(1.15km)と観測幅(2250km)においてはAVHRRシリーズとほぼ同程度ですが,可視・近赤外に加えて短波長赤外の波長域も観測可能なため,植生情報だけでなく地表面水文情報(土壌水分,積雪,干ばつ)の収集にも応用されています。MODISは,植生や地表面状態の推定に有効な複数の波長域を,広い観測幅(2300km)と高い空間分解能(250mあるいは500m)で観測できるため,陸域炭素収支や陸域生態系に関する諸現象を,広域かつ詳細に把握できると期待されています。また,DMSP衛星やADEOS-II衛星,Aqua衛星搭載のマイクロ波放射計は,様々な形態の水(積雪,海氷,降雪,降水,海水,土壌水分,水蒸気など)に関する情報を,広域かつ高頻度に収集可能であり,地球規模の水・熱エネルギー循環の解明に向けて重要な役割を果たしています。

 全球規模の海洋観測を行う代表的な衛星搭載センサとしては,海水中のクロロフィル色素濃度の推定を目的とした海色センサが挙げられます。1970年代後半に打ち上げられたNIMBUS-7衛星搭載の沿岸域海色走査計(Coastal Zone Color Scanner;CZCS)以降,ADEOS衛星搭載の海色海温走査放射計(Ocean Color and Temperature Scanner;OCTS),SeaStar衛星搭載の広視野角海色観測計(Sea-viewing Wide Field-of-view Sensor;SeaWiFS),Terra/Aqua衛星搭載のMODISなど,海色観測機能を備えた数々のセンサが開発・運用され,全球規模でのクロロフィル色素濃度の分布と海洋基礎生産の推定に応用されています。また,AVHRRやMODIS等による海表面の熱放射観測や,ERS-1/2衛星やADEOS衛星,ADEOS-II衛星搭載のマイクロ波散乱計による海上風ベクトルの観測,TOPEX/Poseidon衛星やJason-1衛星搭載のマイクロ波高度計による海面高度観測等が全球規模で行われ,海洋表層における諸現象の理解促進に大きく貢献しています。

 地球規模の環境問題,すなわち,地球温暖化,オゾン層破壊,森林破壊,砂漠化および水資源問題などは,互いに独立に存在しているわけではありません。これらの問題は,物質循環や水・熱エネルギー循環など,複雑に関連しあう大気・陸域・海洋の諸現象を媒介として,互いに影響を及ぼしあっています。こうした諸現象の過程をモデル化し,将来予測を行う研究が盛んですが,モデル計算の信頼性は,入力データに大きく依存します。これまで,地球規模での環境観測に成果を上げてきた衛星リモートセンシングですが,より正確な将来予測を実現させるためにも,今後,各現象に寄与するパラメータを,さらに高精度に推定する手法を開発していく必要があります。

 (しまざき ひろと,社会環境システム研究領域)

執筆者プロフィール:

つくばに来てからかれこれ4年。自由な環境にいると,やりたいことがどんどん増える。気分転換が必要なときは,道具を持たずに海や野山に出かけ,そっと自然に溶け込むように,光の変化や風の音を楽しんでいます。

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