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ダイオキシン類の暴露量および生体影響評価に関する研究

研究プロジェクトの紹介(平成12年度開始ダイオキシン類対策高度化研究)

米元 純三

 ダイオキシン類対策高度化研究の一環として,平成12年度より「ダイオキシン類の暴露量および生体影響評価に関する研究」を開始した。このプロジェクトは,平成9~11年度にかけて実施された特別研究「環境中の『ホルモン様化学物質』の生殖・発生影響に関する研究」の延長上に位置づけている。

 この特別研究では『ホルモン様化学物質』としてダイオキシンを取り上げた。それは我が国ではゴミの処分のほとんどを焼却に依存し,大気中へのダイオキシンの放出量が多いこと,日本人は魚食が多く食事からの摂取量が多いこと,ダイオキシンの生殖・発生影響に対するほ乳類の感受性が高いため,ダイオキシンのリスク評価において,生殖・発生影響についての基礎的なデータの必要性が高かったことが挙げられる。

 妊娠ラットに50ng/kg (ng=ナノグラムは10億分の1g )というきわめて低用量のダイオキシンを一回経口投与することにより,生まれてきたオスの生殖器官に影響が認められた。また,離乳時の仔の甲状腺ホルモン,T 4の減少が200ng/kg から認められた。ダイオキシンの代謝はヒトとラットとでは大きく異なるため,これらの投与量に相当するヒトの摂取量は体内負荷量から計算される。ラットへ50ng/kg 投与したときと同じ体内負荷量に到達するヒトの一日摂取量は約20pg/kg/day となる。日本人の成人の一日摂取量は約3pg/kg/day と推定されており,7倍のマージンしかない。

 WHO は1998年にダイオキシン類の一日耐容摂取量(TDI )の見直しを行い,ダイオキシン類の毒性等価量(TEQ )として,それまでの10pg/kg/day から1~4pg/kg/day へと改訂した。この根拠とされたのはアカゲザルの子宮内膜症のほか,妊娠動物への投与による仔への影響,すなわち生殖・発生影響に関する動物実験であり,ヒトに関するデータは用いられていない。ヒトにおいては,母乳を飲んでいる乳児で一日体重1kg あたり100pg を摂取していると言われ,その影響が懸念されている。オランダや日本の疫学調査では,母乳中のダイオキシン類濃度が高いと子供の甲状腺ホルモン,T4が低い傾向にあることが報告されている。

 今回のTDI の改定においては先に述べた体内負荷量アプローチが採用された。これはダイオキシンによる作用は,同じ体内負荷量では種を越えてほぼ同じという考えに基づいている。しかしながら実験動物とヒトとでは影響項目によっては,その作用の起きる体内負荷量が大きく異なるものがある。ヒトへの生殖影響がどの程度の体内負荷量で起きるかについてはまだよくわかっていない。ヒト(特に妊婦,胎児,新生児)がどの程度のダイオキシンの体内負荷量があるのか,その場合,どの程度の反応が起きているのか,どの程度の生体影響のリスクがあるのかに大きな関心が持たれる。

 このような背景を踏まえて,本研究では,ダイオキシン類の成人,母体,胎児における暴露量,体内負荷量と生体影響指標との関係を検討し,ダイオキシン類の生体影響,特に生殖・発生影響にかかわるリスクを評価することを目的として,以下の課題を設定した。すなわち,1.ダイオキシン類の暴露量,体内負荷量の評価に関する研究,2.生体影響指標の適用可能性の検討および新規指標の検索・開発に関する研究,3.ダイオキシン類に対する感受性の決定要因に関する研究である。

 課題1では,ヒト(特に妊婦,胎児,新生児)におけるダイオキシン類の暴露量,体内負荷量を評価するために,インフォームドコンセントのもと,病院や大学の医学部と協力し,産科学的試料や母乳を採取し,ダイオキシン類の濃度を測定する。また,比較的暴露量が高いと考えられるゴミ焼却場周辺の住民,魚食の多い集団についても,インフォームドコンセントのもと,血液を採取し,ダイオキシン類の濃度を測定する予定である。

 課題2では,ダイオキシン類の暴露によって鋭敏に動くと考えられる生体指標,特に薬物代謝酵素 CYP1A1,CYP1A2,CYP1B1などについて,ヒトのサンプルでの測定法の確立を行う。収集したサンプルについて,上記の検討に基づき,生体指標の測定を行う。生体影響指標と暴露量,体内負荷量との関係からこれらの指標の適用可能性を検討する。また,ダイオキシン類の作用メカニズムに関する知見などに基づき新規指標の検索・開発を行う予定である。

 課題3では,ダイオキシン類に対する感受性の差,すなわち感受性の種差,ヒトにおける感受性差を決定している要因を探ることとしている。ダイオキシンの多くの作用は,ダイオキシンがアリルハイドロカーボンレセプター(AhR )と結合し,さらにARNT と呼ばれるタンパクと複合体を形成して,標的遺伝子に結合することによって発現すると考えられている。このAhR ,ARNT やステロイドホルモン産生系の代謝酵素群を中心に感受性種差,感受性差を分子レベルで解明する予定である。

 ヒトは遺伝的背景も様々であり,生活習慣,食生活も多様であり複雑な生き物である。数多い環境因子の中から特定の因子を選び出し,その因子とヒトの健康影響とのかかわりを評価することは,大変難しい仕事である。それだけにまた,やりがいもあると思っている。

(よねもと じゅんぞう,
地域環境研究グループ化学物質健康リスク評価研究チーム総合研究官)

執筆者プロフィール:

1996年当時,「ホルモン様化学物質」という言葉を理解してもらうのに苦労したことが思い出されます。趣味はテニス,太極拳。