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押し寄せる変革の波に乗ってさらなる飛躍を

 私は1975年,国立公害研究所に入所した。当時のつくばは,東大通りが建設中で西大通りはまだ跡形もなかった。現在のつくばの状況と比較すると,20世紀最後の四半世紀の間に大きく発展したことが分かる。私が入所して初めて着手した研究テーマは「多元素同時分析システムの開発」であった。当時は,水俣病やイタイイタイ病で問題となっていたHg やCd といった重金属を一元素ずつ測定する原子吸光法が全盛期であった。現在では,誘導結合プラズマ(ICP )を用いた発光分析法と質量分析法を用いて60元素程度の多元素を一度に測定することができるようになってきた。このように私の研究分野を見ても,過去四半世紀の間に大きく進歩してきたことが分かる。もう一つ皆さんが共通して理解できる例を挙げるならば,コンピュータであろう。25年前と現在のコンピュータを比較してみれば,処理速度,記憶容量,装置の大きさなど,その性能は格段に進歩したことが分かる。21世紀を迎えて今後25年間につくばがどのように発展し,また科学技術がどのように進歩するのかを見届けることは,私の生涯において子供達の成長を見届けるのと同じくらいに楽しみなことである。

 1990年7月1日に国立公害研究所から国立環境研究所へと名称を変更されるとともにその内部の組織も大幅に変更された。それまで10部あった組織のうち,2部が廃止され,新たに地球環境研究グループと地域環境研究グループが設立された。この組織改革が良かったかどうかは,10年が経った現在その成果が問われるのであろう。私は1994年4月に地球環境研究センター研究管理官から大学へと転職した。転職してからは,新聞やテレビ等で報道される国立環境研究所の研究成果を見聞きしながら,研究所の所員が日本の環境研究の中核として頑張っているなと感心している。10年前,地方自治体の研究所を初め,社会全体に広がった「公害」から「環境」への変革の波に乗って,研究所の研究範囲を地球環境研究までもと拡張していった新たなる体制作りがなかったならば,現在の国立環境研究所の発展はありえなかっただろう。そのように考えれば,あの時の組織改革は成功だったと言えるのであろう。

 21世紀を迎え,国立環境研究所は国立研究機関から独立行政法人へと移行するという第2の変革の波に直面している。しかし,この変革の波は国立研究所だけに限ったものではなく,1府22省庁から1府 13省庁へと再編を遂げた政府の行政改革を初め,国立大学の独立行政法人化と統合,金融機関を初めとする民間会社の構造改革とリストラ,私立大学における少子化に備えた組織改革など,いたるところに及んでいる。改革には痛みが付き物である。“No pain, No gain ”と言われる。痛みなくして発展はありえないのである。

 10年前の組織改革のとき,10部のうちどの2部が廃止となるのだろうか,新たにどのような研究グループができるのか,部長,室長,総合研究官には誰がなるのか,自分はいったいどこに所属することになるのか等,いろいろと不安が募り,自分の専門とする研究にも集中できない日々が続いた。組織改革後は研究費を確保するために自分の研究分野を広げ,他分野の研究領域にも積極的に関与するよう心がけた。転職する前の1年半は,地球環境研究センターの研究管理官として,大蔵省に提出する予算要求の作成や,モニタリング事業の調整役として会議と打ち合わせに明け暮れた。特に落石岬に地球環境モニタリングステーションを建設するにあたり,落石と根室市の地元住民への理解を求めるのに奔走したのを今でも忘れ得ない記憶として覚えている。

 大学生活にもすっかりなじんだ今,過去を振り返ってみると,国立公害研究所の時代に積み重ねてきた研究が,現在の研究分野を形造っていることは間違いない。しかし,組織改革後の国立環境研究所の時代に経験したことも大いに役立っているのも事実である。私立大学ハイテクリサーチセンターとして「超高温プラズマ式環境破壊物質無害化・有効活用技術の研究」と題するテーマを立ち上げるときには,研究管理官のときの経験が大いに役立った。大学の行事の一つである父母連絡会に参加して釧路で講演したとき,その父母の中に落石出身の人がいて,その人が,私が以前行った「地球環境モニタリングステーション建設に関する地元説明会」に出席していた人だったと知った時には感激した。また,遅々として進まぬ学生の研究に対しても腹を立てずに懇切丁寧に指導する寛容さもいつしか身に付いていた。学部ガイドに「応用化学科の学生にとって重要なことは,他分野との境界領域まで一歩踏み込めるのに十分な基礎学力を身に付けることである。」と明記したのも私である。

 2度目の大きな組織改革を目前にして研究所の所員の人たちは不安な日々を過ごしていることであろう。”scrap and build ”が起これば,研究者の中には今までの研究の方向を変更せざるを得ない人も出てくることは間違いない。そのような研究者に対して次のようにアドバイスする。「今までの研究分野は確保した上で,さらに他分野の研究領域へも踏み込む努力をするのが良い。その努力はいつしか必ず報われるはずだ。」と。研究所の外からは,研究所内部の組織はまったく見えない。見えるのは,研究所の研究成果のみである。研究所の所員が一丸となって,迎え来る第2の変革の波に乗って,さらなる研究所の飛躍を成し遂げることを期待する。

(ふるた なおき)

執筆者プロフィール:

現在,中央大学理工学部応用化学科教授。