インドネシアでの生活
海外からのたより
青山 銀三
国際協力事業団(JICA)の長期派遣個別専門家として,ジャカルタに単身赴任して約1年半経過した。自然保護及び国立公園管理に関わるインドネシア政府の行政アドバイザーという身分で,林業省自然保護総局に籍を置き政策助言や技術指導を行っている。
初めての海外勤務であり,生活面で見るもの聞くことは興味深いことが多く,また国内各地の国立公園などを訪れている間に,この1年半は瞬く間に過ぎ去った感じだ。
〈オランウータンとの出会い〉
私の業務の中に国内36カ所ある国立公園を訪れ,現場レベルでの公園の保護管理に関する指導助言を行うことがある。昨年出張したカリマンタン島のクタイ国立公園とタンジュンプティ国立公園は,絶滅が心配されるオランウターンの生息地として知られるところで,給餌ポイントでは元気な野生のオランウータンを観察できる。しかしながら,幼年個体を中心に病弱でケアが必要なものや密猟者の手から保護されたものが数十頭も,設備の貧弱なリハビリ施設に収容されている。このため,要請のあった保育器,血液分析装置等の医療用機材を供与する事業を行ったところ,今年1月から4月に再び発生した東カリマンタンの森林火災で傷ついたオランウータンの治療に役立てられた。映し出されたテレビの画面を見ながら,保育器のなかの幼いオランウータンの無事を祈らざるを得なかった。
〈イスラムの世界〉
国民2億人のうち,約9割がイスラム教徒であり,1年の行事や毎日の行動がイスラム教のしきたりで進められる。1日5回のお祈り,金曜午後の重要な礼拝,1カ月間の断食など規則正しい行為は,宗教心の薄い私には到底つとまらない。とくに,明け方4時頃から始まる朝のお祈りは,市内各所にある教会から拡声器を通じてかなりの音量で発せられるため,着任した直後の数日間は睡眠不足になったほどである。早朝から多くの人が教会に出向いているのだと想像していたが,どうも一般の教徒はあのアラビア語の祈りの言葉を自宅で聞きながらお祈りしているらしい。今では,耳障りであったお祈りも,夜明けの子守歌のように心地よく聞こえるようになったから不思議なものだ。
〈ジャカルタ暴動〉
今年5月14日は,私にとって忘れられない日となった。前日に起きた民主化のための反スハルト学生デモは,学生死亡事件でこの日さらに拡大し,これが引き金となって一般民衆による銀行,商店等への焼き討ち,略奪へとエスカレートしたのだ。私のアパートの屋上からみたジャカルタ市内の光景は今でも目に焼き付いている。市内各所から立ち上る黒煙を見ながら,この国は一体どうなることやらと驚愕したものだ。
その後,スハルト大統領は退陣し,後任のハビビ大統領の下で新内閣が組閣され,現在,一応国内は平静を取り戻しつつあるように見える。しかしながら,経済再建,民主選挙制度の確立,貧困の解消等多くの難題を抱えたこの国の将来を思うと,どうか一日も早く平和で幸せな生活がくることを願わざるを得ない。