ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

新たな「総合化」を目指して

大坪 国順

 平成8年8月1日付をもって水土壌圏環境部上席研究官を拝命した。平成3年4月に研究部門から企画官室に出て以来6年振りに古巣に戻ったわけである。もっとも地球環境研究センター(CGER)には併任がかかっているので,CGERから完全に足抜けできたわけではない。企画官室に出た動機は,半分御奉公,半分勉強であった。企画官室での一年間は,その後の研究公務員としての自身の行動規範に大きな影響を与えるものであった。

 行政官の,好き嫌いで仕事を選ばない,スペースや物品に執着しない,という態度は,公務員として当然ながらも,“目からうろこ”の経験で,自分には全く反対の意識がしみついていることを思い知った。環境庁の人間として環境保全に向ける熱いまなざしは正直いって新鮮であり驚きであった(5年の間はもちろん,行政のネガティブな面を垣間みることもあった)。それまでの自分の行動規範は,自分が勝負できる所で興味のあることを研究し,年に1,2編の論文発表と,2,3編の口頭発表を行って研究業績を積めばよく,論文が環境保全のために役立つか否かは行政側が判断すればよい,というものであった。

 研究企画官として地球環境研究分野を担当しているうちに,国立研究機関である以上,所として長期ビジョンを持ち,戦略的に研究すべきであると思うに至った。純粋科学・基礎研究に近いテーマを扱う研究者であっても,常に中長期的には環境保全に寄与できるブレークスルーを目指す気持ちが必要と思われた。研究者の中には,戦略的に研究することには異論をとなえる向きもあろうが,ともかく自分はその方向を選び,CGERに来て手伝ってほしいという要請に応じた。CGERでは,ただがむしゃらに走って来て,気がついたら4年も月日が流れていたという感じである。この間に「地球環境研究の総合化」としてやってきたことは,

(1)地球環境研究に関するジグソーパズルの基盤の 提供

  • 地球環境研究の方向付けのための国際ワークショップなどの企画・開催
  • 地球環境研究センターニュースの発行(月刊)
  • 行政サイドと研究者サイドとの橋渡し役

(2)国際研究ネットワーク作り

(3)スーパーコンピュータ資源の戦略的配分

(4)土地利用・被覆変化に関する国際共同研究プロジェクト(LU/GEC)の立ち上げ

 である。目指してきたことをサッカーに例えれば,ゴールにつながる適確なパスを出すリトバルスキーのような役目,宝島探しで例えれば,宝島の方向を示すナビゲーターの役目である。ゴール・ゲットや宝の分配にあづかるのは研究者である。そのため必然的に研究発表論文は“ナシ”である。むしろこれがこの4年間の自分にとっての“勲章”である。多くの研究者から,このような活動は研究者ではなくて行政官の仕事ではないかと言われたが,研究者の発想で行政的な裏付けのもとに継続的に実施することが大切であると信じてやってきた。

 地球環境研究がメガ・サイエンスの一つとして国際的共同・分業の必要性が声高に叫ばれ,WCRP(世界気候研究計画)やIGBP(地球圏−生物圏国際協同研究計画)でいくつかのプロジェクトが立ち上げられて,欧米では研究プログラム・マネージャーの活躍の場が飛躍的に増大した。そのような国際的状勢の中で,我が国でも研究プログラム・マネージャーの養成がいろいろな場で言及されるようになった。これ自体はCGERが目指しているものへの精神的な追い風ではあったが,目標を同じくする人員,予算の両面で強大な組織,機構が現れ始め,周辺環境は厳しい状況になりつつある。CGERもその機能を先鋭化しないと競争相手の中に埋もれてしまう危険性が出てきた。Jリーグではリトバルスキーが去り,替わってジョルジーニョが脚光を浴びているように,CGERの総合化担当の研究管理官も別の切り口の発想ができる人材に替わる時期に来ている。ある意味では大変な時期に選手交替をお願いするわけであるが,新しい研究管理官にはCGERのさらなる飛躍を期待したい。

 最後に,上席研究官としての抱負を述べて本稿を閉じることとしたい。上席研究官のポストは,部を藩に例えるならば,家老職のように実質的に藩を切り盛りする役にもなりうるし,手足をもがれた隠居職にもなりうる。自分としては水土壌圏環境部の一員としての基本的立場は堅持しつつも,一つの部の所掌内容および枠組みに囚われることなく,部横断的な活動を展開して,上席研究官としての新たな活動形態を開拓してみたい。具体的には,所内でいろいろな切り口で行われている東アジア地域を研究対象としたプロジェクトを,有機的につなげるような役割(総合化)を果たせたらと考えている。東アジアを対象とした研究プロジェクトの成功の鍵は,信頼できるデータの収集にあり,そのためには当該地域の研究者との連携が不可欠である。恒常的で組織的な連携体制を築くためには,アジア地域で進んでいる政府間レベル,非政府間レベルの国際研究ネットワーク化事業および活動と歩調を合わせ,互いに補完し合うことが重要と考えられる。このような活動は,行政官や事務官との連携プレーが不可欠である。また,「総合化」としてのアウトプットをまとめるためには,常に地球環境の総体を把握する努力が必要で,この意味でもCGERとの協力体制は重要と考えている。

(おおつぼ くにのり,水土壌圏環境部上席研究官)

執筆者プロフィール:

この4年間一緒に働いてくれた行政官や事務官に,研究所の応援団になってもらえたのか気になる昨今である。