オゾン層と極渦破壊
環境問題豆知識
中根 英昭
最近,対流圏大気中のフロン等の総塩素濃度が下がり始めたとの記事が新聞紙面をにぎわした。他方,南極オゾンホールは拡大・深化しており,また北極域のオゾン層破壊も深刻化している。オゾン層は順調に回復に向かうのか否か。この答えの鍵は極渦(きょううず)といわれるものの動向が握っている可能性が高い。そこで,極渦とオゾン層破壊の関係について述べる。
まず,南極オゾンホールと極渦の関係から説明する。南極では,春季に10〜25kmの高度のオゾンが急速に減少し,特に17km付近ではオゾンがほとんどなくなってしまう。オゾンホールは,南極の特殊な気象条件とフロンから放出された塩素原子により,次のような機構で発生する(図1)。
- 南極の冬及び春には極渦と呼ばれる強い西風が南極上空を取りまく。極渦の内部では風が比較的弱く,非常に気温が低く,外部との空気の交換があまりない。
- 冬期の非常な低温(-78°C以下)のために,硝酸や氷を主成分とするエアロゾルである 極成層圏雲(PSC)が生成し,その表面で,下のような不均一反応が起こる。
ClONO2+HCl →Cl2 (気相)+HNO3(固相)
ClONO2+H2O →HOCl(気相)+HNO3(固相)
- 春になって南極に日が当たるようになると,Cl2やHOClは分解して塩素原子を生成し,オゾンを破壊する。
つまり,いったん不活性化していた塩素化合物が,オゾンを連鎖反応的に破壊できる活性な形に変換されるため,オゾンホールが生じるような激しいオゾン層破壊が起こるのである。
南半球の極渦の形は,ほぼ南極を中心とする円形であり,極渦の内部がそのままオゾンホールの領域と重なっている。
ところが,北半球では,図2に示すように,円形でないばかりか,中心も北極からはずれている。このため,欧州,シベリア,カナダなどがしばしば「極域」になってしまう。北半球の極渦の中でも極成層圏雲は発生するため,オゾンホールと呼ぶ程激しくはないが,南極オゾンホールと同様の機構のオゾン層破壊が起こっている。実際,図2の極渦内側全体で,オゾンが数十%破壊されていたことが分かっている。今後十数年間のオゾン層破壊は,フロン等の規制の効果だけではなく,極渦の強さや極渦内部の低温の持続の程度によっても左右されると考えられる。
(なかね ひであき,地球環境研究グループ
オゾン層研究チーム総合研究官)
オゾン層研究チーム総合研究官)
目次
- 環境研究および国立環境研究所のあり方
- 就任のご挨拶-二段目ロケットへの点火-
- 環境リスク研究再考−新たな推進に向けて−
- 赤潮プランクトンの生態モデル研究ノート
- 平成8年度環境庁の地球環境研究総合推進費による研究課題について(国立環境研究所における実施状況)
- 平成8年度地球環境研究総合推進費研究課題一覧(国立環境研究所環境研究所関係実施分のみ)
- 地球温暖化対策の経済への影響~炭素税の導入とその税収の使途が経済に及ぼす影響~研究ノート
- 騒音と不眠環境問題豆知識
- 投稿募集
- 酸性雨国際シンポジウム(International Symposium on Acidic Deposition and its Impacts)
- 表彰
- 人事異動
- 編集後記