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アメリカでは田舎でも Science は育っている

海外からのたより

梅津 豊司

 ヴァージニア州シャーロットビルは,ワシントンDCの南西150㎞に位置する人口約12万人のヴァージニア大学を中心とする小さな田舎町です。ヴァージニア大学は,第3代大統領ジェファーソンによってこの地に創立された,合衆国においては歴史に誇る大学です。キャンパス内は設立当時の建物が保存されており,新しいビルディングもそれに倣って赤レンガの壁と白塗りの柱に統一されています。キャンパス内外は緑豊かで,昼はリスがあちらこちらで走り回り,夜には大きなネズミやあらいぐま(?)を見かけることもあります。町を少し離れた所では鹿の交通事故も珍しくありません。ここに住む人々の心も荒廃していず,例えば殺人事件が新聞に載る(つまりニュースバリューがある)程安全な所です。実際,夜遅くでも女性が一人でジョキングをしています。

 当大学には,1991年に米国科学財団(NSF)によって設立された時間生物学センター(CBT)があります。CBTには当大学のほか,ノースウェスタン大,ロックフェラー大等の時間生物学者が参加しており,合衆国におけるこの分野の中心的役割を果たしています。したがって,この分野に関しては,どこで誰が何をやっているかが良く分かり,何か大きな発見があるとたちどころにその情報が知れ渡ります。また,論文が雑誌に掲載される前に,その知見に基づいた新しいプロジェクトが動き出します。私は,CBTの一員でありボス格でもある Michael Menaker 教授(通称 Mike)の下で研究を行っていますが,一人で論文を読み,実験をしていたのに比べ,ここで研究をすることがいかに有利であるかを知りました。

 Mike の人柄は一言で言うと,人の良いのんびりとした人です。私がここに着いて初めて言われたことは,一ヵ月は研究室に来なくて良い,その間に生活環境を整えろ,ということでした。人が言うのには,彼は典型的な良きアメリカ人のボスだとのことです。従って多くの人々が彼を慕ってここに来,彼はよく面倒をみています。しかし,少なくとも研究に関しては,隙のない人です。例えば,新しい実験については,そのアイディアがどんなに面白くてもすぐには飛びつかず,まず必要最小限の実験を許可します。しかし,ひとたび面白い結果が出ると,それを発展させるための最大の努力をします。その実験にさらに出資するだけではなく,それを一つのプロジェクトに発展させようといろいろアイディアを出し,またグラントを申請します。そして成果を論文発表するに当たっては,時間をかけて吟味し納得のいくまで練り上げたうえで,可能な限り最良の雑誌に投稿します。これは Mike 自身のためだけではなく,その成果を上げた人のためにもなります。実験を実際にするのは主にポスドクと大学院生ですが,一度結果を出せば,その成果で得られる最良の業績に繋がり,また,次の成果を上げるチャンスが広がります。つまり,やればやる程業績が増え,評価が上がり,ひいては彼らが正規の職を得る可能性も高くなります。このような好循環は,自然やる気を起こさせます。

 Mike が時間生物学において上げた成果は多く,たとえば, Nature, Science, Pro.Natl.Acad.Sci.USA といった超メジャー誌に掲載された彼の論文数は20を超えます。しかしながら,それでも当大学生物学科において,彼は必ずしも飛び抜けた存在ではありません。事実助手でも上記雑誌に1本以上の論文を発表しています。Cal.Tec.や MIT等に比べ,日本におけるヴァージニア大学の知名度は遥かに劣りますが, Science における貢献度は,日本の大概の大学,研究所をしのいでいます。ろくに研究をしなくても給料が貰え,成果を上げなくとも研究費が貰え,上司にゴマをするのが出世の要,というところでは Science は育つこともなければ,根付くことすらないようです。

(うめず とよし,環境健康部保健指標研究室)

執筆者プロフィール:

群馬大学大学院博士課程医学研究科修了,医学博士
<メッセージ>只今独身