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「新しい研究組織」への模索

所長 鈴木 継美

 平成7年12月1日に開かれた国立研究機関長協議会において,伊藤正男日本学術会議会長は「我が国の研究体制の高度化をめざして」と題する極めて注目すべき特別講演を行った。研究費,研究者,研究機構,研究体制の4点について,それぞれ具体的な提言がなされたが,1)基礎研究と応用開発研究の中間に位置する研究として「戦略研究」(これまでの用語法で言うと企業で使われてきた目的指向型の基礎研究に近い概念で,大学でも工,農,医,薬等の学部での研究にはこの性格のものが多々ある)というカテゴリーを設け,異なる評価基準を持つ多元的な研究資金源を確保すること,2)契約研究者を導入し雇用形態を重層化し,研究者の自主性を確保するとともに,公正で多角的な評価システムを確立し,人材を国際化し,研究者の倫理を確立し,人権を保護すること,3)大学,研究所,企業の3セクター間の人的交流,研究協力を促進し,国内の多くの研究室を有機的に結び,国際的にも開かれた稠密な研究ネットワークを構成すること等が注目すべき論点であった。

 当国立環境研究所においては,平成7年2月に評議委員会の下に研究活動評価専門委員会の設置を依頼し,平成2年の組織再編から5年を経過した時点での研究所の活動について,この専門委員会による外部評価が進められ,平成8年2月22日に報告書が示された。上述の国の研究機関のあり方にもかかわる伊藤会長の提言を参考にしながら,専門委員会によるこの外部評価を受けて,当研究所としても新しい研究組織とその運営についての議論を開始すべき時がきた。そもそも平成2年の改組は,局地的な環境汚染問題だけでなく,地球環境問題,自然環境保全対策をも扱うためのものであった。限られた人員で拡大する研究領域をカバーするために工夫されたものが現在の組織で,数多くの成果が生み出されたことは周知のことであろう。しかし,活動の拡大とともに多様な問題が生まれている。例えば研究組織の安定性と流動性の両面を維持することの難しさはその一つである。現在はまた科学技術基本法ができ,科学技術基本計画が議論されている時期でもある。我々も知恵をしぼって研究組織とその運営について考えなければならない。

(すずき つぐよし)

執筆者プロフィール:

東京大学名誉教授,東京大学医学部卒,人類生態学・公衆衛生学専攻,医学博士
〈現在の研究テーマ〉環境研究が科学・技術としていかなる特性を持つかについていつも考えています。