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地球温暖化と植物との係わり

研究ノート

甲斐 啓子

 地球温暖化は,生態系や農業に大きな影響をもたらす可能性がある。仮に気温が2度上昇したとすれば,同一の植物が分布可能な気候帯が緯度方向に200〜300km,垂直方向に600m移動するといわれている。このような温暖化による気候変化に植生の移動がついていけないともいわれている。また,農業についても収量が増加するといわれる一方で,高温障害,病気や害虫の被害に対する品種改良や栽培技術の改良,それにかんがい施設の整備などが必要となってくる。そこで,もし,この温暖化が防ぎきれなかったときに植物にどのような影響を与えるか,二酸化炭素が倍増したらどのような影響を受けるかなどの研究について,平成2年度から我が国を含めたアジア太平洋地域において環境庁地球環境研究総合推進費の一環として行っている。

 温暖化が進行した場合の植物生産力や植生分布,生物季節現象を中心に影響予測を行った最近の研究では,二酸化炭素が倍増した場合の2つのシナリオ,平均気温2度上昇・降水量20%増加,及び平均気温4度上昇・降水量20%増加での中国における植生シフトの予測を行った。その結果,中国北部に分布する針葉樹林域は最適生息地が北方に移動し,中国内では大幅に減少する。また,中国東部に分布する広葉樹林域は平均気温が2度上昇した場合緯度で約3度,平均気温が4度上昇すると約5度北方へ移動すると予測された。西部に分布する砂漠地域,サバンナが減少することも予測された。また,温暖化気候条件下でのいくつかの気候シナリオとモデルを用いて,植生分布や生産力への影響を予測した結果,我が国では温暖化によって自然植生の純一次生産力は約9%増大する可能性があると予想され,東南アジア地域では8〜20%増大する可能性があることが予想された。

 最後に,桜の開花やせみの初鳴きといった生物季節現象については,我が国において最近の5,6年は特に異常な現象が現れており,例えば1994年のツバキ・タンポポ・サルスベリの開花・アブラゼミの初鳴きなど生物季節現象がこれまでになく早かったり,イチョウの黄葉・カエデの紅葉などもこれまでにない遅さであった。このことは,暖冬及び記録的な高温の夏から秋にかけての天候と良く一致している。ところで温暖化による生物季節現象の早遅を予測するために,開花・発芽・紅葉・黄葉日について予測マップを作成した。例えば1994年のイロハカエデの紅葉の分布と3度上昇した場合の予測図を比較すると,東日本では非常に似た分布を示し,西日本では1994年の紅葉日は予測図よりもさらに遅くなっている地域が多く,温暖化傾向が現れている。これらの生物季節現象を用いることによって温暖化の指標となりうることが分かった。

図  イロハカエデの紅葉日予測(平均気温3度上昇した場合)と1994年の記録

(かい けいこ,地球環境研究グループ温暖化影響・対策研究チーム)

執筆者プロフィール:

法政大学人文科学研究科修士課程修了
〈趣味〉スキー,硬式テニス,旅行