春を待つチェサピーク湾のほとりから
海外からのたより
野原 精一
野原 恵子
この冬ワシントンDC近郊は,1904年の低温記録を破るという歴史的な寒さに見舞われました。私たちはDCに隣接するメリーランド州モンゴメリー郡に住んでいますが,今年は雪に低温が重なって,この地区の公立学校は1月から2月中旬までで既に13日も休校か時間短縮になるという異常ぶりでした。
さて精一は,独立直後の米国の首都アナポリスの近くにあるスミソニアン環境研究センター(SERC)で,著名な植物生態学者ウイッガム博士と共同研究しています。全米で約50%も失われた湿原の復元をめざし,チェサピーク湾のほとりに年代を異にして建設された湿地をフィールドにして,湿原の遷移と種子発芽及び土壌水分との関係について調べています。紅葉の美しいブナ科の落葉広葉樹の天然林や二次林と牧場や農地に囲まれたSERC内には森林,河川,湿原,研究,野外観察等の各施設があり,70名程の人々がチェサピーク湾周辺の生態系を直接利用して研究しています。SERCでは豊かな自然に恵まれた研究環境に加え,DCに集まる情報とスミソニアン協会所属の各図書館の膨大な図書の検索・配達システム等を利用できます。
恵子は,DCに位置し,クリントン大統領の母校でもあるジョージタウン大学のメディカルセンター生化学・分子生物学科のスピーゲル教授の研究室で,細胞の分化・増殖制御の分子的機構に関して研究をしています。同学科では毎週米国各地の大学や研究所から講師を迎えてセミナーをもっていますが,メディカルセンターのあちらこちらで同様のセミナーが頻繁に開かれており,その通知も行き届いていて最新の情報を知る機会が豊富に提供されています。また,大学内の研究室間,または位置的にも近い米国保健機構(NIH)を始めとする他研究機関との共同研究も非常に盛んに行われています。このように自分の研究対象に関連する知見や必要な方法が自然に飛び込んでくるような環境が,ここでの研究のペースを加速しているのだと思います。
今年は冬が寒いだけに余計に春が待ち遠しく感じられます。このあたりの人たちは本当に目を輝かせてポトマック川河畔の桜のすばらしさを語ってくれます。今年は社会環境システム部の日引さん,大気圏環境部の高薮さんもDCに来ていますので,皆でにぎやかに春を祝いたいと思います。
(のはら けいこ, 環境健康部生体機能研究室)
目次
- 研究組織とはどんな組織か巻頭言
- 環境科学と行政論評
- 平成6年度国立環境研究所予算案の概要について
- アジア太平洋地域における温暖化対策の研究プロジェクト研究の紹介
- “Zooplankton community responses to chemical stressors: A comparison of results from acidification and pesticide contamination research” Karl E. Havens and Takayuki Hanazato: Environmental Pollution, 82, 277-288 (1993)論文紹介
- 地球環境問題における国家の態度はどのように決まるのだろう?研究ノート
- 第9回全国環境・公害研究所交流シンポジウム
- 「第13回地方公害研究所と国立環境研究所との協力に関する検討会」報告
- 国立環境研究所設立20周年記念行事
- 国立環境研究所環境情報ネットワーク(EI−NET)ネットワーク
- 表彰・主要人事異動
- 編集後記