アジア太平洋地域における温暖化対策の研究
プロジェクト研究の紹介
森田 恒幸
活発化するモデル研究
まず、図1をご覧いただきたい。スパゲッティのように見えるこの図は、世界の二酸化炭素の排出量について、この7年間に予測されたすべての結果を示している。今、世界全体で30%以上の計算機シミュレーション・モデルが開発され、これを使って温室効果ガスの排出量がどの程度増えるかについて、いろいろな将来シナリオが描かれている。そして、それぞれのモデルがいかに説得力があり、また、いかに対策評価に有用であるかを主張しながら、お互いに競い合っている。この国際レースにわれわれのチームも参加している。
世界に数少ない総合モデル
われわれのモデルは、AIM(Asian-pacific Integrated Model)とよばれ、名の示すとおりアジア太平洋地域に焦点を置いているが、温暖化が地球規模で生じるために世界全体を予測できるように設計されている。最も大きな特徴は、温暖化の原因になる温室効果ガスの排出を予測するだけでなく、その結果生じる気候変化やさらにはそれが環境や社会に及ぼす影響を同時に予測しようとしている点だ。このようなモデルは「総合モデル(integrated model)」とよばれ、今のところAIMのほかには、オランダ国立公衆衛生・環境保護研究所のIMAGEや米国バッテル研究所のGCAMなど数えるほどしかない。
アジア太平洋地域の対策支援
このモデルの目的は、省エネ、エネルギー転換、植林、技術開発、炭素税、排出権取り引きといった各種の温暖化対策がどの程度効果を上げるかを、温暖化による被害も含めて評価することにある。そして、その検討の焦点をアジア太平洋地域においている。この地域の温室効果ガスの排出量が来世紀末に世界全体の半分近くまで増加する可能性があり、また、温暖化によってこの地域の社会経済が著しい被害を受ける恐れがあるからだ。このため、この地域のそれぞれの国が自主的に対策を立案できるように、研究面からも支援する必要がある。環境庁地球環境研究総合推進費の支援を受けて、平成6年度から途上国と共同してモデル開発を進めることになった。
技術評価と経済評価の統合
今までに、世界モデルの部分がおおむねでき上がっており、既にいくつかの世界規模のシミュレーションを行っている。図2は、アジア太平洋地域の 2025年の二酸化炭素排出量を予測した結果である。現在、アジア太平洋地域の温暖化影響のモデルや国別の温室効果ガスの排出モデルを開発中だ。温暖化影響のモデルでは、水資源への影響を予測するモデルが既にでき上がっている。また、国別のモデルでは、100種類以上の省エネ技術がどのような経済的政策手段によって導入できるかがシミュレートできる。そして、共同研究によってこれらのノウハウをそれぞれの国に移転することにしている。
目次
- 研究組織とはどんな組織か巻頭言
- 環境科学と行政論評
- 平成6年度国立環境研究所予算案の概要について
- “Zooplankton community responses to chemical stressors: A comparison of results from acidification and pesticide contamination research” Karl E. Havens and Takayuki Hanazato: Environmental Pollution, 82, 277-288 (1993)論文紹介
- 地球環境問題における国家の態度はどのように決まるのだろう?研究ノート
- 春を待つチェサピーク湾のほとりから海外からのたより
- 第9回全国環境・公害研究所交流シンポジウム
- 「第13回地方公害研究所と国立環境研究所との協力に関する検討会」報告
- 国立環境研究所設立20周年記念行事
- 国立環境研究所環境情報ネットワーク(EI−NET)ネットワーク
- 表彰・主要人事異動
- 編集後記