地球環境問題における国家の態度はどのように決まるのだろう?
研究ノート
川島 康子
「地球環境問題は重要な問題だ」という認識は,ここ数年の間に世界の国々に急速に広まってきた。しかし,いざ解決に向けて対策を,という段階になると,各国がさまざまな主張をし始め,合意に到達するのが困難となる。国々が協力して地球環境対策を実施するためには,どのような方法が考えられるのだろうか。
政府の地球環境問題に対する政策決定や国家間の条約交渉...。このような社会現象を分析することが,今後,さまざまな地球環境問題を実質的に解決する上で重要となると考えられる。政策科学は,このような問題を扱う学問である。
簡単に説明しよう。政策科学においても理学や工学と同様,ある現象に対して問題認識を持ち,それを説明する仮説ないしモデルを設定し,その検証を行う。しかし,この検証の段階で,社会現象を実験室の中で再現できない,という制約がかかるため,アンケート調査やインタビュー調査が主要なデータ収集方法の一つとされる。以下に最近の研究成果の一端を紹介するが,これも,あらかじめ設定した政策決定モデルを検証するために,日米で30名以上の政策決定者に対しして行ったインタビュー調査から得られた知見である。
図は,オゾン層の保護のためのウィーン条約と気候変動枠組条約に対する政府の政策決定が,どのような決定要因によるものであったかを,問題間および日米間で比較したものである。日本では,態度に決定的影響を及ぼした要因が2つの問題の間で異なっていたと判断された。オゾン層問題では,オゾン破壊の学説への疑いや,国民の無関心が政府の消極性につながったと考えられ,温暖化問題では,国際社会における指導的役割の重視や世論の強い関心が,日本の積極的な態度を決定づけたと言える。また,米国では,2つの問題において類似の要因,つまり環境破壊による被害の大きさと,それを回避するために必要な対策費,が政策決定に最も強く結びついたことが分かった。
一方,以上のような相違が日米間で生じる原因としては,国民性や国際社会における地位,資源の対外依存度などが挙げられた。特に日本の決定要因の変化は,過去10年程の国際的地位の向上による影響が大きいと考えられる。
このような決定要因分析は,今後,対策に後ろ向きな国の政府に働きかける際の鍵となる。障害となる要因を一つずつ除去し,真の問題解決に一歩ずつ近づいていくのである。
目次
- 研究組織とはどんな組織か巻頭言
- 環境科学と行政論評
- 平成6年度国立環境研究所予算案の概要について
- アジア太平洋地域における温暖化対策の研究プロジェクト研究の紹介
- “Zooplankton community responses to chemical stressors: A comparison of results from acidification and pesticide contamination research” Karl E. Havens and Takayuki Hanazato: Environmental Pollution, 82, 277-288 (1993)論文紹介
- 春を待つチェサピーク湾のほとりから海外からのたより
- 第9回全国環境・公害研究所交流シンポジウム
- 「第13回地方公害研究所と国立環境研究所との協力に関する検討会」報告
- 国立環境研究所設立20周年記念行事
- 国立環境研究所環境情報ネットワーク(EI−NET)ネットワーク
- 表彰・主要人事異動
- 編集後記