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2018年12月27日

人口分布を考慮した環境負荷・影響に関する研究

研究をめぐって

 都市における高密度な人口分布は、汚染物質の集中的な排出や高濃度、大規模な曝露を引き起こしやすく、水質汚濁や大気汚染などの観点から望ましくないと考えられてきました。しかし、近年では、都市における集約的な人口分布は、資源・エネルギーの効率的な利用や低炭素化の観点から望ましいと認識されるようになってきました。

世界では

 歴史的には、感染症等につながる水質汚濁や呼吸器系疾患等につながる大気汚染が都市部でしばしば発生し、多くの人命や健康を奪ってきました。その解決策として、公衆衛生研究が進み、都市計画的規制等を通じて、空間的なゆとりのある都市づくりが目標とされてきました。

 一方、Dantzig & Saatyは、二次元的に広がってしまった都市を上下方向に積み重ね、また居住者の活動時間をずらすことにより、都市活動の飛躍的な効率化を目指す「コンパクト・シティ」を提案しました。また、Newman & Kenworthy は、世界各地の都市を対象とした実証的比較分析を行い、高密度な都市ではガソリン消費量が少ないことから、土地利用の高密度化と公共交通の誘導を行うことにより燃料消費量の削減が可能と結論づけました(図9)。

人口密度と交通エネルギー消費量のグラフ
図9 先進国64都市の都市人口密度と交通エネルギー消費量(1995)
都市の人口密度は一人当たり交通エネルギー消費量に対して高い説明力を持つことが分かります。Kenworthy & Laubeが1999年と2001年に更新した持続可能な交通に向けた世界都市データベースから作成しました。

日本では

 環境省は、「地球温暖化対策とまちづくりに関する検討会(2005~2007年)」において主に地球温暖化の観点から持続可能な都市のあり方について検討を行い、コンパクト化によるガソリン消費量の削減可能性等について議論しました。続いて2008年の地球温暖化対策の推進に関する法律の改正により、都道府県と指定都市に加えて、中核市、特例市においても、地球温暖化対策地方公共団体実行計画の策定が義務化され、「コンパクトシティ+ネットワーク」型の土地利用を通じた低炭素まちづくりへの道筋が示されるようになりました。

 国立社会保障・人口問題研究所は、市区町村別の将来推計人口を発表しています。国土交通省は、将来のメッシュ人口の推計結果を公表しており、2017年には小地域(町丁・字)単位の性別5歳階級別の人口の予測ツールを公開しています。

国立環境研究所では

「歩いて暮らせる街づくり」のイメージ
図10 低炭素社会に向けた方策「歩いて暮らせる街づくり」のイメージ
中心市街地をつなぐ公共交通機関、安心して歩ける地域、乗用車は電動軽量化といった施策を統合したものです。多くの従業者や来場者を必要とする施設は中心市街地に集積させ、住宅や生活利便施設は徒歩等の移動範囲に収まる日常生活圏に集積させ、公共交通機関のネットワークでこれらを結びつける公共交通指向型開発のイメージとしています。

 環境指標の開発に関する研究を出発点として、メッシュ人口密度の重みを付けることで大気汚染の曝露に係る影響等を詳細に評価し、市町村レベルの政策展開に用いることを提案してきました。

 「低炭素社会2050研究プロジェクト(2004~2008年)」を通じた望ましい都市の人口分布の姿として、「歩いて暮らせる街づくり」を示しました。中心市街地と住宅団地と農村コミュニティからなる数十万人規模の都市を対象としたイメージを例示することで、一極集中型ではなく拠点連携型のコンパクト・シティの姿を共有し、将来像や具体的な課題に関する議論を促進することを目指しました(図10)。

 市町村別の自動車CO2排出量の推計とメッシュ人口分布の関係を分析し、将来人口分布と将来自動車CO2排出量の推計を行いました。あわせて、市町村別自動車CO2排出量と人口分布シナリオを示した地図は、国立環境研究所のウェブサイト「環境展望台(環境GIS)」上で閲覧できます。次に、民生家庭部門のCO2排出量の調査データと地域別の人口密度と戸建住宅や集合住宅といった建て方の間の違いを分析し、将来の民生家庭部門のCO2排出量の推計を試みています。また、該当するメッシュ人口だけでなく、周辺の人口集積が施設立地に影響することを考慮して、圏域人口とCO2排出量の分析を行いました。

 また、将来の人口分布の推計値やシナリオは、気候変動の影響・適応策評価等に関する研究者に提供され、熱中症や大気汚染といった健康分野、海洋への影響といった生物多様性分野において、すでに活用されています。

 さらに、人口に基づく世帯数分布と建物のデータとを結びつけることで、詳細な空き家率の推計を行い、地域の空き家の状況を図示する未来地図の作成も試みました。国内数カ所のまちづくりワークショップにおいて、各市の予測データとともに未来地図を提示し、中高生が議論することで現状の課題を踏まえた政策を市長に提案する材料として活用しました(図11)。このように、生活に近いまちづくりの分野では、人々の意思決定に直接役立つような研究成果の提供についても取り組んでいます。

ワークショップの写真
図11 地域情報を踏まえた中高生参加の未来ワークショップ
千葉県の市原市、八千代市、館山市、鹿児島県の西表市の中学生、高校生を対象とした未来ワークショップにて、現状の住宅と将来の人口に基づく空き家の状況を示す未来地図を提供しました。中高生は、各市の将来の雇用や財政の推計などとともに、市内の地域別の未来地図も考慮して、地域の課題を抽出し、その解決のための政策提案を市長に対して行いました。

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