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2020年9月10日

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生物多様性の損失を食い止め回復させるための道筋-自然保護・再生への取り組みと食料システムの変革が鍵-

(京都大学記者クラブ、草津市政記者クラブ、林政記者クラブ、農林記者会、農政クラブ、筑波研究学園都市記者会、文部科学記者会、科学記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配布)

令和2年9月8日(火)

ポイント
・生物多様性の保全に関して様々な目標が掲げられているにもかかわらず、生物多様性は損失の一途をたどっています。
・生物多様性の損失を食い止めるためには、抜本的な社会変革が必要とされていますが、その達成可能性や、具体的な戦略は不明でした。
・本研究では、自然保護・再生への取り組みと食料システムの変革を組み合わせることで、将来において生物多様性の損失を食い止められる可能性があることを明らかにしました。

概要
   立命館大学、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、京都大学、国立研究開発法人国立環境研究所が参画する国際研究グループは、自然保護・再生と食料システムへの変革に向けた様々な取り組みが、世界の生物多様性に与える影響を評価しました。その結果、世界規模で自然保護区の拡張や劣化した土地の再生等の自然保護・再生への取り組みを拡大すると同時に、食料システムの変革に関わる取り組み—作物収量の向上、食品ロス削減、食肉消費量の削減—を行うことにより、将来において生物多様性の損失を抑え、回復へと導ける可能性があることを明らかにしました。
   生物多様性の保全に関する様々な国際的な目標が掲げられている一方で、生物多様性は低下の一途をたどっています。さらに、今後の人口増加、食の多様化、食肉需要の増加など土地ニーズの増加を考えるとその傾向はより強くなることが懸念されます。本研究では、国際的に使われている複数の統合評価モデルと生物多様性モデルを用い、自然保護・再生と食料システムの変革に向けた取り組みの実施程度を変えた複数の将来シナリオ下で9つの生物多様性指標の変化を世界規模で比較しました。その結果、自然保護・再生と食料システムの変革に関わる様々な取り組みを同時に実施した場合、2050年までの世界の生物多様性の損失を抑制し、さらには回復へと導く可能性があることが、世界で初めて示されました。この成果は、2020年9月10日にNature誌でオンライン公開されます。
 

背景

   過去100年間の土地改変等の人間活動により、地球上の生物多様性は急激に失われてきています。生物多様性の損失を食い止めるため、2010年に「愛知目標(*1)」と呼ばれる国際的な目標が掲げられたものの、2020年にその達成は困難であることが既に明らかになっています。さらに、今後の人口増加、食の多様化、食肉需要の増加に伴いより急激な生物多様性の損失が懸念されます。これまでの研究では、生物多様性の損失を食い止めるために、様々な解決策が個別に提案されてきましたが、これらの研究では、将来の人間活動に伴う土地の需要増加と生物多様性保全との競合が考慮されていませんでした。
   そこで、本研究では、自然環境の保護・再生と食料システムの変革に向けた取り組みを想定した複数の将来シナリオを用いて、生物多様性の変化を予測し、どのようなシナリオであれば生物多様性の損失を食い止めることが可能になるのかについて、科学的に検証しました。

内容

材料と方法

   世界中の生物多様性を評価するため、4つの統合評価モデル(*2)と8つの生物多様性モデル(*3)を用いました。統合評価モデルは各条件における将来の土地利用の空間的分布を予測し、生息地の損失や土地の劣化の評価に用いられました。その後、生物多様性モデルを用いて、得られた土地利用空間分布に基づき、将来の生物多様性の評価を実施しました。
   分析には、自然保護・再生に向けた取り組みと食料システムの変革に向けた取り組みの程度を変えた複数のシナリオのもとで将来シミュレーションを実施しました。自然保護・再生に関する取り組みとしては、現在の保護区に加えて野生動物や生物多様性にとって重要な地域を保護区として追加的に保全し、使わなくなった土地の自然再生を促進する場合を想定しました。具体的に、自然保護・再生と食料システムの変革に関わる取り組みを同時に実施したシナリオでは、2050年には保護区が世界の陸域面積の40%に到達し、同時に劣化した土地を再生した場所が陸域の8%を占めることを想定しました。一方、食料システムの変革に向けた取り組みとしては、作物収量の向上、貿易の促進、食品ロス削減、食肉消費の削減を想定しました。

結果

   将来シミュレーションの結果、これまでの社会システムの延長線上の「成り行きシナリオ」では、生物多様性の損失は続き、2010-2050年における損失は1970-2010年における損失と同等かそれ以上になることが予測されました。一方、自然保護・再生と食料システムの変革に向けた取り組みを最大限に実施する「社会変革実施シナリオ」では、生物多様性の損失が抑制され、2050年以降に回復に向かう可能性があることが示されました(図1)。これは、統合評価モデルと生物多様性指標のほぼすべての組み合わせで示されています。この成果は、自然保護・再生と食料システムにおける大胆な社会変革が2020年以降の生物多様性保全戦略にとって鍵となることを示しています。

今後の展開

   本研究では、自然保護・再生と食料システムの変革に向けた取り組みによる生物多様性への影響を分析しました。気候変動や気候変動対策、狩猟、外来種などの生物多様性にとっての他の脅威も今後考慮していく必要があります。

論文

タイトル:Bending the curve of terrestrial biodiversity needs an integrated strategy
著者  :D. Leclère, …, Hasegawa, T., …, Ohashi, H., …, Fujimori , S., …, Matsui, T., …, Wu, W.,ほか52名
掲載誌 :Nature(2020年9月)
研究費 :(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20202002),住友財団環境研究助成

共同研究機関

立命館大学、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、京都大学、国立研究開発法人国立環境研究所

用語解説

(*1)愛知目標
2020年までに生物多様性の損失を食い止めるために各国に求められた20の個別目標のことを表します。2010年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議で採択されました。

(*2)統合評価モデル
エネルギーシステム、経済、農業、土地利用などの人間活動の主たる要素を生物圏や大気圏の自然現象と結合し一つのモデリングの枠組みで描く科学的なシミュレーションモデルの一種です。本研究では、4つの統合評価モデルを用いて計算が行われています。

(*3)生物多様性モデル
生物多様性の状態を表す指標が、土地利用や気候など環境要因の変化によりどのように変化するかを予測するために開発されたモデルです。本研究では、5つの観点にまたがる9つの評価指標について、8つの生物多様性モデルを用いて計算を行いました。

お問い合わせ先

研究担当者:
立命館大学 理工学部 准教授 長谷川 知子

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
   野生動物研究領域 鳥獣生態研究室 主任研究員 大橋 春香
   国際連携・気候変動研究拠点 気候変動研究室 室長 松井 哲哉

京都大学大学院 工学研究科 准教授 藤森 真一郎

国立研究開発法人国立環境研究所 特別研究員 Wenchao Wu

広報担当者:
立命館大学 広報課
   Tel:075-813-8300 E-mail:tateiwa@st.ritsumei.ac.jp

森林総合研究所 広報普及科広報係
   Tel:029-829-8372 E-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp

京都大学 総務部広報課国際広報室
   Tel:075-753-5729 E-mail:comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
   Tel:029-850-2308 E-mail:kouhou0@nies.go.jp

図、表、写真等

生物多様性への影響予測結果を表した図
図1. 生物多様性への影響予測結果:これまでの社会システムの延長線上の「成り行きシナリオ(Base:灰色)」と自然保護・再生と食料システムの変革に向けた取り組みを最大限に実施する「社会変革実施シナリオ(IAP:オレンジ色)」について、9つの生物多様性評価指標の変化(2000年比)を予測しました。これらの指標は(a)地球規模での生物の生息地の広がり(AIM-B、INSIGHTS)や、(b)野生動物の生息密度(LPI-M)、(c)局所スケールでの種組成の原生性(GLOBIO、PREDICTS)、(d)地域規模で生物種が絶滅せずに残存する割合(cSAR_CB17)、(e)世界規模で生物種が絶滅せずに残存する割合(BILBI、cSAR_CB17、cSAR_US16)など、生物多様性の様々な側面を表しています。成り行きシナリオでは生物多様性は2100年まで損失傾向が続くのに対して、社会変革実施シナリオでは2050年頃までに生物多様性の損失を抑制し、それ以降は回復に向かうことが予測されました。

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