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2016年11月7日


分布が狭い植物ほど、自然保護区で守れない!?
~無計画な保護区設置が導く絶滅への悪循環~
(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、文科省記者会、府中市政記者クラブ同時配布)

平成28年11月7日(月)
 国立研究開発法人国立環境研究所
  生物・生態系環境研究センター
       主任研究員:角谷 拓
      主任研究員:石濱 史子
 国立大学法人 東京農工大学大学院
  農学研究院自然環境保全学部門
         講師:赤坂 宗光
 公益財団法人 日本自然保護協会
  自然保護部 生物多様性保全室
             藤田 卓
 The University of Queensland
         Richard A. Fuller
 

・本研究は、保護区が植物の局所絶滅を抑える上で有効であることを世界で初めて実証した研究になります。

・日本の絶滅危惧植物1572種を用いて国立公園などの保護区の有効性を解析した結果、分布域が狭い種ほど保護区に含まれにくいために局所的な絶滅が起こりやすく、分布域が狭くなりやすいことが明らかになりました。

・このような植物の分布を考慮せずに、保護区を新たに設置すると仮定してシミュレーションを行った結果、分布が広い種は保護区に入りやすく絶滅リスクが下がるのに対して、分布が狭い種ほど保護区に入りにくく絶滅リスクが上がるという「絶滅への悪循環」に陥ることが確認されました。

・以上のことから保護区には植物の絶滅を抑える一定の効果があるものの、その効果を高めるには種の分布を考慮して保護区を配置すべきことが明らかになりました。

 本研究の論文は国際保全生物学会発行の学術誌Conservation letters誌電子版に2016年10月24日に掲載されました。
 

1.現状

 国立公園などの自然保護区(以降、保護区)は、野生生物を人間活動による絶滅から守る上での砦であり、世界中で20万以上ヶ所に設置されています。生物多様性条約の愛知目標11では、生物多様性を保全するために「2020年までに陸域の17%を効果的に管理された保護区とすること」が定められています。
 保護区には、生物の生息地や個体数の減少を抑制する効果があることが確認されています。しかし、その配置が景観の美しさや農業などの人間活動を阻害しないことを基準に決定され、守るべき生物の分布が考慮されてこなかったことにより、保護区は必ずしも生物の保全に適した場所に配置されていないという問題が海外でも多数報告されています。さらにこの保護区の配置の偏りや偶然によって、優先的に守るべき分布の狭い種のほうが、保護区により守られていない傾向があることも欧米等で報告されています。

2.研究体制

 本研究は東京農工大学の赤坂宗光(大学院農学研究院)、角谷拓(国立環境研究所)、石濱史子(国立環境研究所)、藤田卓(日本自然保護協会)、Richard A. Fuller(The University of Queensland)の研究チームで実施しました。

3.研究成果

 本研究では、生物の分布を考慮せずに保護区を配置すると分布の狭い種は、保護区に含まれにくいために、局所的に絶滅しやすく、分布域が狭くなりやすい。その結果、分布が狭いためにますます新たに設置する保護区に含まれにくくなり絶滅リスクがさらに上がるという「絶滅への悪循環」が起こる可能性に注目しました。
 このような「絶滅への悪循環」が国内で生じうるかを検討するため、日本植物分類学会と環境省が、全国約500名の調査員の協力により実施した植物レッドデータブック編集のための調査データ(全国を約10km x 10kmに区切り、各格子内の対象とする維管束植物の分布状況を調査したデータ)のうち1572種について、1994-95年と2010-11年の2期間に収集されたデータを用いた統計分析しました。その結果、分布が確認されている10x10km格子が56個以下の植物は、それよりも広域で分布するものと比べて、国立公園の特別保護地区などの国が指定し開発や植物の採取が厳しく制限されている区域(以降、保護区)と分布域が重なる割合が低いことが確認できました。また、少なくとも250種の分布が保護区域と全く重なっていませんでした。次に、保護区の内側と外側で、植物の約15年間の局所絶滅する確率を調べたところ、保護区内に生育する植物の局所絶滅のしやすさ(4.9%)は、保護区域外(8.7%)と比べ少なくとも2/3に抑えられることが示されました。以上のことから、懸念した「絶滅への悪循環」を生み出すメカニズムが働いていることが確かめられました。
 さらに、シミュレーション解析により、この悪循環が生物の分布を考えずに保護区を繰り返し新設することで起こりうるかを検証しました。その結果、生物の分布を考えずに保護区を繰り返し新設すると、分布の広い種は、保護区が新設されることの効果で種が絶滅するリスクは下がるものの、分布域の狭い種では絶滅するリスクが上がり続ける「絶滅への悪循環」に陥ることが確かめられました。
 これらのことは、保護区の新設・拡大により生物の絶滅を抑えようとする場合には、保全すべき生物の分布を考慮した計画的な保護区設定が不可欠であることを意味しています。

図1.戦略的な保護区設置がなされない場合に「絶滅への悪循環」が生じるメカニズム
図2.保護区外にのみ生育していたが、2007年までに自生地で絶滅し、栽培株のみが生き残るシビイタチシダ。
この種のように1994年~2011年までに野生個体群が絶滅した7種のうち5種は保護区外にのみ分布していた。
(写真提供 国立科学博物館 海老原淳氏)

4.今後の展望

 今回の全国規模の分析により、保全が望まれる絶滅危惧植物中でも、特に分布が狭い植物が危機的な状況にあることが明らかになりました。「陸域の17%を効率的に管理された保護区にする」という愛知目標11を単に面積の上での達成に終わらせず、生物多様性の保全という本来の目標に大きく資するものとするには、保護区を新設・拡大する際には戦略的に配置を決めることが求められます。特に分布が狭い植物の多くは、絶滅の恐れが高いと判断されているため、優先的に保全する対策を講じることが期待されます。
 また、本研究は、保護区が植物の局所絶滅を抑える上で有効であることを世界で初めて実証した研究になります。本研究で注目した保護区が有効であることが認められたことは、喜ばしいことですが、それでもなお保護区内で4.9%の確率で15年の間に局所絶滅が起きている点には注意が必要です。この保全効果を高めるには、それぞれの植物が置かれている状況を考えて管理内容を決めることが望まれます。

5.研究助成

本研究はその一部を以下により実施しました。

・環境省環境研究総合推進費

・研究課題名/研究課題番号:「アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的研究」/S9

・研究課題名/研究課題番号:「持続的地域社会構築の核としての自然保護地域の評価・計画・管理・合意形成手法の開発」/4-1407

・文部科学省科学研究費補助金:「保護区による生物多様性保全の有効性評価と改善すべき社会特性を推定する枠組みの構築」/16K21027

6.研究に関する問い合わせ

東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門 講師 赤坂 宗光(あかさか むねみつ)
 TEL/FAX:042-367-5829  Email: muuak (末尾に@cc.tuat.ac.jpをつけてください)

国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 主任研究員 角谷 拓(かどや たく)
 TEL:029-850-2894  E-mail: kadoya (末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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