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衛星観測プロジェクト−−− ILAS、RISプロジェクト −−−

プロジェクト研究の紹介

笹野 泰弘

 1994年度冬期(1995年2月)に宇宙開発事業団(NASDA)の手によって地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS; Advanced Earth Observing Satellite)が打ち上げられる。ADEOS衛星は各種の衛星技術の開発とともに、地球環境のグローバルな変化の監視について国際的貢献を図ることを目的としたものである。海域、陸域や沿岸域の高精度・高分解観測のためのNASDA自身の開発する2つのコアセンサーのほかに、いくつかの公募センサーが搭載されることになった。そこで環境庁では、地球規模の環境監視を推進する観点から、成層圏オゾン層や地球温暖化に関係する大気微量成分の観測を目的とした「改良型大気周縁赤外分光計(ILAS)」及び「地上・衛星間レーザー長光路吸収測定用リトロリフレクター(RIS)」の2種の機器を提案し、搭載されることとなった。

 ILASは、赤外領域の太陽光が地球大気層を通過するときに受ける吸収スペクトルを測定し、これから微量成分(オゾン、メタン、水蒸気、二酸化窒素、硝酸、フロン11等)濃度の高度分布を求めるものである。また、可視領域(753〜784nm)における酸素分子による吸収スペクトル測定から、気温、気圧とエアロゾルの高度分布が求められる。太陽を光源としていること及び衛星が太陽同期で極軌道をとることから、主に南極、北極周辺の高緯度地域の高度10〜60kmが測定対象領域となる。

 RISは、地上局から発射するレーザー光を高効率で地上局の方向へ反射させる機能を持ったコーナーリフレクターで、反射光を地上局において受信する。赤外領域のレーザーを測定用の光源として用い、レーザー光の吸収スペクトル測定からオゾン、一酸化炭素等の大気微量成分の濃度を高精度で求める。(ILASとRISについては本紙8巻5号、10巻2号にそれぞれ紹介されている。)

 ADEOS衛星に大気微量成分観測機器を搭載しようとした環境庁の計画策定の初期の段階から、国立公害研究所(当時)の研究者が環境庁の検討作業に参加、協力してきた。その後、研究所では組織として対処することが必要との判断から、平成2年2月に大気物理研究室(当時)の研究者を中心とした衛星研究チーム(仮称)を設置し、主にソフトウェアの開発やデータ利用研究を中心課題として「衛星利用オゾン等観測プロジェクト」に取り組むこととした。平成2年7月の組織変更に伴いオゾン層研究チームが、さらに平成3年10月からは新設された衛星観測研究チームが全面的にこれを引き継いでプロジェクト推進に当たっている。また、平成3年1月には所内に「衛星観測プロジェクト検討会(委員長:市川副所長)」が設置され、衛星観測プロジェクトに係る重要事項の検討が行われている。

 ILAS及びRISプロジェクトはいずれも搭載機器の製作とRIS用地上施設の製作は環境庁予算で、地球環境部研究調査室の監督の下にメーカーによって行われる。これらのプロジェクトではそれ以外に、原理検証実験、機器較正試験、データ解析アルゴリズムの開発、データ処理・運用ソフトウェアの開発、打ち上げ後の検証実験、データ利用研究等、非常に幅広い開発・研究課題を含んでおり、多くの分野の専門家の共同作業として初めて達成されるものである。そこで、ILASとRISのそれぞれに衛星観測研究チームの研究者を中心にサイエンスチームを組織し、国内の大学や国立研究機関の研究者の参加を得て両プロジェクトを進めている。また現在、米国NASAラングレー研究センターのPark博士及びMcCormick博士にILASサイエンスチームメンバーとして、またゴダード宇宙飛行センターのHeaps博士にはRISサイエンスチームメンバーとして参加して頂いており、NASAにおける豊富な衛星センサー開発の経験を導入しようとしている。

 本研究所の衛星観測プロジェクトの当面のターゲットは、RISの計測手法の確立及びILAS・RISデータ処理・運用システムの開発であり、現在これらに必要な予備実験、機器試験、解析アルゴリズムの開発等の研究を進めている。さらに、打ち上げ後の検証実験の企画・調整とデータ処理・運用システムの開発作業を一層、推進する必要があると考えており、所外の研究者のサイエンスチームへの積極的な参加を呼び掛けているところである。

(ささの やすひろ、地球環境研究グループ衛星観測チーム総合研究官)