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気候変動に対応した持続的な流域生態系管理に関する研究(令和 3年度)
Study on Sustainable Ecosystem Management of River Watersheds toward Climate-Change Adaptation

研究課題コード
2022BE002
開始/終了年度
2020~2022年
キーワード(日本語)
生物多様性,生態系サービス,気候変動適応
キーワード(英語)
biodiversity,ecosystem service,climate change adaptation

研究概要

持続可能な社会の構築における気候変動適応の重要性への認識が高まる中、生態系を活用した適応(Ecosystem based Adaptation: EbA)への関心が高まっている。特に既存の防災インフラの想定を超える災害の増加が懸念される日本では、地域の自然環境の特性を活かしたEbAは今後さらに重要になるものと考えられる。本プロジェクトでは、EbAがもたらす多面的なコベネフィットを明らかにし、地域の自然環境の特性に応じた気候変動適応策の推進が地域の価値向上に寄与することを示すことを目的とし、次の研究を行う。
1)適応力評価軸の検討・定量化手法の開発【サブテーマ1】
 現在の適応研究の主流である「予測される将来の条件にシステムを適合させるアプローチ(効率性優先アプローチ)とは異なる、予測不確実性を前提としてシステムを頑健にするアプローチ(適応力向上アプローチ)のあり方を検討する。不確実性を伴う気候変動の進行に対し、生物多様性の重要要素や生態系の主要な機能を損なわないシステムの特徴を解明し、それを定量化する手法を開発する。またサブテーマ2〜4の現場に適用し、手法を改善する。
2)流域生態系の適応力向上策の検討と実践【サブテーマ2(サブテーマ3・4メンバーも参加)】
 関東平野をモデル地域として、自然生態系の適応力向上策を検討する。環境DNAを用いて生物分布を効率的に把握し、生物多様性ポテンシャルマップを作成し、それを活用した適応力向上アプローチによる生態系管理計画(湿地の効果的な配置、連結性回復計画)を提案するとともに、将来気候予測を用いて適応効果を予測する。同時に、気候変動適応法に基づく地域気候変動適応センターの設置が検討されている千葉県において、千葉県環境研究センター・国立環境研究所・東邦大学の連携により、地域特性を活かした適応策を実践し、予測の(短期的な)検証を行う。
3)適応の多面的コベネフィット評価【サブテーマ3・4】
 自然生態系における適応力向上策が、水質改善・保全、治水、農業といった異なる側面にもたらす効果を評価する。水質の観点では、休耕田や遊水地内湿地が有する水質浄化機能を評価するとともに、多点水質観測の結果を活用して流域内負荷源を面的に把握し、適応策の効果を評価する。治水の観点では、湿地や遊水地の効果的な配置による内水氾濫被害の軽減や計画超過洪水被害の軽減効果を評価する。農業の観点からは、湿地が持つ益虫供給機能の観点から、地域内の湿地や環境配慮型農業の効果を評価する。これらを比較・統合し、多様なコベネフィットが生じやすい条件を明らかにする。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:基礎科学研究

全体計画

サブテーマ1「適応力評価軸の検討・定量化手法の開発」
サブテーマリーダー 角谷 拓(国立環境研究所)
令和2年度: 適応力の概念を明確に定義し、適応力が高いシステムの特徴を理論的に検討するとともに、適応力の高さを定量化する手法の素案を作成する。
令和3年度: 適応力の定量化手法をサブテーマ2〜4で扱うモデル地域の生態系を含む複数の生態系に適用し、理論と手法を改善する。
令和4年度: 適応力の向上を地域における適応戦略の立案に活用できるものにするため、サブテーマ2〜4のモデル地域での適用結果をフィードバックし、標準的な評価軸と定量化手法を提示する。

サブテーマ2「流域生態系の適応力向上策の検討と実践」
サブテーマリーダー 西廣 淳(国立環境研究所)
令和2年度: モデル地域において既存および新規の生物調査データおよび環境DNA解析の結果を用いて、生物多様性ポテンシャルマップを作成する。地域・地方自治体と連携し、湿地再生事業に着手する。
令和3年度: 多様な特徴をもつ湿地の環境と生物分布を地図化し、気候変動の影響を予測するとともに、適応力評価を試行する。気候変動適応のコベネフィットについて治水と農地の機能以外の観点での評価軸を提案する。湿地再生事業を継続する。
令和4年度: 湿地再生事業の効果を、生物多様性保全と複数の生態系サービスの軸で評価するとともに、適応力にもたらす効果を評価する。

サブテーマ3「河川・流域管理による治水へのコベネフィット評価」
サブテーマリーダー 中村 圭吾(土木研究所)
令和2年度: 精緻な地形モデルに対し、2次元氾濫解析を組み合わせることで流域全体の雨水流動の実態を表現しうる「流域氾濫モデル」を構築する。これにより将来的な計画超過豪雨下での現象を把握し、耕作放棄地等の土地利用レイヤと重ね合わせることで活用ポテンシャルの高い土地を抽出する。耕作放棄地等の状態と雨水流出特性を評価するための現地観測を実施する。流域氾濫モデルの精度を高めるために必要な河川,水路網のデータをGIS上に整理する。
令和3年度: 「流域氾濫モデル」をベースに、サブテーマ2で扱う水質浄化効果の観点や生物多様性保全効果も考慮できるものにする。予測される氾濫特性と上記の様々な機能とを関連付ける。
令和4年度: 従来の流量をベースとした治水評価に変わる氾濫を前提とした治水施策の評価軸を明らかにする。具体的には広域・精緻な氾濫解析結果に被害実態を反映した被害関数を対応させることで、モデル地域における外力の大きさに対する被害量全体の対応関係を実証的に示す。モデル地域における氾濫抑制効果と河川事業における治水計画を組み合わせ、予測不確実性を前提とした治水システムへの貢献をモデル的に検討し、気候変動下における治水計画を踏まえた流域の氾濫抑制政策を提言する。

サブテーマ4「農地の機能へのコベネフィット評価」
サブテーマリーダー 馬場 友希(農業・食品産業技術総合研究機構)
令和2年度: モデル地域において、耕作放棄地や環境配慮型農地の空間配置を把握すると共に、放棄地や環境配慮型農地における益虫の個体数や多様性を評価するための調査手法を検討する。
令和3年度: 前年度に検討した調査手法を基に、益虫の個体数や多様性を評価し、個々の耕作放棄地や環境保全型農地のもつ益虫供給機能を評価する。また農地および放棄地の空間配置の違いに伴う益虫供給機能の変化も評価する。
令和4年度: サブテーマ2で扱う水質浄化効果・生物多様性保全効果などの複数の生態系サービスと益虫供給機能との関係を解析することにより、環境保全と農業を両立するための適切かつ現実的な農地管理案を提言する。

今年度の研究概要

サブテーマ1「適応力の定量化手法をサブテーマ2〜4で扱うモデル地域の生態系を含む複数の生態系に適用し、理論と手法を改善する。」
サブテーマ2「多様な特徴をもつ湿地の環境と生物分布を地図化し、気候変動の影響を予測するとともに、適応力評価を試行する。気候変動適応のコベネフィットについて治水と農地の機能以外の観点での評価軸を提案する。湿地再生事業を継続する。」
サブテーマ3「「流域氾濫モデル」をベースに、サブテーマ2で扱う水質浄化効果の観点や生物多様性保全効果も考慮できるものにする。予測される氾濫特性と上記の様々な機能とを関連付ける。」
サブテーマ4「前年度に検討した調査手法を基に、益虫の個体数や多様性を評価し、個々の耕作放棄地や環境保全型農地のもつ益虫供給機能を評価する。また農地および放棄地の空間配置の違いに伴う益虫供給機能の変化も評価する。」

外部との連携

共同研究機関は以下の通り。
土木研究所、農研機構、山梨大学、東邦大学、千葉県環境研究センター

課題代表者

西廣 淳

  • 気候変動適応センター
  • 副センター長
  • 博士(理学)
  • 理学 ,生物学
portrait

担当者