環境化学物質の『多世代にわたる後発影響』の機序に関する研究
国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-126-2017
近年の研究から、胎児は化学物質に対する感受性が高いこと、胎児期に母親の体内で化学物質に曝された影響が成長後に「後発的」に顕在化する事例があること、さらにその影響が生殖細胞を介して次の孫世代やさらにその後の世代に伝わり、同様に各世代の成長後に後発的に影響を及ぼす可能性があることが指摘されています。このような現象の主な原因として、化学物質が「エピジェネティクス」という仕組みに作用して遺伝子の働き方を変化させること、さらにその変化(エピジェネティック変化)が生殖細胞を介してその後の世代に受け継がれて後発影響をもたらすことが示唆されています。しかしこのような現象の理解に必要な具体的なメカニズムはまだ明らかにされていません。
エピジェネティクスは植物から動物まで共通する部分も多く、化学物質曝露によるエピジェネティック変化が後の世代まで伝わるという現象も、ミジンコからマウスまで多くの種にわたって報告されています。そこで本プロジェクトでは、「多世代にわたる後発影響」という新たな概念について、国立環境研究所の健康影響および生物影響研究に携わるメンバーがエピジェネティクスの解析手法を共有することによって、マウスにおけるメカニズム研究、およびミジンコを用いた生物試験の新たな影響指標に関する研究を行いました。
これまでの研究で、妊娠期のマウスに環境汚染物質である無機ヒ素を含む水を飲ませると孫世代雄の壮年期に肝腫瘍発症率が増加するという現象を明らかにしていました。本プロジェクトではその孫世代での肝腫瘍増加の形質は雄の子から孫世代に伝わることを明らかにし、さらにエピジェネティクスの仕組みの一つであるDNAメチル化の変化と遺伝子発現や体細胞突然変異との関連を検討してメカニズムの解明に関する研究をすすめました。またミジンコを用いた生物試験では、LC-MS/MSを用いてメチル化DNAの精密定量を実施し、6メチルアデニンをミジンコで世界で初めて検出し定量しました。この方法を用いることによって、DNAメチル化を指標とした各種化学物質曝露の多世代試験の解析が可能となります。
化学物質曝露の多世代影響に関しては、危険性を看過することなく、現象を理解し正しく評価するための研究データを積み上げていきたいと思います。