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南極昭和基地からの便り

海外からのたより

清水 明

 昨年、日本を出てから11か月余りになりますが、皆様いかがお過しでしょうか。こちらでは大気微量成分の観測を担当しており、地上での一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、窒素酸化物とオゾン濃度などの連続測定、成層圏での分光器による二酸化窒素とオゾンの観測、β線方式あるいはハイボリュームサンプリング装置などを使用したエアロゾルの観測や、地上大気のボトルサンプリング、航空機による大気の鉛直サンプリングなどを行っています。これらの測定装置のご機嫌を伺いながら毎日を過ごしていますが、中でも航空機による大気の鉛直サンプリングは、他の測定項目とはかなり趣を異にする、極地そのものを堪能できる仕事です。これは、月に1度小型の単発機で7,000メートルから1,000メートルまでの間を、順次1,000メートルずつ下降しながら機外の空気を1リットルほどのガラスのボトルに2気圧で加圧サンプリングするものです。ただし、今の時期は上空が冷えており燃料が凍結するおそれがあるため、約6,000メートルが限度となっています。最高高度まで上がると機外は−50℃近くまで下がりさすがに寒く、羽毛服を着込んでダルマのように丸くなっていても、足から深々と冷えてきます。更に酸素マスクを付け、ボトルの破裂に備えてメガネをかけ、レシーバーとマイクを付けてパイロットと連絡を取りながら作業を行います。機外の風景は大変美しく、また比較する人工物がないためそれほど高いという感じはありません。この観測は特に快晴をねらって行いますが、全般にこちらでの観測や生活は天気に大きく左右されます。気を使うのが地上大気のボトルサンプリングで、基地活動による排気の影響を受けない風向きで、降雪や地吹雪がなく比較的空気が乾燥している日を選んで行います。しかしこれが中々難しく、もう少し条件が良くなるかと思って待っていると天候が急変して機会を逃すこともあります。

 今年は天候が不順でブリザード(吹雪とブリザードの違いは視程と平均風速の継続時間で決める)が多く、9月末までに24個襲来しています。特に7月は9個も襲来し、月間18日もブリザードに悩まされました。昭和基地の越冬隊員数が30を越えるので、洒落に皆でブリザードに名前を付けています。名前は隊員の奥さんや恋人のものが多いのですが、中には”静香”や”ノリピー”と言ったものもあります。

 また、今年は太陽活動が盛んな年で夜はオーロラが良く出て、時として淡い光の帯が一方の地平から反対側にまで達する雄大なものが見られます。色は暗いのでほとんどのものが白にしか見えませんが、明るいものではかすかな緑や赤が見られる事もあり、動きは割合早く、見る間に形が変化していくのが分かります。

 さて、こちらの寒さもようやく峠を越したようで、9月下旬の平均気温は−19℃程度になり底を過ぎて上昇に転じており、基地ではペンギン調査や内陸旅行などの野外活動も盛んに行われるようになってきました。基地での生活も落着きこれからが面白い季節になってきたものの、来月中旬には32次隊が日本を出発し、我々が基地で活動できる時間はあと4か月足らずになりました。意外に早い時間の経過に多少焦りぎみではありますが、残る期間を再度気を引き締めて仕事に取り組もうと考えています。研究所の皆様も健康に留意され大きな転回点を乗り切られん事を、オーロラが燃える酷寒の地からお祈りしております。

(しみず あきら、社会環境システム部情報解析研究室)