タバコのけむりと室内汚染
研究ノート
小野 雅司
タバコのけむりが人の健康に有害であることは明白な事実である。喫煙者本人の肺がんリスクの増加は言うにおよばず、夫の喫煙による妻の肺がんリスクの増加や両親、中でも母親の喫煙による児童の呼吸器症状有症率の増加といった受動喫煙の影響など、数多くの報告がなされている。一方、タバコ煙への暴露についてみると、少数例を対象に実験的に確かめられているだけであり、一般家庭内で喫煙に伴いどの程度室内の空気が汚染されるのかといった基礎的な情報は少ない。私たちの研究グループでは、ここ数年来、幹線道路沿道における局地的汚染の問題に取り組んできており、その中で、新たに製作したポータブルタイプの粉じんサンプラーを用いて、一般家屋内の浮遊粒子状物質(SPM)濃度を測定してきた。ここでは、沿道汚染の問題はひとまず横におき、一連の調査により明らかになった、喫煙と室内汚染の関係を紹介する。
開放型暖房器具及びガス調理器具と共に室内における主要な汚染質発生源である喫煙によりSPM中の微小粒子濃度が有意に上昇することが明らかになった。そこで喫煙と微小粒子濃度の関係を具体的にみていく。図のように、室内の微小粒子濃度に対する喫煙の影響は季節あるいは家屋構造によって大きく異なり、最も影響の大きい冬季の鉄筋家屋で微小粒子濃度はタバコ1日20本当たりおよそ100μg/m3上昇する。一般大気環境濃度(東京都区内のSPMの年平均値49〜74μg/m3)と比較してこの値の大きさが想像できよう。このような現象は家屋の気密性によるところが大であり、裏返せば、室内発生源由来の汚染質については十分な換気により室内濃度の低減が可能なことを示している。
なお、タバコ煙の影響評価に際しては、重量のみならずその成分、室内濃度と個人暴露との関係、さらには沿道汚染等を含む総合的な観点からの検討が必要であることは言うまでもない。
以上紹介した、喫煙によるSPM濃度の上昇は、開放型暖房器具やガス調理器具による二酸化窒素濃度の上昇とともに、室内汚染を考える場合に重大なかく乱要因として働き、沿道汚染の実態把握を困難にしていることを最後に付け加えておく。