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環境情報の視覚表示システムの開発

経常研究の紹介

須賀 伸介

1.はじめに

 環境科学の研究においては種々のデータの分析が重要な役割を演ずることは言うまでもない。特に近年脚光を浴びている地球環境問題の研究では、過去に測定された大気、海洋等の多量のデータを分析して現象のメカニズムを解明したり将来の予測を行ったりすることが重要なテーマとなる。ところで、データ量が多くなればなるほど、データを効率的に処理することが可能なシステム、言い替えればデータの分析や解析を効率的に支援するシステムが必要不可欠である。我々はこのようなシステムの一つとして、近年急速な進歩を遂げている3次元コンピュータグラフィックスを利用したデータの視覚表示システムの開発を行ってきた。複雑なデータを分かりやすく目に見えるようにすることは、研究も含めて環境問題を考えるときに有効であると考えられる。また、データの特徴を考慮した表示システムを開発すること自体、情報科学の分野において重要な研究テーマである。

2.海洋環境データの表示

 現在までに開発したシステムは、Levitus海洋気候値と呼ばれる全世界の海洋データの表示を対象としたものである。このデータは経緯度1度ごとの水深方向33地点における水温、塩分と溶存酸素量から成る。データ値としては年平均値を採用している。図1は表層面の水温値を色を変えて表示したものである。水温値の範囲は−2℃(濃い青で表示)から30℃(赤で表示)である。エルニーニョ現象がおこる南アメリカのペルー沿岸の水温が低くなっていること、北極から冷たい水が北大西洋の沿岸に流れ込んでいることなどがよく分かる。図に示されている球面は回転することが可能である。このような表示によって全世界の水温の状態を容易に理解することができる。

 図2で赤く示した部分は、赤道から北緯63度、東経120度〜西経3度の海域で塩分の値が34.0〜34.1の海水領域を3次元的に表示したものである。縦方向が水深方向、グレーで示した部分は海底地形である。この海水領域は北太平洋亜寒帯中層水と呼ばれ、水深方向に関して塩分の最も少ない領域(極小層)である。この領域は、日本列島から東に向けて北緯40度付近で鉛直下方に分布し、800m深付近で南北に広がって行くなど、かなり複雑な分布を示す。海洋特性量をこのように3次元的に表示することは、海水の循環を目で見て理解する上で非常に有効であると考えられる。

 ところで、この図をコンピュータで作成する場合、数多くの立方体を書きながら全体の表示を行っていく。また、必要とするデータの容量は非常に大きい。従って、単純な方法を取ると処理時間が膨大になり実用的なシステムとは言えない。そこで我々は階層的データ構造を利用した表示手法を採用してこのように複雑な領域でも効率的な処理が可能なシステムを作成した。この方法の特徴は広い領域は一つの大きな立方体で、複雑な形状を示す小領域は小さな立方体で表示を行うところにある。また、この考え方を応用すれば表示に必要なデータ量を節約することが可能となる。

 今回作成したシステムは若干の修正を行えば、大気データ等ほとんどの環境データに適用することが可能であると考えている。

(すが しんすけ、社会環境システム部情報解析研究室)

図1  海洋の水温データの表示
図2  塩分の値が34.0〜34.1の海水領域(赤い部分)と海底地形(グレーの部分)の3次元表示